マシーン日記、ハマりにハマって結局6回も行ってしまいました。
京都って微妙に遠いので、1日2公演観た日も2回ありました。
後悔は全くしていません。むしろもっと観に行ってもよかったとすら思っています。
感想や考察を書きたかったんですけど、その前にあらすじを書いておこうと思ったら3万字越えしてしまったので、こちらに別で投稿しておきます。
私はメモをしないタイプで、戯曲本も買っていないのでかなりあやふやな部分もあるかと思います。ご了承ください。
(というのを書きながら、2021の戯曲本が普通に売っているのを知ってポチりました)
舞台はセンターステージ形式。
ここはツジヨシ兄弟電機の工場内である。
中央の円形のステージはミチオがサチコを強姦した現場であり、兄に監禁されることになるツジヨシ兄弟電機のプレハブ小屋、第二作業所だ。様々な物が収納されることなく床の隅に置かれっぱなしになっていて、囲いのないトイレが1つある。
その周囲と上手・下手に伸びる通路は第一作業所になっていて、機械のスイッチのようなものが四隅にある。第二作業所のすぐ隣の一角には石垣の池のようなものがある。客席の壁にはプロジェクターで歯車が映されている。
開演
雨が降っている。
プロジェクターで投影される文字とミチオのナレーションで日記のように、1年前の夏、離れのプレハブ小屋でミチオが哀れな女工(=サチコ)を強姦したことが説明される。
薄暗いプレハブ小屋の中に下着姿のミチオとサチコがいる。
サチコは表情もなく床に仰向けに寝そべっていて、ミチオは椅子に座ってサチコを見ながら塩むすびを食べる。
サチコの方にミチオが塩むすびを転がすと、動かないサチコの元に転がっていった。
サチコはゆっくりと起き上がり、しゃがみこんでおにぎり食べ始める。
会話はない。
ミチオはふと体をかがめてサチコの顔を覗き込み、ふざけるように舌を出す。それを見てサチコは笑う。
下手からレインコートを着た兄・アキトシが懐中電灯を持って、第二作業所にやってくる。
アキトシの懐中電灯にミチオの顔が照らされる。
逃げるミチオをアキトシは追いかけ、殴る蹴るを繰り返す。
激しい雨と雷の音が鳴っている。
なんとか逃げ回って第二作業所のドアを閉めたミチオは息が上がっている。サチコはその様子を心配そうに見ているように見える。
そこに逆側のドアからアキトシがやってきて、「ミチオー!」と叫びながら、油断しているミチオを羽交い締めにする。ミチオの絶叫。暗転。
ミチオの日記の形で、兄はミチオが強姦した責任をとって女工と結婚したこと、ミチオが現在監禁されていることが説明される。
場面2
セミの鳴く真夏の朝。
ミチオは窓とカーテンを閉め切って薄暗い第二作業所で、作業用の保護ゴーグルをかけたまま眠っている。
アキトシが下手側から何かを入れたビニール袋を提げてガリガリ君のようなアイスを齧りながらやってくる。
途中で第二作業所横の池のようなスペースをアキトシが覗き込むと、ドボンと何かが跳ねるような音がして、アキトシはソイツに対して唾を吐く。
第二作業所に入ってきたアキトシは、カーテンを開けてミチオを起こそうとするが、なかなか起きない。アキトシは眠っているミチオを何度も自然なことのように蹴るが、動じないミチオは眠ったままアキトシの開けたカーテンを閉める。
アキトシは普通に「おい起きろ」とは起こしたくないらしく、色々と起こし方を工夫する。
その中でアキトシはカーテンを開けて、ミチオに対して「ジャングル風呂だー!」と叫んで起こそうとする。どうやら昔ツジヨシ家はみんなでジャングル風呂に行ったらしく、ライオンの口からお湯が出ているのを見てミチオが泣いていたらしい。アキトシによれば「あれは家族だったなぁ、ライオンの口からお湯が出てるぅちゅうて弟が泣くのは家族だった」らしい。しかしミチオは、アキトシいわく「ハードコアパンクのボーカル」のように呻きながら、再びカーテンを閉める。
「雄叫ぶな、人間らしい返事をしろ」と言うアキトシに、まるで返事をするかのように屁をこく。ミチオの屁は止まらない。アキトシはミチオの屁を「抽象画のような世界観のある臭さだ。一日中プレハブの中にいるのにどうしてそんな岡本太郎みたいな屁がこけるんだ」と表現する。
ミチオは寝たままアキトシの開けたカーテンを閉める。アキトシは「暗い!臭い!暗い&臭い」と言いながら、再びカーテンを開ける。ミチオに向かってアキトシは「暗闇が臭いのって経験なくて兄さん不自然に胸がときめきそうになった」と語りながら、突然ミチオの胸ぐらを掴む。「俺初恋とかしたことないけど、これがそれならすっごい損した気分だぜ!」と怒鳴るが、ミチオは起きない。むにゃむにゃ言いながら床に寝そべるミチオに、アキトシは「かわいいねぇ、むにゃむにゃ言って、かわいくねぇ!日本語喋れ!」と言いながら顔を蹴る。
アキトシがミチオにすがりつき、「兄として最低限のお願いだ、日本語を喋ってくれ」と懇願するが、ミチオは寝ぼけたまま動き始める。
ミチオが伸ばした手を下ろすとラジカセの再生ボタンが押され、アフリカあたりの民族が打楽器で演奏していそうな音楽が流れ始める。アキトシが「ボックス踏んじゃお」と言いながら踊っていると、ミチオは寝たままコーンフレークを頭から被るように食べ始める。
アキトシが「お前は信じがたい行動をとるな!朝一番に乾き物に手を伸ばす人間を兄さん初めて見た。このクソ暑い真夏の朝に、普通喉が渇いてるもんじゃないのか」と驚くが、さらにミチオは大量のコーンフレークを顔面にぶちまける。「喉に詰まらせて死ぬぞ!兄さんそんな凄惨な事故現場見たくない!」とアキトシが言っている中、空になった箱を捨てたミチオがまるで音楽に合わせるように缶コーラを全力で振り始める。「おいおい嘘だろ!30何年間生きてきてコーラの飲み方も知らねえのか」とアキトシが困惑する中で、ミチオはコーラを顔面にぶちまけて飲む。まだ起きていない。
アキトシが思わず「どこの部族の儀式だー!」と叫びながら、ミチオをビンタして「おい起きろ」と言うと、ミチオはようやくゴーグルを外す。さっきまでの寝起きの悪さが嘘のように「おはよー!」と陽気に告げる。
結局アキトシはミチオに対して「おい起きろ」という普通の起こし方をしてしまったのだ。どうやらそれがいつものことらしい。アキトシは「かつて大田区のシドビシャスと呼ばれたこの俺が」普通のことをしてしまったことに落ち込む。
ちなみに、部族の儀式のような野蛮なコーラの飲み方をするミチオをアキトシは「東京モード学園」に例える。「あんなエヴァンゲリオンに出てきそうなビルの中で正気保ててる奴の気が知れねえ」そうだ。
朝ごはんは第二作業所でいつも3人揃って食べているらしい。
ミチオが「サチコ来るんだろ?」とアキトシに聞くと、アキトシはミチオをビンタする。
アキトシはミチオに対して兄の妻を呼び捨てにするなと何度も言っているが、ミチオはずっとサチコと呼び続けているらしい。
「サチコ姉さん来るんだろ?」とミチオがわざとらしく言い直すと、アキトシは「来たらなんだ、また犯すんか」とミチオに問い詰める。
サチコが和食の朝ごはんの乗ったお盆を持って第二作業所の近くまで来ている。ミチオとアキトシが揉めているのを聞きながら、アジの味醂干しを作業所横の池に入れようとしている。
痛いところを突かれたミチオは、黙り込んでアキトシに向かって屁をする。
「臭い!さっきより心なしか水っぽくて怖い!」と言いながら屁の匂いを消すために窓を開けたアキトシは、サチコを見つける。
アキトシがサチコに対して高圧的に「何やってんだ」と聞くと、サチコは「虫太郎に餌をやろうと思って」とビクビクしながら答える。
アキトシが「人間の餌が先だ」と言うと、サチコは「また長くなると思ったから」と小さな声で返す。
朝ごはんをミチオが「さっさと片しちまおうぜ」と言うと、アキトシは再びミチオを殴る。
「片すとか言うな、団欒を噛み締めろ」とアキトシは怒っているが、ミチオも負けじと「今日新しいパートのおばさん来るんだろ?のんびりしてて良いわけ?」と反論する。
再び揉めそうになったところから逃げるように、ミチオはこれ見よがしにラジカセのスイッチを入れる。
「フクシマハルオ」と名乗る人物の朝のラジオ番組のような音声が流れ始める。それを聞いたアキトシは、まるでラジオに対して敬意を示すかのように背筋を伸ばし、サチコもそれに倣う。
ラジオ体操のように「宇宙体操」という名の爽やかな音楽が流れ始め、アキトシは体操に真剣に取り組む。サチコもアキトシの様子を恐る恐る見ながら宇宙体操を行う。
ようやく平穏になったところでミチオはきゅうりの漬け物と味噌汁を全てご飯にかけてかき込んでいく。
宇宙体操がひと段落して、アキトシはサチコに対して今日の朝ごはんはなんだと聞く。
「おみおつけとおしんこと白ごはんとアジのみりん干し」だそうだ。
サチコはアキトシに対して「いつも芸がなくてすいません」と謝るが、アキトシは「187センチ72キロの人間にぴったりの食事だ」とサチコの頭を撫でくりまわしながら庇う。サチコは怯えているように見える。
「等身大の食事をせえ」というのは、フクシマ先生の教えだという。アキトシはミチオにフクシマ先生の教えを吹き込んだテープのようなものを渡しているらしい。ミチオはテープを「ぼちぼち」聞いているという。
アキトシはサチコを撫で回しながら「お前も早く集会に来れるといいねぇ、早く仮釈放をあげたいねぇ」と言っている。
ひたすら食べ続けるミチオに対して、何か気づいたようにアキトシは「いただきますは?」と催促するが、ミチオは無視して食べ続ける。
「おいおいミッチーミッチー、いただきます、は?」と再び促すと、ようやくミチオは不機嫌そうに「いただきます!」と大声で言う。アキトシはおもむろに立ち上がって、アキトシはプレハブ内のトイレの蓋を開けて、大便をしようとする。
食事している横で大便をされては堪らないとミチオがなんとかアキトシをプレハブから追い出した。
ミチオとサチコが2人きりになる。
ミチオはアキトシが持ってきたビニール袋を示して、サチコに「それ、今日の分か?」と尋ねる。ビニール袋にはミキサーが入っている。サチコはミチオにミキサーを修理して欲しいということを伝える。
ミチオはサチコに「兄貴ここんとこまたこれだな」と手を斜め上に挙げるジェスチャーでなにかを示す。サチコには伝わっていて、サチコは「これ」になってしまっているあの人が怖いとミチオに訴えるが、ミチオがそれに対して何かを言うことはない。
しばらく2人は食事をする。
いきなり「おい!」とサチコを大声で呼んだミチオは、再びサチコの顔を覗き込んであの夜のように舌を突き出す。
ミチオとサチコは2人でゲラゲラ笑い始め、センターステージが音楽と共に回り始めて、朝の場面は終わる。
サチコは朝食を下げる。上手から派手な格好に身を包み、左腕に刺青を入れ、ツーブロックヘアの女・ケイコがウーバーイーツのリュックサックを背負って第一作業所を歩き回り、下手にはけていく。
場面の中心はセンターの第二作業所ではなく、その周囲にある第一作業所に移る。
ミチオはミキサーを修理している。
アキトシが工場のスイッチを入れ始める。少し遅れてやってきたサチコに、「エッジの効いたパートさん」がやってくると伝える。
とはいえアキトシは高卒の自分が大卒の人間を雇うことに優越感を感じていると言う。
アキトシはサチコに「お前もエッジを効かせてみろ」と無茶振りをして、必死にエッジを効かせようとするサチコをしばらく見てから「もういいよぉー、可哀想だよぉ」と言いながらサチコを後ろから抱き上げて一周する。サチコは悲鳴を上げ、そのままバランスを崩して床に倒れてしまう。アキトシがサチコのことを心配する様子はない。
アキトシは「大卒のカゲヤマさーん、着替え終わったら第一作業所の方まで来てくださーい」と呼びかける。アキトシはサチコに対して、今は敬語だが徐々に取り込んでいくつもりだという計画を話す。サチコはそれに対して「アイアイサー」と返事をする。アキトシは何度も聞き返してサチコに同じことをやらせるが、最後に何やってんだとサチコを殴る。
アキトシはサチコに新しいパートさんの指導を任せる。ちなみにサチコが「大卒に舐められないように」アキトシは工場内に「有線を引いといたっす」と言う。
アキトシが有線のスイッチをつけると、マイケルジャクソンのsmooth criminalが流れ始める。「お前に学歴はあげられないけど、音量は上げられるからよ」と言って爆音で音楽を流し、踊りながらアキトシは去っていく。
サチコは「怖い」と言いながら、有線の音量を下げる。
そこに紫の作業着を着たカゲヤマケイコが「何が怖いの!」と言いながらやってくる。ケイコはサチコに「お久しぶりね、3年2組サメジマサチコさん」と声をかける。
サチコはその姿を見て「カゲヤマ先生!」と呼ぶ。
ケイコはサチコの中学時代の担任で体育の教師であり、恩師であるらしい。
そんなケイコに再会したサチコは少しテンションが上がっていて、「先生のこと一度も忘れたことはありません」と話すが、ケイコは今まで誰かに忘れられたことがないので驚かないと返す。それに対してサチコは「真逆ですね」と言う。
ケイコが「真逆?」と聞き返すと、サチコは「別に、180度違うっていうアレです」とボソボソと説明する。
ケイコによると、ケイコがサチコの働くこの工場にやってきたのは偶然だそうだ。
作業を始めるためにサチコが機械のスイッチを入れると、ケイコのテンションは異様に上がる。機械が好きらしい。ベルトコンベアも初めて見たそうだ。しかしサチコが指導するまでもなくケイコはベルトコンベアに流れてくる部品を手際よく組み上げ、サチコが完成するまでに1ヶ月かかったと言う代物をわずか1分ほどで完成させる。
「やっぱりすごいです!」とテンションの上がったサチコは、「さぁ、始めるわよ」とケイコのモノマネをして懐かしがる。
サチコは中学時代ケイコに放課後4時間吐くほど走らされていたらしいが、なぜか楽しそうにそれを語る。サチコは「今私がのうのうと生きていられるのは先生のおかげです」と話す。その中で、サチコは一緒に放課後走らされていたマツザワくんのことを思い出す。サチコとマツザワは文通をしていたが、突然連絡が取れなくなったらしい。ケイコはマツザワがどうしているかは知らないと言う。
ケイコはサチコの話を適当に聞きながら、「第二作業所は何をする場所なの」と聞く。
サチコは主人の弟が1人で電気修理をやっていること、その弟がろくでもない人間であることを話す。
ケイコは「ろくでもない」と言う言葉に反応するように、ミチオに突然興味を持ち始め、どういう部分が「ろくでもない」のかを問い詰め始める。
サチコは屁をブーブーこきまくる、コーラを飲んでお尻がバカになっている、プレハブに住んでいる、月収3万円である、外来種の大型ネズミであるヌートリアのような緩慢な動きをする、コーラを飲むときに左手が必ずパーになる部分がダメだとケイコに語る。
それを聞いたケイコは「ちょっと待って、想像してみる」と言って、左手をパーにしてコーラを飲む動作をする。連動するようにプレハブ内でもミチオが左手をパーにせずにコーラを飲もうとするが、床に倒れてしまう。ミチオは悔しそうに「クソォー!」と叫ぶ。ケイコはどこか嬉しそうに高笑いしながら「それはダメね」と蔑む。
サチコは「行ってみますか?」とケイコに提案し、2人は昼休みに第二作業所に向かう。
ツジヨシ兄弟電機の昼休みは20分間で、遅れると時給に響くそうだ。
ミキサーの修理を終えたミチオは、床の隠し扉から謎のボックスのような機械を出し、蓋を開けてアンテナを立ててヘッドホンをつけて操作をする。何かの音が流れ始めるとミチオは股間に手を置きながら身体をくねらせ声を漏らす。
サチコとケイコがプレハブのドアを開ける。2人が部屋に入ってきたことに、ミチオは気が付かない。ケイコによるとプレハブの中は「柔道部の熱気」だそうだ。サチコが音声に夢中になるミチオに「ミチオさーん」と声をかけると、ミチオは焦ったように機械の蓋を閉め、「勝手に入ってくんな!」と怒鳴る。
サチコが「開けたのよ〜」と言うと、ミチオは「開けたのよ〜!ってどういうことだ、このバカ女、殺すぞ!」とサチコに向かっていく。
サチコはどこか強気でミチオに対して「怖くないよ〜」とバカにすると、ミチオは「殺すつってんだろ」と殴りかかるが、サチコがプレハブの外に出ると鎖が伸びきってミチオは倒れてしまう。
殴れずに悔しがるミチオをサチコが笑い物にしていると、ケイコはミチオの髪を掴んで顔を上げさせる。
ケイコの存在に気づいたミチオは、パニックになったように急いで起き上がって、「誰⁉︎誰なの⁉︎知ってる人⁉︎知らない人⁉︎誰なわけ!」とプレハブに逃げ込む。
しかしケイコがプレハブの中に入ってくると、ミチオは怯えるのをやめて勝手に入ってきたことに怒って殴りかかる。だが、ケイコに触れることもできずにあっという間にいなされてしまう。
サチコは「先生はあんたなんか一飲みなんだからね!」と言うが、ケイコは「飲みゃしないわよ」と冷静にツッコむ。
調子に乗るサチコにミチオが「調子に乗るな!このアマ!」と蹴りを入れると、今度はケイコがミチオの首を掴んで締める。
サチコは「あと5秒であんたの首を折るわよ」と言って格闘技の審判員のように床を叩きながら5カウントを始めるが、ケイコは「折らないわよ」とツッコむ。サチコはそれを無視して再びカウントを始めるが、ケイコは「だから折らないつってんでしょ」と言ってミチオから手を離す。
ケイコはサチコに「あたしのことなんだと思ってんのよ」と聞くが、サチコは「えへへぇー」と笑って誤魔化す。ケイコはミチオと「新しい職場で友達になりたいだけ」らしい。それを聞いたミチオは目を丸くし、サチコは新喜劇のように1人でずっこける。
ケイコがプレハブ内のあまりの暑さに上着を脱ぐと、ミチオは「おい着ろよオバハン」と怒るが、ケイコは気にしない。ケイコは置いてあるコーラを飲むが、ぬるさに驚いて飲むのをやめ、窓の外の池に投げ捨てる。
ケイコは「基本的なこと聞くけど、どうして鎖で繋がれてるわけ?」とミチオに聞く。なかなか答えようとしないミチオに、ケイコは上着を回し始める。ミチオが「回すなよ!話していいのか⁉︎おい女!」とサチコに呼びかけるが、サチコもそれに乗っかってタオルを回し始める。ミチオは三半規管が弱く、回されるのが苦手らしい。
2人に上着とタオルでバシバシ叩かれながら追い詰められて「話すよ!」と言ったミチオだったが、「今から話すのはすげえ話だ、五体満足な成人男性が鎖で繋がれているなんてすげえ話だろ?」と言って、ミチオはサチコとケイコの聞く態度を見て覚悟がなっていないとビンタする。どうにも屁理屈ばかりで話が進まない。ミチオの話は続き、「俺を軸にして考えてみよう、俺がいるな、足が生えているな、そこから鎖が伸びているな、俺はほんっとに繋がれてるのかね!もしかしたら俺がプレハブを繋いでいるのかもしれないよ?だとしたら君らがプレハブプレハブ言ってること自体怪しくなってこない?これは本当にプレハブなのかね、試しにちょっとここを吹いてみよう」とプレハブの床から伸びる配管に口を当てると、ハーモニカの音が鳴る。ミチオは田村正和のモノマネで、「プレハブからぁ、ハーモニカのような音がなりましたねぇ、てことはこれはぁ、ハーモニカなんでしょうかぁ?」と言って、「ハーモニカを繋いでる男、てことは俺長渕剛じゃね!」とをギターに見立てて長渕剛のモノマネをしながら歌い始める。
だから私の恋はいつも
巡り巡って ふりだしよ
いつまでたっても恋の矢は
あなたの胸にはささらない
結局理由には全く触れないまま話が終わり、ケイコはわざとらしく大きく拍手をする。サチコも拍手を始め、困惑しながら照れるミチオに、ケイコは「それで、結局どうして繋がれてるの?」と尋ねる。「聞いてなかったんかい!」と言うミチオに、ケイコは「みんなそうだと思うけど、聞いてる途中で迷子になったわ、恐ろしくクオリティの低い田村正和のあたりからもう一度説明してくれるかしら」と冷静に言う。「勘弁してくれ、あれは見切り発車だったんだ」と嘆くミチオに、ケイコは「長渕もひどかったわよ」と言う。そんな中、工場のサイレンのような音が鳴り始めると、サチコが焦り始める。「昼休みが終わります!戻りましょう!」と言っているサチコを、ミチオは聞いておらず、「えぇ⁉︎むしろ長渕の方が自信あるんですけど」とケイコに訴えている。
サチコは「ここに来たことがバレたら殺される」と怖がっているが、ケイコは動じない。
突然ケイコの身体からジージー何かの音楽のようなものが鳴り始める。ミチオは怯えながら、「なんだこのオバハン!なんか音鳴ってんぞ!」と後ずさる。ケイコがポケットから携帯を取り出し、「携帯よ」と言うが、ミチオは「携帯がジージー言うかよ!」と返す。
「出ろよ」とどこか怖がっている様子のミチオに対し、ケイコは「コ・ド・モ」と返す。
「どうして子供よ」とミチオが聞き返すと、ケイコは「ド・コ・モ」と言い、ケイコにバカにされてキレたミチオはケイコに殴りかかる。
相変わらずミチオはケイコに全く歯が立たない。工場から再びサイレンとのような音が鳴り始める。サチコは「時給が減る」と地球儀を見せながら、ケイコに必死に帰るように訴え続ける。
やられながらもミチオはケイコの携帯を取り上げ、ケイコに携帯を見せつけ、「俺が一晩で直しておいてやる」と告げる。
ケイコは「いいのね?私またここに来るのね」と言って、「先生!時給が下がります!」と言い続けるサチコの説得に応じて去っていく。
辺りは暗くなり、夜が来た。再び場面の中心はプレハブではなく第一作業所に戻る。
天気が怪しく、雨が降りそうな気配がしている。
ケイコとサチコが懐中電灯を持って第一作業所にやってきている。
第二作業所ではミチオが携帯電話を修理している。
ケイコがサチコに仕事から離れたところで工場を見たいと頼み込んだようだ。
サチコは相変わらずアキトシに見つかることに怯えており、ケイコの言うことを聞きながら恐る恐る機械のスイッチを入れていく。
ケイコは「機械って面白い」と興奮し、機械フェチの一面を見せる。
サチコは再びケイコに中学時代の話をする。中学時代にケイコはサチコをいじめから救ってくれたようだ。サチコがその時の感謝を伝えると、ケイコは「じゃあ恩売るわよ」「恩が恩のまま放っととかれるのって健康に悪いって感じしない?」と言い始める。
サチコは自分に恩を売るために工場に来たのか?と聞くが、ケイコは「じゃああたしあんたに恩売るために学校辞めて工場に働きにきたの?それってすっごいバカバカしい、偶然よ」と主張する。
話はケイコが学校を辞めた理由になる。
ケイコには「給与が曖昧な感じ」が合わなかったそうだ。ケイコはサチコをいじめから救うのも担任の仕事だと思ったからやったそうだが、報酬が出たわけではなかった。サチコは体育教師を「立派な仕事です」と言うが、ケイコは「聖職とか、我が師の恩とか、そういう曖昧なもので誤魔化されてる」と続ける。またケイコは工場で働く前はウーバーイーツでも働いていたそうだが、それもチップがあるとかないとか「曖昧だった」そうだ。工場で働くことは「その点時給制、最高!」らしい。
なぜ曖昧な給与が嫌いかと言うと、「根っからの理数系」だかららしい。
サチコが全てのスイッチを入れると、ケイコは興奮したように機械に数値を入力することで機械の指令で働けることの喜びを1人で喋り続け、サチコは去っていく。
ケータイの修理を終えたミチオは、意味深にニヤリと笑う。
再び謎の機械の蓋を開け、つなぎの袖を腰で結び、アンテナを立ててヘッドホンをつけ、何かの音声を流し始める。
床に仰向けに寝転んだミチオは股間と口元にそれぞれ手を置きながら、体を震わせる。
雨が降ってきた。雷も鳴っている。ミチオは腰を浮かせる。
ケイコがドアを開けると、ミチオはまた勝手に開けられたことにキレる。ケータイを取りに来たと言うケイコに「一晩で直すっつっただろ」と殴りかかろうとすると、ヘッドホンの線が抜けて、ミチオはケイコに突き飛ばされる。
ヘッドホンが抜けた機械からは女性の喘ぎ声のようなものが流れ始める。ミチオは焦って機械を閉じ、なぜか一回り大きくなったケータイを渡す。
ケイコが「どうして私なの?どうして私のケータイ直したの?」と聞くと、ミチオは「放っておけなかったから」と返す。「壊れた機械を見ると放っておけない」そうだ。
ケイコはミチオにコーラを飲むところを見せて欲しいと頼む。嫌がるミチオにケイコが千円を渡すと約束すると、ミチオは「サチコには内緒だからな」とコーラを飲み始めた。
バランスを崩しながらも最終的に左手をパーにしたミチオを見て興奮したケイコは、さらにもう千円あげるから手をグーにしてくれと頼む。
「クソォ、千円め〜」と言いつつも手をグーにすると、ミチオはバランスを崩して仰向けに倒れた。
ケイコは上着を脱いでミチオに跨り、騎乗位でセックスを始める。途中でミチオはタンクトップを脱ぎ捨て、自らケイコに乗りかかり、正常位、後背位と変わっていく。
外では傘を持ったサチコが工場に戻ってきている。プレハブの中には入らないが、力なく「学校行くのイヤイヤよ、男の人はイヤイヤよ、女の人もイヤイヤよ」と歌いながら歩き回る。途中で池に嘔吐し、去っていく。
セックスが終わると、ミチオは満足した様子で二千円を眺める。
ケイコのケータイが鳴り始める。ミチオは修理が上手くいったことに得意げに指を鳴らして、「出なよ」と言うが、ケイコはケータイを床に落として踏み潰す。驚いているミチオにケイコは「あたし、あんたのマシーンになる」と告げる。ミチオは笑うだけで特に返事は返さない。
ケイコが窓を開けて外を見ると、雨が上がっている。
池で何かが跳ねるように驚いてケイコは「何かいるの?」とミチオに聞く「ワニ、兄貴が地下の池でワニ飼ってんだよ」とミチオが半笑いで返す。
ミチオによると、アキトシは周期的にハイになるらしい。ケイコが「双極性障害?」と聞くと、ミチオはそんな感じだと答え、「ワニ買う病気」だと笑いながら説明する。
再び日記形式でケイコのナレーションが入る。
ケイコはミチオのマシーンになった。放っておくとオバハンと言われるので3号機と呼ばせることにした。ケイコはプレハブに引っ越し、ミチオに扇風機をプレゼントした。ミチオは扇風機の風にしばらく涙した。
フクシマハルオの「朝です。日曜日は家族と一緒に過ごしましょう」という言葉とともに始まる。
その言葉通り、アキトシとサチコはビニールプールで遊んでいる。
アキトシはホースでサチコの顔に向かって水をかけていて、サチコは苦しそうにしている。
スクール水着姿のサチコの左目や体には大きな痣ができている。
しかし、サチコが水鉄砲でアキトシやミチオに水鉄砲を撃って、「あなた〜、バーン!」「うわ死んだ!」「ミチオ〜、バーン!」「うわぁ、気持ちいー!」と2人が撃たれたごっこをする光景は、明るい平和な光景に見える。
サチコは中学時代のスクール水着と浮き輪の状態で歩き回り、「ねぇあなた、あたし中学の時プールで溺れて、先生にマウストゥマウスされたのよ〜」とケイコに助けられた思い出を話す。
水鉄砲で撃たれて倒れていたアキトシが「寝てた」と言いながら突然起き上がり、「まさかミチオの元に大卒のお嫁さんが来るとはな」と言い始める。ミチオが「嫁じゃねえ、押しかけてきたんだよ」と言うと、アキトシは「よ、プレイボーイ」とミチオをからかう。しつこくからかわれたミチオがコミック本をアキトシに投げつけると、突然キレたアキトシが「今度は手錠もつけてやろうか!」と言い始めるが、サチコに止められると「冗談だよ〜」といつものおちゃらけた様子に戻る。そのまま「朝からすた丼大盛り食って思いっきり後悔したい気分だぜ」と言い始めたアキトシは、架空の何かと戦いながらすた丼を食べるために去っていく。
ミチオはサチコに対して「ますますハイだな」とぼやく。
話はサチコが溺れた話に戻り、助けられて同級生に囲まれながら、なぜか頭の中でクラスの劇でやったオズの魔法使いのテーマ曲、over the rainbowが流れたという話をする。ケイコに何の役やったんだっけと聞かれると、サチコは「役なんかやりませんよ、だって馬鹿馬鹿しかったですもん」と答える。
さらにサチコはミチオに、ケイコが陸上でオリンピックまで行ったことを話す。結局出場できなかったと話すケイコにミチオが理由を聞くと、セックスチェックで引っかかったと話す。ケイコには4cmの未発達の男性器が付いていると言う。
ケイコがサチコに「目、どうしたの?」と聞くと、サチコは「先生には関係ありません」と言う。ミチオがサチコに「また殴られたんか?」と聞くと、サチコは笑いながら「お茶にあの薬入れてたのがバレちゃって」と話し、ミチオも笑いながら「静まる系のやつ?」と返す。
殴られながらover the rainbowを思い出したと語り、とてつもなく音痴な歌を歌い始めたサチコを、ミチオは思わず「怖えよ」と止める。
実は主役をやりたかったのかもしれないと話すサチコをミチオは「気持ちわりい、気持ちわりいよ、兄貴とSMやってる女が何が『主役やりたかったぁ』だ、虹を超えてどこ行くんだよ、ロウソクでも買いに行くんか」と馬鹿にすると、サチコは本気で「SMなんかやってないよ」と否定する。それでもミチオは「兄貴に殴られてお幸せなこと思い出す女はSMじゃねえのかよ、SMじゃ〜ん」と続け、サチコはケイコに助けを求めるも、ケイコも「SMね」と切り捨てる。
サチコは仕返しと言わんばかりに「なによ、出会ったその日のうちにセックスした2人のくせに、揺れてたわよ〜プレハブ、プレハブ揺らしていやらし〜」とからかう。
馬鹿にされたミチオは「3号機!出動!」と叫び、ケイコはロボットのように歩きながらサチコを追いかけいく。ミチオはアニメのナレーション風に「大田区に越してきたオバハンマシーンはミチオの3番目の女だったから3号機と名付けられた。ミチオの平和を守るために、ゆけ3号機、戦え3号機、燃えろ3号機」とノリノリで1人で喋っていると、アキトシが帰ってくる。
ミチオはアキトシに少し怯えているようだ。
すた丼が「開いてなかった」と話すアキトシに、ミチオは「朝8時からすた丼食いてえやつなんていねえよ」とツッコむ。
アキトシは突然声を落とし、「また疼くんだ」とミチオに話す。ミチオが恐る恐る「兄指がか?」と聞き返すと、アキトシは頷き、ミチオは「兄指、疼くんか…」と肩を落とす。
そこにサチコを捕まえたケイコが戻ってくると、アキトシはケイコに自分が「俺、昔グレてたんだ」と話し始める。暴走族をやっていたというが、よく聞くと仲間とつるんで鳥人間コンテストに出ていたという話らしい。
出場した時のグループ名をケイコに聞かれる。「小麦色の、小人」「小麦色の小人?」「本当は喝采を浴びる小麦色の小人にしたかったんだけど、長かったから喝采」「小麦色の小人は?」「そんなものはない、小人って言うほど小麦色か?」とわけのわからない返答を続けるアキトシに、ミチオは「頭だけよ暴走してたのは」と呆れる。
そしてミチオは「だいたい暴走族やってたやつがTik Tokなんてやるわけねえだろ」と、アキトシが夜中に中年男がお母さんへの感謝を言い続けるだけのTik Tokをやっていることをケイコにバラし、「それだけは言って欲しくなかった」とアキトシに首をホールドされる。
首を絞められるミチオを助けるために「やめなさい」とケイコがアキトシの耳を掴んで投げ飛ばす。ミチオに「あんたもどうして抵抗しないのよ」と言うケイコに、アキトシは「このアマー!」と言いながら襲い掛かる。しかしアキトシはケイコにあっさりと手も触れずに止められてしまう。サチコは「やめてあなた!先生手からなんか出るの!」と止める。アキトシはサチコにケイコを倒すように命令するが、サチコは渋る。アキトシに「亭主の言うこと聞けねえのか!」と言われて立ち向かおうとしたサチコも、あっさりと鼻くそで倒されて、ケイコにまんぐり返されてしまった。アキトシとサチコはプレハブから逃げていく。去り際にアキトシは「今度4人で合コンな」とケイコに言う。
ミチオはケイコに再び鳥人間コンテストの話を続ける。アキトシが鳥人間コンテストに出たのは3年前のことだった。ミチオによると、「今考えるとあの時すでに発病していたのかもしれない」らしい。アキトシは工場の余り物で作った飛行機で水面に落下したが、帰ってきた時点では「飛ぼうとしてことに意味がある」と機嫌が良かったそうだ。
しかし、放送日になるとアキトシの出番はカットされていた。ミチオは6本指が軍手もなしにカメラに映っていたんだから当たり前だと話す。それからアキトシは東野幸治を刺すためにアイスピックを持って日テレの前で待ち伏せし、不審に思って声をかけてきた警備員を刺したという。
そこでケイコの電話に電話がかかってくるが、ミチオは電話を取り上げてコーンフレークの箱の中に突っ込んでしまう。ミチオはどこか電話に怯えて焦ったような様子で話を続ける。アキトシには執行猶予がついたが、その時まだ生きていた親父が怒り狂ってアキトシを1年間プレハブ小屋に閉じ込めていたそうだ。再び電話が鳴り、焦るミチオを無視してケイコは「ちょっと出てくる」と外に出て行ってしまう。
ミチオは扇風機に向かって郷ひろみのモノマネをしながら『哀愁のカサブランカ』を歌い始める。
抱きしめると いつも君は
洗った髪の香りがした
まるで若すぎた季節にバカが増えると…
その様子は滑稽ながら、追い詰められているようにも見える。
歌い終わると、ミチオはプレハブの隅に置かれていた背広を持ち上げて、「就職決まってたのに」と膝からゆっくりと崩れ落ちる。
ミチオは窓を開けてケイコがまだ電話していることを確認し、機械を床下から取り出す。
ミチオがアンテナを立てて機械を操作すると、雑音がクリアになり、ケイコとマツザワくんと呼ばれている男の会話が聞こえ始める。ケイコの電話を盗聴している。
ケイコは夫・マツザワに離婚届を送りつけたらしい。いきなり離婚届が多くられてきて困惑するマツザワにケイコは「いけないのよ」「あなたじゃイけないの」と話す。
会話を盗聴しながら、ミチオは興奮している様子で握った手の指を口に入れたりしている。
途中で「ちょっと待って」と言ったケイコは、電話越しに「ミチオ聞いてるんでしょ」と話しかけ、ミチオは凍りつく。
ケイコはプレハブ小屋に戻ってくる。ミチオはトイレの蓋を開けて中に隠れるが、ケイコは蓋の取っ手を持って「出ろ小僧」とミチオを引きずり出していく。ミチオの上半身がほとんど出たところでケイコが「出てるぞ小僧」と言っていきなり蓋を離すと、ミチオは反動でトイレから飛び出して後ろに倒れてしまった。ケイコはミチオの機械を操作し始め、ミチオが止めようとするが、他の誰かの人間の会話が流れ始める。
ミチオはまた流れてくる音声を聞いて少し興奮した様子になる。
修理したものに盗聴器仕込んで聞いてたんでしょ?と問い詰めるケイコに、ミチオは誤魔化すようにヘラヘラしながら「音楽聞かない?」と言い始める。
ミチオがラジカセをつけると、静かな音楽が流れ始める。ミチオは「フクシマ先生ご推薦、ヒーリング音楽〜」とラジカセを持ち上げ、ケイコに聞かせる。「癒されるでしょ?」とヘラヘラと笑いながらも、思い出したように「笑っちゃいけない」と顔を引き締める。そして「さっさと癒されろよ、順番なんだよ、癒されたい奴があとつっかえってっからよ!」とケイコにキレ始め、盗聴していたことを「悪い?」と開き直る。
布に書いた手書きの地図を取り出したミチオは、近所の家で起こっている不倫や家庭内での問題といったゴシップネタを興奮した様子で「3丁目のエリート一家、木杉さん家では、生まれてきた子供の頭がちょいとコレで?家族会議の結果が全員で宗教に入るとか入らないとか!」と嬉々として解説し始める。
ケイコはゴシップには関心を示さない。「聞いてんだ」と言うと、ミチオは崩れ落ちるように座り、「眠れないから」と悲しげに返す。ケイコは「朝まで聞いてんだ」と言って、ミチオを抱きしめる。
ケイコは嬉しそうに「やっぱ最低だよ、あんた、私が見込んだだけある、男の価値のあり方なんて曖昧だけど、あんたの価値の無さはわかりやすいもの」とミチオに語りかける。ミチオは泣いている。
鎖をミチオの首の後ろに回したケイコが「イかせてよ、あんたが私をイかせてくれる限り、私はあんたの言うことなんでも聞くよ」と言う。ミチオは「俺、あんたをイかせられるのか?」と聞き、ケイコは「あたしの4cmの憎いやつに慣れてくれればね」と返す。
2人が立ち上がると、突然ミチオはのけぞり、口で泡を吹くような音を「パカ、パカパカ…」と出し始める。ケイコが何をやっているのかと聞くと、ミチオはイくときに泡を吹く小太りなおばさんと不倫していて、それが1号機だっただと話す。
ケイコが「はっ、カニじゃん」と馬鹿にすると、ミチオは「人のこと言えんのかよ」とケイコを突き飛ばし、「電話盗聴されたくらいで調子に乗んなよ」と罵倒する。
ケイコはミチオに自分はミチオの言うことをなんでも聞く、気に入らなかったら殴りなよ、機械の調子悪いとき殴るでしょ?と近づいていく。
「そんな恐ろしいことできねえよ」と後ずさるミチオをケイコが殴ると、ミチオは反射的にやり返す。
ケイコが「テレビドラマみたいな安っぽい殴りだね、もっと本気のやつちょうだいよ!見えない観客がいたら引くようなやつ!」と挑発すると、ミチオはケイコにひたすら暴力を振るい始める。
ミチオはコーンフレークをひっくり返し、ゴミ袋を投げつけ、鉄パイプを振り下ろす。
すっかりケイコがぐったりしたところで、「引いたかなぁ、見えない観客」と言いながらミチオも床に座り込む。
ケイコは鼻血を出しながらもふざけたように「マシーン度、5%アップ」と言い、ミチオも「3号機、コーラ持ってこい」とケイコに命令する。
ラジカセから「ヒーリング音楽、いかがでしたか?」とフクシマハルオの声が流れ始めると、ミチオは「バカが喋ってらぁ」と音楽を止める。
ミチオは「もっとリアルなの、聞きたいでしょ?」と子供のようにケイコに言って、再び盗聴している音声を流し始める。
その声は「兄貴と俺の2号機」のものらしく、アキトシとサチコの会話が聞こえる。
サチコがそろそろミチオに仮釈放をあげた方が良いんじゃないかと言うと、アキトシが俺は許しているがサチコが許していないから仮釈放はできないと話す。驚いて「私が、ですか?」と聞くサチコに、アキトシは「許せるわけないもんなぁ、昔だったら舌噛んで死なないといけないところを、1年で許せるわけないだろ?俺そんな女嫌だもん、殺すもん」と言いながらも、「でも許してやってくれよ、これは兄としての頼み」とサチコに迫る。サチコが「許して良いんですか?」と恐る恐る聞くと、アキトシは「ダメに決まってんだろ!殺すぞ!」とサチコに怒鳴り、「これはお前の夫としての意見」と付け加える。「じゃあどうすれば…」と困るサチコに、アキトシはミチオを自由にしてどうしたいんだと聞く。
盗聴して興奮するミチオに対して、ケイコは「そういう結論の出ない話興味ないのよ」と寝る準備を進めている。
ミチオはタンクトップを脱いで、ケイコに挿入する。
「俺とサチコの話、気にならないのか?」と聞くが、ケイコは「あの子の話をすると頭が痛くなる」と悪気もなさそうに話す。ケイコはサチコの「あれがこうして」「それがあれで」と言った曖昧な喋り方が気にくわないらしい。「10を3で割れと言われた気分になる」と表現する。ケイコに覆いかぶさったミチオは、「あんた、サチコの恩師だろ?」と言うが、ケイコによると、サチコともう1人の男の子をいじめから助けたのはただの実験だったらしい。ケイコにはサチコがどうしていじめられるのかがわからなかったそうだ。それでいじめられるにもある種のエネルギーが必要なんじゃないかと思って放課後4時間走らせたところ、サチコは放課後にエネルギーを残しておくために、死に物狂いでいじめを回避し始め、いじめられなくなった上に県のマラソン大会で新記録まで取ったという。
ミチオが「もう1人の男はどうなった」と聞くと、ケイコはミチオから離れてごまかしたような答え方をする。
四つん這いで離れていくケイコにミチオは後ろから挿入し、スパンキングしながらミチオはケイコに問い詰める。
ケイコは「ダメだった」と言う。その男子生徒は「根っからのクズだった」そうだ。
「そいつがどうなったんだ」とミチオが聞くと、ケイコは「私と結婚した」と答える。
ミチオはどこか悔しそうに「そいつ俺より…」と言いながら、ケイコを犯す。
そこに突然サチコが入ってくる。手にマシュマロを持って「差し入れ」しにきたらしい。
「エッチの最中にごめんなさい」と言いながらもズカズカ入ってくるサチコに、ミチオは慌てて服を直すが、ケイコに動揺する様子はない。
「聞いてたの?さっきの話」とケイコが聞くと、サチコは「聞かれちゃまずいような話してたんですか?」と攻撃的に返す。サチコの頭には血の滲んだ包帯が巻かれている。
「兄貴にやられたのか?」「しゃれになんないだろ」と腹をたてるミチオに対して、サチコは「謝ってくれたからいいの!」と怒る。ケイコが「DVカップルの典型的なパターンだね」と言うと、サチコは「典型的ですいやせんでした」と敵意をむき出しにする。
差し入れを渡したからと帰ろうとするサチコに対して、ミチオは「もっといろよ」と引き止める。
それに対してヘラヘラし始めたサチコは「フクシマ先生の集会にアレしないとだから」と帰ろうとするが、ケイコが「アレって何」とマシュマロを投げながら聞く。
突然犬のように四つん這いで「キャンキャン」鳴き始めたサチコは、床をガサガサして、あるところで止まる。突然怒った犬のように吠え始めたサチコは、そのままプレハブ小屋を去っていく。
ミチオは「なんで犬なんだよ」と言いながらなんとなく手書きの地図を片付けようとして、サチコが怒って唸り始めたのは地図を見つけたからだということに気がつく。
「見られた!」と焦るミチオに対して、「もう遅いわよ」と返したケイコは、地図につけられた赤い丸が何を示しているのかを聞く。
ミチオは「サチコがいじめられてた理由、俺、わかるけどな」と話し始める。「どうしてかは言わない、同類の勘ってやつ」と言うミチオに対して、ケイコは「言ってるじゃない」とツッコむ。
ミチオはいじめられていたわけではないが、浮いていたそうだ。「サチコみたいなのは特殊なパターンで、一度定着したいじめられるキャラクターはなかなか拭えないものなんだよ」と言って、ミチオは裸に背広を着て、ネクタイを締め、メガネをかけ始める。「なに唐突に背広着るかなぁ、君はいじけて」と聞くケイコに、ミチオは「でも俺こう見えても前向きだからよ」と話を続け、いじめから抜け出すには中学、高校、就職と環境が変わるタイミングがチャンスだと語る。「でもこの町狭いから、どこ行っても俺が浮いてたって知っているやつがいるわけ」と言うミチオに、ケイコは「出てきゃ良いじゃん」と言うが、ミチオは鎖のついた足を上げて「これだからなぁ」と言う。
「でもさすがにこの歳になってくると俺を知っている人間も少なくなってくる」と言い始めたところで、ケイコは赤い丸が「ミチオが浮いてたって知ってる人間」を示していると気づく。
「こいつらさえいなくなりゃいいわけね」と納得するケイコに焦ったミチオは「思うだけだって」と付け加えるが、ケイコは「どうして命令しないのよ」と追い詰め、ミチオは「思うだけ思うだけ!」と繰り返す。
ケイコはミチオに「背広、似合うじゃない、ズボンも履きなさいよ」と言うが、ミチオは鎖の繋がった足を持ち上げた。「これだからなぁ」と2人の声が重なる。
ケイコの日記が始まる。
正常位、騎乗位、後背位、後屈曲位、伸脚正常位、松葉崩し、帆掛け等、ミチオとケイコがその日の夜に試した体位が淡々と連ねられていて、センターステージで音楽の中、それに合わせて2人の行為がダンスのように行われる。
追伸のような形で、サチコがアキトシに暴力を振るわれてあざを作り、肋骨を骨折し、ボロボロになっていったことも語られる。
最後にケイコが着床した日で1幕が締めくくられる。
幕間
2幕
月明かりが差し込んでいる。ミチオは防護ゴーグルをつけて金属を削る作業に集中している。ケイコはプレハブの外で月を眺めている。
ケイコは「月の美しさがわかる」と語り始める。普段はビジュアリスティックな美はわからない方だが、前に妊娠した時も分かったらしい。そういう水気のある感覚が。
理由は「分からない」「私には分からないことが多すぎる」という。ケイコはプレハブの中に入って、話を続ける。分からないことの1つが算数だったそうだ。1+1=2になるわけがわからなかったと。
ケイコは「暗く狭いところに押し込められて出られない夢」を昔からよく見るそうだ。「今でも見る、だから私、2日に5時間くらいしか寝ない」。
「小学4年生の時、その夢の訳はわかってた」という。ケイコは生まれた時5kgあった。母親を苦しめて苦しめて生まれたそうだ。ケイコはその夢を産道を通る時の記憶だと話す。ケイコが「私、生まれながら母を殺した」というと、ミチオは顔を上げる。その時わかったのだとケイコは言う。「1-1=0」
「それから私、算数の鬼になった。高校出る頃には大学の数学が終わってた。そのあと突然体育にハマったの。体育って自分の実力が記録になるから面白い」とケイコは話す。オリンピックのセックスチェックに引っかかるまでは続けたそうだ。
ミチオはゴーグルを外して、妊娠してたらどうするんだとケイコに聞く。
ケイコは「どうしよっか」と笑いながら答える。「前はおろしたけど、今回はそう言うわけにはいかなさそう」だと言う。再び「どうしよっか、それじゃ他人事か」と言いながら、ケイコは窓際に立ち、「今は曖昧が気にならない、月が綺麗」と呟く。
ミチオは隣に並んで月を見上げるが、ケイコは去っていく。
ミチオは第2作業所でビデオデッキを修理し始める。
場面の中心は第1作業所で、サチコが掃除をしにやってくる。
恐る恐るサチコが有線をつけると、『若いってすばらしい』が流れ始め、サチコは歌いながら徐々にノリ始めて踊り出す。
あなたに笑いかけたら
そよ風が帰ってくる
だから ひとりでもさみしくない
若いってすばらしい
あなたに声をかけたら
歌声が聞こえてくる
だから 涙さえすぐにかわく
若いってすばらしい
夢は両手にいっぱい
そこにアキトシがやってきて、踊るサチコを後ろから蹴り飛ばす。
崩れたサチコを撫でながら、アキトシは「工場で踊ってると危ないよ、引っ掛けて往生するよ?」と優しく言い聞かせる。
逃げるように別の場所に歩いていくサチコに、アキトシは「言わずに置こうと思ってたけどやっぱ言う、なんなら5・7・5で言う」と突然切り出す。
サチコが恐る恐る「なんでしょう」と聞くと、「朝飯の、貧乏くささ」から始めて突然サチコに怒鳴る。
サチコが「普通にお願いします」と頼むと、「今日の朝飯の貧乏くささはなんだ」と問い詰める。
「いつもと同じはずですが」とサチコが小さく反論すると、アキトシは「朝飯は夫の頑張りに対する妻の批評活動なんだよ、いつまで経ってもお前の評価は一向に上がらないな」とサチコを責める。
アキトシは「そんなんじゃツジヨシ家に生まれてくる大卒の子を受け入れられる土俵が作れないだろ」と言って、幸子に向かって相撲のポーズをとり、「かかってこい」とサチコを呼ぶ。
恐る恐る向かっていったサチコを「どすこーい」と言いながら容赦無く投げ飛ばし、アキトシは咳き込むサチコを気にもとめず「歯痒いよ、弟に先越されて」と嘆く。
サチコが「まだ生まれると決まったわけじゃ…」と言いかけると、アキトシは「悔しかったらお前も産んでみろ」とサチコのスカートをめくり始める。
焦ったサチコが「あなた、丸見えです」とスカートを戻すと、アキトシが「どうしてオマーンさせないんだよ」と再びめくる。
サチコが「やめてください、労働者の皆さんが見てます」と言うと、アキトシが外に同意を求める。
周りから男たちの声で「オマーン」と言う声が飛び交い始め、アキトシの「オマーン」という投げかけに返答するように声が大きくなっていく。
「朝からオマーンのコールアンドレスポンスはやめてください」とアキトシを止めようとする中、ケイコが出勤してきてアキトシは声を止める。
アキトシは「よ、妊婦」と囃し立て、「ケイコちゃん、今度4人で合コンな」と誘う。
ケイコが適当に「はい」と返事をすると、アキトシが有線をつけ、再びマイケルジャクソンのsmooth criminalが流れ始める。
「俺マイケル引き当てる率高くね?」と言いつつも、ノリながら掃けていく。
「さ、始めるわよ」とケイコが機械のスイッチを入れると、サチコがすぐに止める。
サチコは「勝手に始めないでください、ここでは私が雇い主ですから」といって、再びスイッチを入れる。
作業をしながらケイコが「何かっかしてんの?」と聞くと、サチコは「主人が最近オマーンオマーンうるさいんです」と愚痴り始める。ケイコが「オマーンさせないからじゃないの?」と聞くと、サチコは「だって怖いんですもん!主人キンタマ1つないんですよ」と話し始める。アキトシは虫太郎に餌をやっている時にキンタマを片方食いちぎられたらしい。サチコは「『おれぁ指が6本だから、キンタマなくてフィフティフィフティだぁ』とか言ってますけど、気持ち悪いんですよ、私そもそもオマーンに抵抗感あるし」と続ける。
ケイコが「わかんないわね」と言おうとすると、サチコもそれに声をかぶせ、「わかんないわね、言うと思った、私こんなにいろんなこと分かんないで済ませてきた人間にもの教わってありがたがってたなんて」とケイコを責め立てる。
「私、先生に謝ってほしいなぁ」と言い始めたサチコを、ケイコは無視して作業を続けるが、サチコが機械を逆回しにし始める。逆回しに混乱するケイコに何度もベルトコンベアの向きを変えてサチコは去っていく。ケイコは流れていってしまった部品を追いかけて逆の方向に去っていく。
サチコの日記が始まる。
「夫が最近激しくオマーンを迫ってくる。私はもう、アレかもしれない。次の日私は、この工場で一番暑い場所に来ていた。」
ビデオデッキを拭きながらついでに汗を拭うミチオの周りを、サチコは金槌を肩たたきがわりにしながらうろつき、「暑いわねぇ」とぼやく。
「そりゃ暑い場所に来てるんだらから暑いに決まってるだろ」とタオルで汗を拭きながら返すミチオに、サチコは「夕べあんたの兄さんとうとう完全に狂ったわよ」と話し始める。
昨日アキトシに激しくセックスを迫られたと話すサチコに、ミチオは恐る恐る「やったのか?」と問いかける。
サチコは「やるわけないでしょ!兄弟揃って私をレイプする気か!って叫んだら、さすがにあいつシュンとなって自分の部屋に帰っていったの」と言い、ミチオはそれに対して「普通じゃん」と返す。
サチコは話を続ける。「それで、夜中の3時まで戻ってこないからさすがに気になって部屋を覗いてみたら」ライオンの被り物を作っていたらしい。サチコは物音を立ててしまい、アキトシはサチコに気づいたそうだ。ミチオが「隠したか?」と聞くと、サチコは「被ったわ」と答え、ミチオは「被ったかぁ…」とショックを受ける。
そしてアキトシはサチコに向かって「たべちゃうぞ-!」と言ったそうだ。
「一緒に逃げて」と訴えるサチコに、ミチオは曖昧な返事を返す。「先生のことそんなに好きなの?だいたいあんな化け物と話合うの?」と問い詰めるサチコに、ミチオは「そういうことじゃない」と返す。
サチコはミチオに、ケイコがこの工場にやってきたのは、中学時代にいじめから救った恩を回収するためだと訴える。今頃私を不幸にして帳尻合わせにきたと話し、「ミチオはそれに利用されてるだけなんだよ!」とサチコは言うが、ミチオは「そんなはずない」と言って逃げるように床に座り込む。
サチコはミチオの前にしゃがみこんで、ミチオの頭を両手で掴み上げる。「なんだよ」と言うミチオにサチコは口づけをする。そのまま首筋、胸、お腹と、サチコのキスが下がっていくと、ミチオはサチコに襲い掛かる。立ち上がった2人はキスをしながらミチオがサチコのお尻を揉み、床に転がる。挿入したところで2人はパッと目が合う。
正気に戻ったように2人は距離を取り「暑い暑い」と繰り返しながら、ミチオは扇風機に当たり、冷感スプレーを体にかけ、股間に振りかけてしまい飛び上がる。
サチコは「あたし、あんたのことが憎い」と話し始める。「でもあんたと先生とあのキチガイの中だったら、順番的に一番憎くない、だから一緒に逃げたいの」とサチコに言われたミチオは、足枷を見せて「これだからなぁ」とぼやく。
それに対してサチコが「また自慢⁉︎」と言うと、「何が自慢だこのアマ!」とミチオがキレて掴みかかろうとするが、サチコは怯まずに「あんたの兄さんその鎖一生外す気ないよ!」と叫ぶ。
ミチオは手を止めて、サチコに静かに背を向ける。サチコは「ほぉら驚かない、なんなのあんたたち!気持ち悪いよ!こんな鎖本気だしゃ簡単に外れる!」と言いながら、金槌で鎖を叩き始める。
「やめろ、気が狂ってるのはお前だ」と言いながらミチオがサチコを止めようとしていると、プレハブの外からアキトシが「おーい、ミチオー、いるかー?まぁそりゃいるわな」と言いながらやってくるのが聞こえる。
焦る2人はどこかに隠れ場所を探すが見つからず、盗聴器を隠している床下に隠れようとするサチコをミチオは「そこはダメ!」と必死に止める。嫌がるサチコを無理やりミチオはトイレの中に隠れさせたところで、ライオンの被り物を被ったアキトシが「食べちゃうぞ〜!」と言いながら部屋に入ってくる。
トイレの蓋の上に座って「うわぁぁ!」と悲鳴をあげて怯えるミチオに、アキトシは笑いながら「食べない食べない、さすがに俺も義務教育は受けてるから」といつもの調子で話す。
アキトシは四丁目のマルヤマさんから預かったキーボードを持ってきて、音が変だから直してくれ、急ぎの仕事だミチオに頼む。
「あ、あぁ」しか返せないミチオがうろたえているのをみて、アキトシは自分の被り物を指差して「これか?ライオンに見えるか?」とミチオに聞く。
「見える見える!すっごく見えるよ!」とアキトシの機嫌を取るミチオをアキトシは立たせ、肩を組む。
「実は重大発表がある。俺、アレに出ようと思うんだ」と話すアキトシは、「欽ちゃんの仮装〜」と話す。
語尾がこもっていて聞き取れず、ミチオは「欽ちゃんの下層階級?」と聞き返す。
アキトシは「ばかぁ、ばかぁ、欽ちゃんの仮装大賞、欽ちゃん上流階級だろ!」とおちゃらけ、ミチオも「そうだよな!」とひたすらアキトシを肯定しながら、再びトイレの蓋に座る。
ミチオがライオンの仮装で出るのかと聞くと、アキトシは「そんなんじゃ無理に決まってるだろ、ジャングル風呂だよ」と返す。
ミチオが「ジャングル風呂ぉ⁉︎」と言うと、アキトシはミチオを自分の斜め前に座らせ、「お前〜、サチコ〜、先生〜、お前〜、サチコ〜、先生〜、6人で俺を囲んで」と話し、ミチオは思わず「6人もいねえよ!」とツッコむ。ヘラヘラ笑いながらアキトシは「で、俺が真ん中でお湯を吐くんだよ」とミチオに自慢げに説明する。
「どうやって⁉︎」と困惑するミチオに、しばらく考え込んで、アキトシは「そりゃやっぱりお湯をたくさん飲んでダババババ」と言いながら、ひたすらいろんな方向にお湯を吐く動作を繰り返す。
壊れたように繰り返すアキトシに、ミチオはすがりついて「兄貴〜しっかりしくれよぉ、なぁ兄貴〜」と泣きつくが、突然正気に戻ったアキトシは、冷たく「じゃ、頼んだぞ、キーボード」とミチオに言い残して去っていく。
「直しとくから!直しとくからー!」と言いながら、アキトシが去ったのを確認して、ミチオは急いでトイレの蓋を開ける。
サチコがミチオに「行った?」と確認して出ようとすると、アキトシが「あ、そうだ!」と言いながら戻ってくる。
「トイレ貸してくれないか?」と頼むアキトシに追い詰められ、ミチオは「ダメだ」としか返せない。
何度も頼んでくるアキトシに追い込まれ痺れを切らしたミチオは、「ダメだっつってんだろこのキチガイが!」と言ってしまう。
「ついに言ったな」と怒ったアキトシはミチオを殴り、「サチコと2人で俺に変な薬飲ませてたのも知ってんだぞ」と言いながらミチオのお腹を踏みつける。悶えるミチオにアキトシは「トイレ終わったらしっかり話つけてやる」と言って、トイレの蓋を開ける。
トイレから出てきたサチコと、アキトシの目が合う。なんとか立ち上がったミチオは、キーボードでアキトシの頭を殴る。
「何してんだテメエ」とミチオに襲いかかろうとするアキトシを、今度はサチコが金槌で何度も殴る。
頭から床に潰れ、なぜかひたすら屁をこいたアキトシは動かなくなる。
「イヤァァァァ」と悲鳴を上げるサチコを、ミチオは「静かにしろ」と落ち着かせようとする。
「死んだの⁉︎」とテンパるサチコに、ミチオは「当たり前だろ、こんなぶっとい金槌で何度も殴ったら」と返し、サチコが「あんたが危ないと思って!」と焦っているのを「わかってる」と受け止める。
そこでアキトシが急に立ち上がり、頭から大量の血を流しながら、マイケルジャクソンのスリラーのようなダンスで歩き回り始める。
恐怖に襲われるプレハブだったが、再びアキトシは倒れこむ。
場面8
サチコの日記。
「主人が死んだ。とりあえず死体はトイレに隠した。ミチオが先生に相談しようと言うので、私は結構ショックだった」
アキトシとサチコが二人掛かりでアキトシの身体を持ち上げて、トイレの中に落とす。
サチコが必死に床の血痕を拭き取る中、ミチオは壊れたキーボードの音を確かめている。
サチコが「そんなことしている場合?」と聞いたのに対し、ミチオが「だって兄貴が急ぎだって言うから…」と答える。
サチコが「もう死んだよ」と言うと、なぜかミチオは笑い始める。
「何がおかしいの!」と雑巾を投げつけられたミチオは、「だって、逆になってんだよ」と話し始める。
ミチオによると、アキトシの中ではアキトシとサチコの結婚とミチオがサチコを強姦した順番が入れ替わっているらしい。
「あぁ、逆だね」と笑い始めるサチコの元にミチオはしゃがみこみ、2人ですがりつくように手を取り合う。
「本当は俺が強姦した責任を取って兄貴が結婚するって話だったのに」と話すミチオに対し、サチコは「それもおかしいよね、わかりにくいよね」と笑う。ミチオは「自分でわかりにくいことしてんのに、後で順番入れ替えてわかりやすくしてるんだよ、キチガイなりのつじつま合わせってやつか?」と笑いながら、立ち上がってトイレの蓋を開ける。
「見ろよ、死んでる」とミチオが言うと、サチコはトイレを覗き込んで壊れたように笑い始める。
床に転がって笑うサチコのスカートがめくれ、下着が見えてくる。
バタンとトイレの蓋を落としたミチオは、サチコに襲いかかり、繋がった状態でサチコの肩に顔を埋め、「こええよ」と泣きそうな声で嘆く。
2人の上下は入れ替わる。サチコがミチオのタンクトップを脱がす。サチコはミチオに「先生にしたこと全部して」と頼み、騎乗位で始まる。サチコは「これもして」と後背位でスパンキングをせがむ。立ち上がったサチコは今度は「これもやって」とミチオを椅子に座らせ交わる。「タイタニックみたいなのもして〜」と立ち上がってミチオに犯され、サチコは椅子の上に立ち上がり、「先生にしてないこともして」とミチオに飛びついて駅弁スタイルで犯される。
そこに銀色の甲冑姿のケイコが入ってきて、2人は服を直しながら離れる。
ミチオはキーボードを修理しているように装ってキーボードを持って椅子に座る。
サチコが「何その格好」と聞くと、ケイコは「ハードなことやるから形から入ろうと思ってね」と返す。
ケイコにブルーシートを渡された敷けと言われたサチコが「工場でトンカントンカンやってると思ったら、もっと緊張感持ってよね!」と言うと、ケイコは「じゃああんたがやる?」とサチコに巨大な斧を差し出す。
細かく切ってワニに食べさせるからと言われてサチコが斧を受け取るが、あまりの重さにふらついてしまう。
見かねたミチオが「俺がやる」と言ってキーボードを床に勢いよく置くと、打ち込みのビートのループがなり始める。
ミチオは斧を持ってトイレに向かい、ケイコは「緊張感ない音立ててるわね」とキーボードに止めようとしたところで、突然トイレからアキトシが飛び出してくる。
驚く3人に「トイレしながら寝ちゃってた」とアキトシは話す。
アキトシは全員が集まっているのを見て、「そうか、合コンか!俺酔っ払って寝ちゃってたんだ、ごめんごめん」と言い始める。
3人はアキトシの動向を伺うことしかできない。
アキトシがミチオに「なんだそのでっかい斧」と聞くと、ケイコはピアノでsmooth criminalのイントロを弾き始める。
ミチオから斧を奪うように取ったサチコは、アキトシに斧を「マイク!」と説明する。
納得したらしいアキトシは「ぽいよ、合コンっぽいよ!ミチオ、グー!」とテンションが上がり、ミチオとサチコもそれに合わせて盛り上がっているふりをする。
アキトシが「フォー!」と叫ぶと、続いてサチコ、ミチオ、ケイコも順に「フォー!」と叫び、smooth criminalが流れ始める。
全員でイントロからサビ前を踊り、サビでミチオ、アキトシ、サチコ、ケイコの順にソロダンスも踊り、ミチオは鎖を使ってマイケルの前に倒れるパフォーマンスを真似する。
ミチオの鎖を持っていたアキトシは急に手を離し、ミチオが膝を強く打って音楽は止まる。
「踊った踊った、なんか今、家族の勢いみたいなものを感じたぞ!」とテンションの上がるアキトシに、ミチオとサチコはひたすら笑顔を浮かべて肯定することしかできない。
サチコは必死に笑いながら「私、飲んじゃうんだー、今日はとことん飲んじゃうんだー、今日笑ってたって明日死ぬ奴もいるけど、笑うんだー」と盛り上げる。
アキトシが「よし、この勢いで欽ちゃんの仮装大賞行っちゃうぞ!」と言うと、ケイコが「え?」と言ってしまう。
「あれ?まだしてなかったっけ?重大発表」と考え込みそうになるアキトシに、ミチオは「したよしたよ!ジャングル風呂!」とかぶせ、サチコはケイコに手を繋がせて3人でアキトシを中心に円を作る。
「兄貴が中心でお湯を吐くんだよな、もう目に物見よ!って感じでこれ見よがしに吐くんだよな!」とミチオが促すと、アキトシは「イエスイエスイエスイエス」と繰り返しながら、ひたすらお湯を吐く動作を繰り返し始める。
勢いで輪の外に出てしまったアキトシはなぜか少年ジャンプと思われるコミック雑誌のページをちぎって口に入れて、床に吐き出していく。
「鬼滅うめ!」と言って床に雑誌を叩きつけたアキトシは、なぜか黙ったまま部屋を歩く。
部屋の隅で3人が縮こまる中、アキトシは記念撮影をしようと提案する。
しばらく飲み込めなかったサチコだが、なんとか「じゃあ私、カメラ取ってくる」と立ち上がろうとする。
そんなサチコをアキトシは撫でながら「いいよぉ、俺が取ってくるよ」と言ってプレハブから去っていく。
サチコはミチオに「あいつの頭がおかしいうちに逃げよう!」と言うが、ミチオはまだ逃げようとしない。
ケイコにも「コイツ私のこと好きなくせに」と説得するように言おうとしたところで、サチコは何かを思い出したように「あ」と止まる。
サチコはミチオに対して「あれ、合意だったんだよ?私も途中からアンアン言っちゃってたわけだし、あんたが強姦だって言うからこんなめんどくさいことになったんでしょ!」と責める。
サチコはケイコに対しても、マツザワと結婚していたことを責める。
サチコはケイコに、「別にマツザワのこと、そんなに好きじゃなかったけどさぁ、コイツ(ミチオ)も好きじゃないけどさぁ!どうして私の周りにいる男なの?なんであんたと男の趣味かぶんなきゃいけないのよ!真逆でしょ⁉︎あたしたち」と怒りをぶつける。
ゆっくりと隅にあった地球儀を持ち上げたケイコは、ミチオにそれを持たせる。
ケイコは地球儀を指差しながら説明を始める。「私たちが地球の同じところから真逆に進んでいったとして、反対側で重なる瞬間があるわね?この時、男の趣味がかぶるのよ」と言う。
ミチオが「意味わかんねえよ!」とツッコむと、サチコも「意味わかんない!」と怒り始める。
「先生、絶対音感でしたよね」と言い出したサチコは、キーボードで不協和音の猫踏んじゃったを弾き始める。
耳を塞いで「全然猫ふんじゃってない、ちゃんと踏んで!」と言い出したところで、サイレンのような音が鳴り始め、猫のように爪を立てたサチコがケイコに襲いかかり、2人の喧嘩が始まる。
ミチオは巻き込まれないようにトイレに隠れ、最初は2人の喧嘩を恐々と見ていたが、徐々に興奮したように「俺を取り合って女が戦ってる!夢のようだ!」と言い始める。
突然皿と棒を取り出したサチコは、なぜか皿回しを始める。
皿についた水が飛んだのか「冷たい!冷たい!」と言うケイコに、サチコは「洗い立て!」と言い、プレハブの外にケイコを追い詰め、ミチオを守るようにケイコの前に立ちはだかる。「ここを出たらこれであんた食わせていくからね!」と言った後、皿を浮かせて持っている棒を180度回転させる技を決める。
「そんなんで食ってけるわけないでしょ」と皿と棒を取り上げたケイコは、サチコをプレハブの中に追い詰める。
サチコは床に置いていた巨大な斧を振り回し始める。ミチオも「斧はやめろ!」と止めるが、サチコの斧はケイコのお腹に当たり、ケイコはうずくまり、気を失ってしまう。
トドメを刺そうと振り回した斧はミチオが盾のように持つトイレの蓋に刺さり、「あっぶねえ、このバカ女!」とミチオがサチコの斧を降ろさせ、なんとか喧嘩は終結する。
トイレから出てきたミチオに、サチコは思い出の中で美化されてケイコのことを嫌いだったことを忘れていたと再び話し始める。
灯油のタンクを持って戻ってきたアキトシは、第二作業所の周りに灯油を撒き始めているが、3人は気がつかない。
サチコはケイコについて「いじめから抜け出せた時はほんと神様のように尊敬してたから、でも卒業してしばらく経ってからマツザワと先生が怪しいって噂を聞いて、うげっ!て思ったんだよね、おめえマツザワでいいんかい!おめえがマツザワじゃマズイだろ!って、あ、あたしはいいよ?マツザワで、だって一緒にいじめられてたんだし」と興奮気味に語る。
ミチオは周囲を見渡して、「ガソリン臭くねえか?」と言いだす。
そこに灯油を撒きながらアキトシが部屋に入ってきた。
ミチオとサチコが驚き怖がっているのも気にせずに、アキトシは「イエスイエスイエスイエス」と小声で言いながら第二作業所の床にも満遍なく灯油をかけていく。
灯油のタンクを床に置いたアキトシは、「ツジヨシ家諸君!今から写真撮影会を行いたいと思います!ただ、普通に撮るだけじゃ俺っぽさが出ないので、燃え盛るプレハブをバックに撮りたいと思います!よってプレハブの中の皆さんは大変危険ですので、10秒以内に退避してください」と告げ、火を持ってプレハブの周りを歩きながら10秒を数え始めてしまう。
サチコとミチオが必死に止めるが、アキトシはカウントをやめない。
サチコはアキトシに鎖を見せて「この人繋がれてるんだよ!」と訴え、ミチオは「みんなで欽ちゃんの下層階級に出よう!下層階級になろう!」と言うが、アキトシは「もうなってる」と返すだけだ。ミチオは諦めずに「みんなでジャングル風呂をやろう!欽ちゃんそういうの好きだよ?」と言い、「プップップップッ、上げてよ〜、もうちょっと上げてあげてよ〜」と欽ちゃんのモノマネをし、サチコは全力で「合格〜!!」と言いながら飛び跳ねるが、やはりアキトシには響かない。
アキトシの説得を諦めたミチオは、サチコに「斧で切れ!俺の鎖を切ってくれ!」と床に座り込むが、カウントは残り2秒になってしまっている。
ミチオが「兄貴!今何時だ?」と聞くと、アキトシは「10時だ、10…」とカウントを10に戻す。
「やった時を戻したぞ!早く切れ!」と催促するミチオだが、巨大な斧はサチコでは思うようにコントロールできず、床に斧を何度もぶつけてしまい、白い煙が上がり始め、プレハブの中は見えなくなっていく。
「サチコ!早く切れ!」「3号機、兄貴を止めろ!」とミチオは必死に叫ぶが、視界が悪くなったことで余計にサチコの斧はおぼつかなくなり、お腹に斧を食らったケイコもなかなか起きる気配はない。
アキトシは「俺たち、最高だったよな?」と言い、ミチオは「俺たち最高だよ!」と返す。アキトシが「俺たち、家族だったよな?」と言うと、ミチオは「俺たち家族だよ!」とかぶせるが、アキトシのカウントは止まらない。
カウントが終わると、中からサチコの「ミチオ!」という絶叫に続いてミチオの悲鳴が聞こえる。アキトシが火をつけようとしたのと同時に3号機がプレハブから出てきて、アキトシを捕らえる。
アキトシはそのまま3号機に連れて行かれ、ワニのいる池に落とされてしまう。
煙が消え始めると、ぐったりと座り込むミチオと、斧を振り下ろしたサチコがプレハブの中にいる。
ミチオの鎖のついた足は膝から下で切断されている。
「誰が足切れっつった」とミチオが言うと、サチコは驚いて「はっ!」と飛びのく。「はっじゃねえ!」と絶望するミチオだが、サチコは「頭の中で、今、あの曲流れているよ」と言う。
Over the Rainbowが鳴っている。サチコはミチオの切断された足を投げ捨てて、「先生の足を切ってミチオにつけよう、そしたらミチオ、どこにでも行けるじゃん!いろんなとこ連れてってよね!」と言い始める。
ミチオは捨てられた足を追いかけて、扇風機の方まで這っていく。
サチコは「私今、主役っぽくない?」と言って、作業服の上着を脱ぎ、ワンピース1枚になる。
池から這い上がってきたアキトシが戻ってきた。ズボンの股間が血で真っ赤に染まっている。
サチコはそれを見て、「ライオンさん?」と言う。
ミチオが扇風機を支えにして片足で立ち上がる。サチコが「カカシさん?」と呟く。
そこに銀の甲冑姿のケイコが戻ってくる。サチコは興奮気味に「ブリキさん!」と言って、プレハブの隅にあった金髪のカツラを被り、Over the Rainbowを歌い始める。
Somewhere over the rainbow,
way up high
There’s a land that I’ve heard of
onece in a lullaby
Somewhere over the rainbow,
skies are blue
アキトシ、ミチオの順に魔法をかけるような仕草をしながらサチコは歌い、ケイコの両手を取って抱きつく。
ケイコはサチコを抱きしめ、サチコの顔を自分の鎧に押し付けていく。
「んん⁉︎」と苦しそうにもがくサチコを押さえつけ、ケイコはサチコの首を折ってしまった。
サチコが床に倒れ、音楽はやむ。
アキトシは「くそぉ、虫太郎のやつ、残ってた方のキンタマまで食いちぎりやがった」とぼやく。
ミチオがアキトシに「おい兄貴、あんたのかみさん死んだぞ?」と言うが、アキトシは「ミチオ、キーボード直したのか?」と聞き返す。ミチオが「ちょっとそれどころじゃなかったんだよ」と嘆くと、ケイコはタオルと椅子とキーボードを持ってきて、「じゃあ今から直しな」とミチオを椅子に座らせる。
ケイコはタオルでミチオの太ももを縛り、キーボードを膝に置き、「これから子供生まれてくるんだから、しっかり稼いでもらわないと」とミチオに言う。
ケイコに電話がかかってくる。
ケイコは「マツザワくん?」と言い、電話の相手と話し始める。ケイコは電話に対して「愛してる。知ってるでしょ?私がレトリック使わないの、今度電話してきたら殺すよ」と言って、電話を切った。ミチオはケイコを怯えたように見ている。
ケイコはミチオに対して「あんたと私の子は10を3で割るような会話はしないわよね?」と確認する。
ケイコはミチオの手書きの地図を拾い上げ、赤い丸を数えて「全部で、6軒ね」と言って、プレハブの外に出ていく。
アキトシはぐったりした様子でミチオを呼ぶ。「なんだよ玉無し」と返したミチオに、アキトシは怒ることもなく「なんなんだあの女」と言い、ミチオは笑いながら「その内だんだん分かってくるでしょう」と返す。
アキトシの持っていた火を掲げたケイコは、ミチオに「命令しなさい」と言う。
ミチオがやけになったような様子で「3号機、出動ー!」と叫ぶと、ケイコは工場の外に火を持ったまま出ていく。
ミチオは笑いながら「今夜はぐっすり眠れそうだ」と呟く。それに対してアキトシは少し嬉しそうに「そうか」と言い、ミチオは「夜は寝る、基本だよな」と続ける。フクシマ先生の教えでも夜寝て朝起きるのが大事だと言われていると話すアキトシに対して、ミチオは突然「勘違いすんじゃねえ!俺はあんな女、好きでもなんでもないんだからな!」と怒鳴りつける。
ミチオは椅子を降りて、膝で歩きながら背広を肩に羽織る。
アキトシはサチコの死体に寄り添って、うずくまる。
ミチオは「あんな女、上司に紹介できねえよ。奥さんとどんな話するんですか?って聞かれて、会話ないです。セックスだけです。あいつ、セックスマシーンなんです。奥さん愛してんの〜?愛してないです。愛したら殺されるんです。そんなこと、言えねえよ」と言いながら、椅子に戻る。
ミチオは笑い始める。「どんな子供生まれてくるんだろうなぁ。ちゃんとしないと殺されるんだぜ?ちゃんとしないと殺される社会人、きっと俺しかいないぜ?ちゃんとしないとクビになる社会人はいても、首折られる社会人は世界初だな」と言いながら、ミチオはぼんやりと笑っているが、徐々に顔が歪んでいく。
ミチオが「俺、社会人なるんかなぁ?」と不安そうに言うと、町から悲鳴が聞こえてくる。
工場の周りの空が炎で赤く染まっている。
ミチオは片足で立ち上がり、「やりやがった。あいつ本当にこの町に火をつけやがった」と言って、気が狂ったように笑い始める。
ミチオは火をつけていくケイコに向かって、「キチガイが、キチガイ」と連呼する。
肩に羽織っていたジャケットは落ち、扇風機は倒れる。アキトシはサチコから離れない。
ミチオが「キチガイがー!」と叫ぶ。ミチオは気絶するように床に倒れる。暗転。
カーテンコール
Over the rainbowが流れて、森川葵、横山裕、大倉孝二、秋山菜津子の順に一列に並んで明転。
横山さんは片足を切断された状態(つなぎの中に右足を折り込んだ状態)のままなので、片足立ちで大倉さんの肩を借りている。
舞台正面、上手、奥、下手の順に4人でお辞儀をして、ステージが回り始める。
続けて再び4方にお辞儀して、下手に捌けていく。
拍手の中で、横山さんが折りたたんだ足を戻してつなぎのふくらはぎから下の布が切り落とされたような状態でスニーカーを履いて戻ってくる。
再びお辞儀をして、3人を手招きで呼び込む。
舞台の4隅を順番に4人が周り、お辞儀していく。横山さんはお辞儀するときに膝に手を置くタイプ。
再び全員下手に捌ける。
拍手の中、横山さんだけ戻ってくる。マイクを通さずに「ありがとうございました」と客席前方、後方に言って、2回席、バルコニー席、Z席(サイド席)に手を振って、下手出入り口の前の通路で手を前に出すタイプのお辞儀を前後2回して捌けていく。
ちなみに3/14の夜公演ではWピース、千秋楽ではガッツポーズをしていた。
ここから千秋楽の話
拍手が鳴り止まず、再び横山さんが戻ってくる。
今度はマイクが入っている。横山さんの「ありがとうございます!」で客席が静かになる。
そのまま横山さんが「この状況で無事に千秋楽を迎えられたこと奇跡みたいだと思っています。本当にありがとうございました」と言って、拍手。
「みなさんありがとうございました!ここまで走りきれたのはみなさんのおかげです!」と言って、舞台中心でガッツポーズをして捌ける。
音楽の中拍手が続いて、もう一度横山さんが戻ってくる。
今度は4人ともセンターステージに戻ってくる。
「ありがとうございます。演出の大根さん、毎公演見に来てくださっていました。大きな拍手を。この舞台は4人で作り上げたものでした。この3人(出演者)にも大きな拍手を。そして、舞台を支えてくれたスタッフにも大きな拍手を。何より、この公演ができたのは来てくださったみなさんのおかげです。大きな拍手を」という挨拶で締めくくり、手を振って帰っていく。
公演終了。
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