そーゆーとこツボなのさ

終日もう君に夢中

丸山さんのダンスを語る

 

 

気がつけば18祭が終わって2週間が経ち、大倉さんの言った通り、ライブのエネルギーはすっかり薄れてきた今日この頃。早くDVDをください。日々に忙殺される中、大雪のせいで?おかげで?ぽつんとできた休日にライブDVDを見まくった結果、このブログを書こうと思い至りました。

 

ちなみに私は現在、筋金入りの箱推しです。今までの担当遍歴は、

安田(2016.4)→丸山(2016.6)→村上(2016.12)→丸山(2020.8)→横山(2021.12)→丸山(2022.2)→横山(2022.4)→丸山(2022.9)→安田(2022.12)

という見境のなさ。しかしお気づきでしょうか?

安田→丸山→村上→丸山→横山→丸山→横山→丸山→安田

そう、私は丸山さんから逃れられないオタク。

他のメンバーを全力で推している間は問題ないのですが、少しでも気持ちが緩むとまるで引力に引き戻されるかのように丸山さんに戻ってきてしまうんですよね…。

じゃあ一体丸山さんの何がそんなに好きなのか?って考えた時に、まず一つ目に出てくるのは見た目。丸山さんの顔のどこが好きかって話だけでブログ1本書けるレベルなのですが、とにかくあの色男という概念を具現化したみたいな顔立ちと、それに引けを取らない華やかな体つき。

 

でもそれだけじゃなくて、その見た目を最大限に活かしているのが、表情と立ち振る舞い。

さぁ、ここからようやく本題。私は丸山さんの動き込みで丸山さんの見た目が好きなんです。特にそれが発揮されるのが、丸山さんのダンス。

皆さん、丸山さんにダンス上手いイメージってあります?

もちろん担当なら知っているかもしれませんが、おそらくそこまでダンスが上手いイメージって丸山さんにはないと思うんですよね。どっちかっていうと安田さんとか大倉さんとかヒナちゃんの方がダンスに着目されがちですし、やっぱり丸山さんってメイキングでのダンスを覚えられないイメージが強いのではないでしょうか。歌やベースのスキルの高さがよく知られているのもあって、よりダンスのスキルが埋もれてしまっている気もします。

あとここから丸山さんのダンスを死ぬほど褒めるので、先に言っときますけど、確かに丸山さんのダンスってムラがすごいです。あー、振り付けあんま入ってないんだろうなって時もあるし、この振り付けと相性悪そうだなって時もある。だから平均点の高い優等生タイプかって言われると、そうじゃない。むしろそう思って見られると、丸山さんのダンスの本当の魅力は伝わらないと思う。丸山さんのダンスはどっちかっていうと、完全に芸術家タイプ。自分の感情や会場の雰囲気、振り付けのテイスト、聞こえてくる音楽が一致した時に、爆発的に良さを発揮すると言った方が正しいと思います。

 

それを踏まえて、ここからどうして丸山さんのダンスが魅力的なのかを細かく語っていきたいと思います。もしお時間がございましたら、お手元に18祭夏のマルチアングルをご用意くださいませ。

 

目次

1. スポーツとしてのダンス

2. アートとしてのダンス

3. 初心LOVE

4. マーメイド

5. ichiban

6. おすすめ映像

 

 

1. スポーツとしてのダンス

丸山さんのダンスの魅力は、大きく分けて2つあります。

1. 身体能力の高さ

2. 身体表現の上手さ

まず、丸山さんの運動神経が良いのはeighterならご存知の方も多いのではないでしょうか。

ほぼ無名の関西Jr.だった当時、「8時だJ」という番組で行われたマラソンで1位を取ってテレ朝のスタッフを慌てさせたというエピソードは、本人も何度も話しています。

両親がボディビルダーというサラブレットなこともあって、丸山さんの筋肉のしなやかさは見た目にも分かります。もちろん見せかけではありません。やはり見た目に筋肉がついている部位というのは、実際に筋力があることが多いのです。

例えば、村上さん。村上さんの体型はかなり歪ですが、体格のわりに首がやや太いことがわかると思います。実際、村上さんのダンスは首のアイソレーション(首だけを独立させて動かすこと。インドのダンスとかを思い浮かべてもらうと分かりやすい)がすごい。

こちらをご覧ください。

一見力を抜いているようにも見えるのですが、3年くらいダンスを齧った身としては、アイソレーションに凄まじい筋力が必要なのは理解しています。この首の可動域の広さが、村上さんのダンスに色気と可愛さをもたらしていると言えるでしょう。

 

で、丸山さんですよ。

丸山さんって胸筋すごいですよね。ということは、やっぱり胸部のアイソレーションが抜群に上手いです。初心LOVEマルチアングルのイントロ、大倉さんの「wowow oh oh... fore"ver"」のところをご覧ください。

本来この振り付けって両手をふわりと上から下に広げるだけなので、胸を動かす必要はないのですが、丸山さんはかなり分かりやすく胸部を突き上げています。これにより、同じ可動域でもより一層広がっているように見える効果が出ています。

 

そして丸山さんのすごいところは、全身の筋肉が満遍なく発達しているところ。

丸山さんはジャニーズの中では比較的高身長で手足も長いため、おそらく手や足を広げて普通に踊るだけでも、そうじゃない体格の人と比べると筋力が必要です。

要は腕を一周させるだけでも、手が70cmの人よりも80cmの人の方が、直径差20cm×3.14の約62.8cm分、余分に動かす必要が出てきます。ダンスの場合、動き始めのタイミングと動き終わりのタイミングが音楽のリズムに合わせて決められているので大きく動かせば動かすほど、同じ時間内に動かさなければいけない距離が長くなり、求められるスピードが速くなるのです。

ここでマーメイドのソロアングル、「帰らない いつまで"も"」のところをご覧ください。丸山さんの手前に大倉さんが映っていると思いますが、ターンのタイミングをコマ送りなどで見比べてみましょう。丸山さんの方がターンの入りが遅いことが分かるでしょうか?ソロアングルではなく全体のアングルで確認してもらっても、丸山さんのターンの入りは遅いことが分かると思います。

別のDVDにはなりますが、8UPPERSの泣かないで僕のミュージックのイントロの最後、村上さんの歌い出し前のターンも注意深く見てみてください。

丸山さんのターンは他のメンバーと比べて入りが遅いにも関わらず、回り終わりは他のメンバーと同じタイミングになっています。つまり他の人より短い時間で同じ距離かそれ以上の距離を回っているのです。

それだけターンのスピードが速いということは、その分回り終わる時に急ブレーキになります。それでも丸山さんの体の軸はブレることなく、持ち前の筋力によって急停止するため、衣装の裾が回るのも合わさって、花が一気に開くような華やかなターンになります。

 

丸山さんのダンスの基本は、

大きな動き+やや遅めの入り=スピード感

というわけです。

これはターンだけではなく、他の細かい動きも同じです。他の人よりも大きな動きをしているから、ダイナミックに見える。でも動き始めはゆったりしているから、優雅さもある。そこから一気にトップスピードで駆け抜けるから、力強さがある。

これらを実現するためには、動き終わりを音楽に完璧に合わせるリズム感の良さ、ダイナミックな動きを作るパワー、スピードを作る瞬発力、それらのスピードと動きの大きさをコントロールするだけのブレない体幹が必要になってきます。

 

2. アートとしてのダンス

ここまで語ったのは、いわばダンスのスポーツとしての側面。

どれだけ技の完成度を上げられるか、フィギュアスケートで言うジャンプの完成度の高さみたいなもんです。ダイナミックな動き、ブレない体幹と下半身、スピード感。そしてそれを数曲にわたって維持するだけのスタミナ。これだけでももちろん凄いのですが、丸山さんのダンスの良さを語るには、もう一つのダンスの側面を語る必要があります。

 

それがアートとしてのダンス。丸山さんの身体表現の上手さがここに関わってきます。

みなさんは伝えたいことがある時、何で伝えますか?

私は圧倒的に言語優位の人間です。実際今もこうして丸山さんのダンスの魅力を伝えるために言葉を尽くして説明しているわけですが、人によっては言語表現がそこまで得意ではない場合もあります。例えば絵を描くことで自分を表現する人もいますし、歌で表現することもあるでしょう。

丸山さんの場合、おそらくですが身体表現がずば抜けて得意なタイプなんだと思います。

例えばモノマネが上手かったり、一発ギャグもかなり身体の動きに頼っていることがありますし、運動神経が良いというのもその一部です。何かを体の動きで模倣したり、伝えたりという点に優れている方なんだと思います。

そして究極の身体表現が、ダンス。

丸山さんは歌手が会場のボルテージや自分のコンディション、伝えたいメッセージに合わせて表現方法を変えるように、ダンスでも表現方法を変えてくるのです。

実は私がそれに気づいたのは結構最近です。どうしてもDVDだと収録日のダンスしか見れませんし、ライブでも日ごとの違いより、メンバーごとの違いの方が比べやすいため、あくまで公演ごとのダンスの違いは誤差やブレのようなものだと思っていました。

しかし丸山担の友人と語りながら、毎公演の丸山さんのダンスを注意深く見ているうちに、公演ごとの違いが単なる誤差ではないことに気づいたのです。おそらく丸山さんはその日の会場の雰囲気や、自分のテンションに合わせて踊り方を変えています。もしかすると意図的なものではないかもしれませんが、丸山さんのダンスは日によっては壊れそうな危うさがあったり、相手を飲み込むような迫力を身に纏っていたり、誘うような妖艶さがあったり、様々な角度で魅了してくるものでした。

 丸山さんの表現力の幅が顕著に現れるのは、ダンスのアドリブ部分です。

多分丸山さんのダンスにあまり注目してこなかった人は、ダンスのアドリブとは何ぞや?となっていると思いますが、丸山さんは振り付けがついていない時も結構動いています。

私が特に好きだったのは、Dye D?の序盤のソロパートとサビ頭ですが、そちらはまだ映像になっていないので、代替品としてCOUNTDOWN LIVE 2009-2010のマーメイドの最後の最後をご覧ください。モニターに7人が映っている中、丸山さんだけが音に合わせて体をくねらせるような動きをしているのがお分かりになりましたか?

最近だと、8BEATの「赤裸々」のマルチアングルでも確認できます。ブリュレが終わって赤裸々が始まるまでの繋ぎのBGMに合わせて、リズムに乗りながら立ち上がる丸山さんが映っています。

 

あとは映像をお見せできないのが残念ですが、「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」の丸山さんのパフォーマンスはその最たるものでした。公演中に丸山さん自身が振付師がついていないという話をしていましたが、そうとは思えないほど様々な踊りで観客を魅了していました。そしてそれは固定されたものではなく、公演ごとに音に合わせ、テンションに合わせ、違う動きをしていました。

一個人の感想ですが、丸山さんのダンスはヘドウィグを経てさらに豊かな表現力を得たと思います。ヘドウィグはドラァグクイーン。普段男性としてパフォーマンスをする丸山さんと違い、女性よりも女性的なパフォーマンスが求められます。その中で全33公演を経て、丸山さんのダンスには性別という概念を超えた様々な身体表現が染みついたんだと思います。

特に18祭冬のDye D?はそれが存分に活かされたパフォーマンスでした。手元に映像がないのが残念ですが、ヘドウィグのExquisite Corpse(=優美な死骸)を思い出す、壊れる一歩前のような危うい色気が出ていました。

女性的な動きを違和感なくダンスの幅に組み込める要因としては、これもまた語ると長くなるので出来るだけ簡潔にお話しますが、丸山さんは顔立ちや骨格のバランスから曲線的なものや華やかなものが似合うタイプというのが挙げられると思います。一般的には曲線的なものというのは女性的な印象を与えるアイテムが多くなっています。しかしそれらのアイテムの女性的・中世的といった印象に振り回されることなく、自分の魅力として飲み込んでしまえるのが丸山さんの風貌。ダンスにおいても同じで、他の男性なら女々しく見えるような女性的な振り付けも、丸山さんにとっては自分自身の色気を増すための動きの一つにしかならないのです。

 

今回はダンスという面に焦点を当てているためあまり言及していませんが、表情や立ち方も丸山さんの「身体表現」という意味では、構成要素の一つです。

丸山さんのダンスをじっくり見ている人にとってはお馴染みの、腰に手を当てる立ち方。DVDだと47の二人の涙雨の曲終わりを見てもらえると分かりやすいと思います。片側に寄せた重心、引き締まった腰回りを強調する手、体の色気をしっかりと受け止めるだけの色気に満ちた表情。ただ「立つ」という動きさえも、丸山さんのダンスにおいては表現の一つなのだと思います。

 

つまり、丸山さんのダンスは、豊かな身体表現を実現できるだけの身体能力の高さ(パワー・スピード・柔軟性・持久力)と、身体表現と身体能力を結びつける音楽に対する感受性と抜群のリズム感によって成り立っているのです。

 

3. 初心LOVE

せっかくなので、具体的に曲を挙げていきましょう。

まずは全然うぶさを感じさせない丸山さんにLOVEしか感じないこの一曲。

はい、ソロアングルを再生してすぐ止めてください。ここからは関ジャムのTAKAHIRO先生のごとくひたすらしつこく止めながら説明していきます。

まずこの正面から見える綺麗な手のポーズと、大人の余裕を感じさせる笑み。丸山さんのダンスはダイナミックさが魅力でありながら、こうした細かい表情や指先の角度まで含めて、しっかりと演出を感じられるような作り込みがもう一つの魅力です。ただポーズを取って立っているだけ、そこにもしっかりと気が配られているのが丸山さんの真骨頂です。

 

「一歩ずつ叶えよう」

はい、止めてください。細かくてすみませんね。

今の歩き方と手の突き出し方を見ました?見てなかったら巻き戻してください。丸山さんのダンスは、まるでミュージカルでもやっているかのような、あるいはモデルがランウェイを歩くときのような、人によってはトゥーマッチにすらなりそうなほどの2枚目感ある歩き方も最高なんです。歩いている時に肩が上下に揺れているのわかりますか?それだけ1歩1歩大きく踏みしめて、かつ音楽に合わせて動いてるんですよね。

そして手の突き出し方。これこそが丸山さんのダンスの力強さとダイナミックさを演出する重要なポイントです。コマ送りすると、「叶え”よう”」で手を突き出す前に手を後ろにねじっているのわかりますかね?隣に映っているただよしんごも手は引いているのですが、丸山さんほどじゃありません。丸山さんは肘から上が完全に体の後ろに隠れるほど大きく後ろに引いた後、勢いよく前に突き出し、指先までピンと伸ばしています。

この下手すると10cmもない小さな前準備が、丸山さんのダンスをダイナミックに見せる秘訣なのです。丸山さんはこういう動きたい方向と反対の方向に先に動かしておくというのを頻繁にやっています。

 

少し進みまして、大倉さんのフェイク「wowow oh oh…」のところです。

手を腰の横あたりに右、左の順に出す振り付けですが、丸山さんのコートがやたらはためいているのが分かるでしょうか?これは丸山さんの衣装のせいではありません。丸山さんの動き方のせいです。この動き、本来は肩から先だけを動かせばいいのですが、丸山さんは肩がめちゃくちゃ動いています。それによって衣装が揺れているわけですね。腰を揺らす動きが色っぽいのは皆さんご存知だと思いますが、丸山さんはこの胸部を揺らす動きが特徴的。これがあることによって、丸山さんのダンスの色気はさらに増しています。

 

そのまま「fore"ver"」のところです。

体の左側で手の甲でハートを作った後に、手をふわっと広げる振り付け。そうここが丸山さんの胸のアイソレーションポイント。この手の手を広げる振り付け、丸山さんは基本的には必ず胸を動かしています。これによって本来は肩から先しか動かないはずなのに、体全体がリズムに合わせてふくらむことで、より華やかに見えているわけですね。

 

はい、今のところから再生して1秒ほどで止めてください。丸山さんが歩き出しましたね。

気づきました?歩き始める前にちょっと飛んでるんです。これが動きの前準備です。これによってただ歩くだけよりも、同じ距離しか動いていないのに、大きく動いているように見える丸山さんマジックです。そしてスキップのような軽やかな移動。序盤の歩き方は比較的距離が短く、合わせるテンポがゆったりだったため、ランウェイのような重厚感ある歩き方でしたが、ここは音楽にベース・ドラムが加わってビート感が出たため、丸山さんの歩き方もそれに合わせて変わっています。この歩くひとつ取っても単一ではない表現のバリエーションが丸山さんポイントです。

 

「心がざわめく」

ここの丸山さん、音楽に合わせてめちゃくちゃ動きに緩急つけてるのわかりますか?

歌唱の「ざわめ"く"」の部分で音が短く切れるのに合わせて、そのタイミングの動きだけ速くなってるんですよ。

 

「本音を知りたいのは」

出ました。丸山さんの小ジャンプ。歌い出しに合わせて軽く飛びながら歌うという、意外と難易度の高いことをしています。歌唱力とリズム感と体幹の基礎力がよく分かりますね。「本音」の「ほ"んね"」あたりで右足を外に回すように広げる振り付けがありますが、ここも他のメンバーより0.5テンポくらい入るのが遅いんですよ。その分、足を動かすスピードが他の人よりもかなり速い。もう一回言うけど、これをソロパート(しかも他人の曲)を歌いながらやっている。

ただスピード感があるだけのダンスは、単なるスポーツに過ぎません。丸山さんのダンスは、遅い部分と速い部分のドラマチックな差が表現(=アート)たる所以ですね。

 

「何度も見返す」

肘から先を1周させる振り付け、ここも歌唱に合わせて1周の中でスピードの差がかなりあります。

 

「嘘でしょ」

この後ろでストリングスの音が短く駆け上がりながら鳴っているの分かります?この音が入っていることにより、サビに向けて1段階加速させるような、ドラマチックな展開が作られているのですが、丸山さんはこういう細部の音楽表現を逃しません。ここは歌っている横山さん以外の4人は体を沈める振り付けなのですが、丸山さんはゆったりと体を沈めた後にストリングスの音が上がってブレイクするのに合わせて、グッとバウンドするように深く体を沈めるという2段階の動きをしています。本来は1つの振り付けを細分化して音に合わせるところが、丸山さんの音楽的感性の高さを感じさせます。

 

サビをしばらく流して、「la la la …」のところ。

ここは全体アングルで見てもらった方が分かりやすいのですが、本来ここはLマークを指で作って肘から先を左右に振る振り付け。丸山さんは思いっきり上半身全体が動いています。

ここまでも何回も言ってますが、とにかくひとつひとつの動きが大きい。良い意味で無駄な動きがとにかく多い。緩急つけるのもそうですが、言葉で説明するのは簡単です。でもいざこれをやろうとすると、体の動きが間に合わないし、体力も保たない。こうすればダイナミックに見える、こうすれば綺麗に見える、それをさらりとやってのけるだけの基礎的な身体能力が必要不可欠というわけです。

 

そして最後のポーズ。止めてください。

分かります?この完璧なポージング。指先まで意識のはりめぐらされた右手、腰に巻きつくような左手、首の絶妙な角度、体重の乗せられた左足と、軽く曲げて添えられた右手、そして表情。

丸山さんのダンスはこうして静・動が合わさって完成するわけですね。

 

4. マーメイド

さあ、次の曲に参りましょう。

続いては「マーメイド」のソロアングルを見ていきます。

ちなみになんですけど、丸山さんの一番得意なダンスのジャンルってなんだと思います?丸山さんの風貌から、しっとりしたダンスとかゆったりしたダンスを想像する方も多いかもしれませんが、丸山さんの真骨頂は動きのパワフルさ・ダイナミックさです。つまり強さなんです。

私としては、丸山さんのダンスが最も魅力的に見えるのはヒップホップやロックダンスだと思っています。動きの速さと止めの力強さ、細かいビート感が丸山さんの最も得意とする動きとマッチしているのではないでしょうか。

というわけでロックダンスの動きが様々に織り込まれたマーメイドは必見です。

 

大倉さんのソロパートが終わり、テンポが上がって動き出しのフォーメーションチェンジ。

ここ丸山さん、めっちゃ移動距離長いんですよ。下手から2番目に立っていたところから、上手の1番端に移動する、つまりほぼ端から端まで移動してるんですね。その上でこの動き方。足を外側に出しながら、体を低くかがめて移動する。

そして移動距離を稼ぎながら次の音に合わせるために前に低く跳躍。丸山さんのジャンプはこの飛距離の長さと重心の低さが魅力ですね。上に飛べばもちろん長く飛べるわけですが、丸山さんはそこまで高さは出していないにも関わらず、空気を掻っ切るような前のめりな跳躍。獲物を密かに狙う肉食獣のような静けさと力強さが同居しています。

そして出ました。手を外側に広げる振り付け。今回は重心が低いので胸は動かしていませんが、一瞬外側に素早く手を広げた後、ゆったりと舞うように手を下ろす2段階構成。音が落ちるのに合わせて緩急をつけています。

そしてそのまま完全にしゃがみ込むほどの低さまで体を落として、そこからゆっくりと体を起こします。普通に考えて、深くしゃがんだ状態からゆっくり立つのってめちゃくちゃしんどい。でもその方が大きな動きに見えるのは事実。ある意味コスパの悪いとも言えるような細かい技を多用できるのが、丸山さんの凄さです。

そして村上さんセンターで5人のユニゾンのダンス。

ここはソロアングルで見ると、正直他のダンスに比べるとそこまでピンとこない。で、全体アングルで見たんですけど、多分ここの丸山さん、リズムキープに重きを置いてる。何回か言ってる通り、丸山さんのダンスは入りが遅く、そこから急加速するのが特徴。でもそれだと他のメンバーとタイミングが合わないんですよね。ここのパートは歌唱も一切なく、全員で揃えるダンス。しかも丸山さんのポジションは一番端。だからあえて表現をミニマムに削って、5分の1に徹しているのかなと。

 

そしてユニゾンダンスが終わり、「lalalailala…」に入る少し前。

ベースの音に合わせてゆっくりと時計回りに上半身を動かすところですが、回し始める時は右斜め上に体を大きく伸ばし、そこから一気に床に肘がつきそうなほどの低さまで沈む。ちゃんと見ていないと「なんかカッコいい」で終わりそうな動きですが、よく見ると色々と工夫されているわけです。

 

そしてここから見逃せないポイント。

スピード感のある「lalalailala…」の歌唱パートと細かく動き始めたベース、それに合わせて振り付けも一気に細かくなります。

何度も繰り返されるロックダンスらしい手の動き。序盤は安田さんの歌唱に合わせて素早く動かし、後半はメロディの緩やかなダウンに合わせてゆっくりと撫で上げる。それが2回繰り返された後、右太ももを上げて左右に振るダンスの時の、体の安定感。

そしてスポットライトが落ちて一転、少しゆるやかなダンスへ。さっきまでの振り付けのこともあって上半身を見てしまいそうになりますが、下半身を見てください。下半身の可動域の広さが色気に繋がっています。

 

そして村上さんの「Don't let me down」から丸山さんパート「愛は白い渦に」への移り変わり。

歌い出し前に左足を後ろに軽く蹴り上げたの見えました?この何気ない動きも実は本来は振り付けにない動き、なのにリズムに合っている。(この何気ない動きをリズムに合わせるという点では村上さんがさらに神がかっているのですが、丸山さんもかなり上手い)

そして「マー"メイド"」の落ちる音に合わせて、右手をゆらりと落とす動き。「孤独を選んだ心を」で胸の辺りを押さえる時の、浮いた人差し指と小指から出る色気。こういう細かい動きの表現力が良い。

後半「海に映る月は揺れてたけど」あたりからは体全体でリズムを刻み始め、安田さんパート「帰らない いつまでも」から踊り始める。そしてターン。

コマ送りできるならしてください。まずターンに入る前に、少し体を浮かせ、しっかりと回りたい方向と反対の方向に体を振っています。これが前準備。からの真後ろを向くまでは、隣の大倉さんよりもかなり遅い速度で動いていることが分かります。しかし真後ろを向いて戻ってくるところで、突然大倉さんに追いつく。つまり、ターンすら緩急をつけた2段階構成。てかターンってある程度勢いをつけてそれに任せて回るものなわけで、それを途中でスピードチェンジするってどういう運動神経?

 

サビが終わり、少し歪んだ音と共に赤い照明に包まれユニゾンダンス。

ほら、丸山さんの得意な腕を広げる振り付けが大量に出てきました。どう見ても大倉さんやヒナちゃんと違うリズムの取り方をしている。カウントではなく、完全なる音合わせ。思ったんだけど、もしかして丸山さんカウントで踊るの苦手ですか?だから振り付け覚えにくいのでは。

そしてヒナちゃんのソロダンスに合わせ、波打つように手足を挙げる。

この動き、ただでさえ足上げ腹筋なのでしんどそうなのですが、丸山さんは上体を起こした後、背中を床に完全に戻し切らないまま普通に腹筋だけで起き上がる。なにその筋力。

 

そして「呼吸が続かないよ」で華麗にターン。

もう説明端折りますが、やっぱりこのターンもトップスピードが異常。そして次の振り付けに入るまでがノーモーション。「ないわぁ〜フォーリンラブ」の間奏の横子・安子・丸子がジャンプしてから踊り始めるところもそうなのですが、丸山さん、振り付けと振り付けの間が短すぎる。短いというより、そもそも間が存在しない時すらある。それがこれ。

普通はターン終わった後にコンマ数秒でも体勢を整えてから次の振り付けに移るものですが、丸山さんはターンと次の腕を後ろに回す振り付けが完全に繋がっている。つまりそれだけ安定感のあるターンをしているということ。でもさっきも言ったけど、丸山さんのターンはトップスピードが異常。もちろんコマ回しみたいに、スピードを上げれば上がるほど回転中の安定性は増す。でもダンスにおけるターンは、コマみたいに力尽きるまでいつまでも回っているわけじゃない。どこかで止める必要がある。ということは、スピードがついた分だけ本来は止めるのが難しくなるはず。下半身で床を捉えても、慣性の法則で上半身は回り続け、軸がブレる。だから普通は、そのブレを整えるための間が必要になってくる。そこでしっかりと止まるために、丸山さんは体を一気に低く広げてブレーキをかける。

この抜群の運動センスによってこの間を最小限に削ることで、丸山さんのダンスはキレよく激しく、そして華やかに一気に低く広がるわけです。

 

5. ichiban

ここまで初心LOVEとマーメイドを詳細に解説しましたが、じゃあ丸山さんのダンスが一番味わえるのはどれか?と聞かれた時、私は今現在はichibanを推しています。

ワイドショーの映像でもichibanのダンスシーンは何局かで紹介されていたので、もし手元に映像がある場合はそちらをご覧ください。ない場合は、(大声では言えませんが)探してください。多分誰かがアップしてます…。

 

まずは上半身から見ていきましょう。

丸山さんのダンスのパワーとスピードがすごいという話は先に述べた通りですが、それが最大限に発揮されているこの振り付け。特に「ただやる」のところの胸を叩く動きの力強さと、そこから2回目の「一心不乱」の手を広げる動きに繋がる滑らかさ、そしてスピード感。

しかし何よりも見てほしいのは、下半身の躍動感。

このダンス、そもそも上半身の動きも結構忙しいのですが、それに加えて下半身で常にリズムをとり続けているところが特徴的。ともすれば上半身の動きに気を取られて、足元はおろそかになりそうですが、両方にフルパワーを注げるのが丸山さんの基礎力の高さ。

特に最初の「No.1 一番 ただやる 一心不乱」のところ。膝関節って普通は上下の方向に動きに対応しているものですが、丸山さんは横の可動域が凄まじい。そこまでダイナミックに横に動かしながら、もちろんリズムキープも完璧。かつサイドに体重を移動させるたび、毎回微妙に飛び跳ねてるの分かります?この左右+上下の2方向の立体的な動きが、丸山さんのダンスに躍動感を与えているわけです。加えて「気がつきゃTOP独走 Winning Run」で、右足を左後ろに踏み込む振り付けがありますが、この踏み込みの深さ。

で、もう一回言うけど、これをリズムに合わせているところがすごい。

サビのワンフレーズのみの映像ですが、丸山さんの基礎力・身体能力の高さが抜群に表れているのがこの曲だと思います。

 

6. おすすめ映像

ここまで読んでいただければ、丸山さんのダンスの虜になったことでしょう。ていうかなれ。

初心LOVEもマーメイドも楽しみ尽くした。次のライブ映像まで待てない。という方のために、おすすめのダンス曲をまとめておきます。ちなみにですが、丸山さんのダンスは圧倒的にライブ映像がおすすめです。なんせ会場のテンションや自分のコンディションに合わせて表現が伸びる男なので、撮影よりも生パフォーマンスの方が圧倒的に良いです。

 

Spirits!!収録

・明日

丸山さんの得意なロックダンスがふんだんに見れる一曲。しかも大山田のユニット曲なので、他の古い7人の映像と比べて丸山さんを見つけやすい。若い頃の丸山さんの動きは今よりもさらにパワフル。

Heat Up!収録 

Heat is on

ロックダンスもありつつ、サビのダンスは体をくねらせる柔らかい動きもある。この頃の丸山さんの体の厚みと少しでも刺激すると弾けて飛び散りそうなくらいパンパンに詰まった色気は必見。特にサビ終わりの間奏ダンス、丸山さんが踊りながらニヤッと顔を歪めるところは凄まじい色気。

47収録

・Explosion

ソロパートが多い分、表情も見やすい。そして引きの映像ではパワフルな移動、低く鋭い跳躍、ダイナミックなステップ、足元にも注目してください。

・地元の王様

そこまでダンスが多い曲ではないですが、その分丸山さんの立ち方や表情の使い方の上手さが分かりやすい。静と動のコントラストをお楽しみください。

・悲しい恋

丸山担としては殿堂入りさせたい一曲。ラテンっぽさもある妖艶な振り付けと物悲しい歌詞にマッチして、丸山さんの色気が爆発中。腰の動きが好きな人におすすめ。

・二人の涙雨

ダンスはあまり多くないものの、スタンドマイクで位置がほぼ固定されてる分とても見やすい。そして丸山さんのスタンドマイク使いは最強。腰の動きもさることながら、指先まで張り詰めた色気が天下一品。最後のポージングも絶対見てほしい。

PUZZLE収録

・アカイシンキロウ

悲しい恋や二人の涙雨は丸山さんの重厚感ある色気を楽しめる曲なのに対し、アカイシンキロウはとにかく軽やかで鮮やか。ものすごくスタミナ使いそうなフルパワーのステップを曲の最後までだれることなく続ける丸山さんはとてつもなくカッコいい。

COUNTDOWN LIVE 2009-2010収録

・マーメイド

もちろん18祭のマーメイドも良いけど、個人的にはこっちの方が好き。歌パートが少ない分、ダンスにエネルギーが注がれているように感じる。美しいほどの重心の低さと最後の最後のアドリブダンスに注目。

・悲しい恋

何度見ても良い殿堂入り曲。こっちの方が移動が少なくて見やすいのと、体つきが分かりやすい衣装なので、丸山さんの動きそのものを味わうならこっち。

8UPPERS収録

・泣かないで僕のミュージック

階段使いが天才的な一曲。ダンス中の丸山さんに小物や舞台セットを与えると天才になる。階段を踏み外すところなんて全く想像できない華麗なステップとしなやかに伸びる指先。特にイントロ終わりのターンのスピードと止まる時の立ち振る舞いの華やかさはコマ送りで見てほしい。

・ほろりメロディー

エッチですね。油断するとそれしか言えない。アップテンポの歌謡曲に合わせた体をくねらせる振り付けに惹き込まれる。腕を伸ばす振り付けが多いので、腕の長さも味わえちゃったり。

・Techno Pop Medley

珍しく可愛い曲。なんかもう上手い。首の角度、腰の使い方、肩の揺らし方、全部が計算づくなんじゃないかと思ってしまう。上手すぎてもはやカッコいい。

JUKE BOX収録

・へそ曲がり

最近の曲で力強さとか躍動感を味わうならこれ。持て余しそうなほどの足の長さを完璧にコントロールしていることがよくわかる。帝王。

関ジャニ∞リサイタル 真夏の俺らは罪なヤツ収録

台風ジェネレーション

懐かしのロックダンス。衣装のタイトさのおかげで、丸山さんの肉厚さを一緒に味わえる。さらにサビの手を上にゆっくりと持っていきながら腰を左右に揺らすところは、見てはいけないのではと思ってしまうレベルの色気。

8BEAT

町中華

丸山さんのアドリブダンスといえばこれ。もちろん元から振り付けついているとこも最高なんだけど、それ以外もじっくり見てほしい。特に終盤のフェイク前、シェネターンのような2連続ターンをしれっと入れるところが丸山さんって感じがする。丸山さんはロング丈の衣装を着ると無双なので。

・YES

結局何回ウインクしてんの?丸山さんのダンスは表情も含めてようやく完成することがよくわかる。サビは指先に、それ以外は腰の動きに注目。

 

こうして私は丸山さんのダンスの虜になっているため、油断すると丸山担に戻ってきてしまう。危ない。18祭も結局ほとんどは安田さんを見ているのに、ジャニーズメドレーとBlack of night~Dye D?になると丸山さんを追っていました。見た目がどタイプだとほんと逃れようがなくて怖い。丸山さん怖い。饅頭怖い。

 

 

パラダイス 粗くないあらすじ&考察

パラダイスが閉幕しました。

今まで舞台の最多観劇はヘドウィグだったのですが、今回また記録を更新してしまいました。

本当は大阪公演だけを観る予定だったのですが、大阪千秋楽が終わった後、どうしても我慢できず、東京のチケットを探してしまったというハマりっぷりです。

良い舞台を観終わった後は、外から見ると抜け殻になったみたいな生活になってしまうのですが、本当はむしろ中身がパンッパンに詰まって身動きが取れないと言った方が適切な状態です。だからこうして推測したり、想像したり、妄想したりしてなんとか咀嚼し、ブログを書くことで、ようやく元の人間の形に戻れる次第です。

パラダイスを観ていない人にもどうにかこの感情をそのままお伝えしたくて、加えて自分の中でこの作品をいつまでも残しておきたくて、いつも細かすぎるあらすじを書いてしまいます。今回は公演期間中からあらすじを書き残し始めたので、いつもよりは覚えていたのですが、やっぱりうろ覚えの部分も多いです。

私は他人の書いたものを見てしまうと、記憶が塗り替えられるような気がして、できるだけ見ないタイプです。なので私と同じくあらすじを飛ばして考察だけを読みたい方はこちらからどうぞ。

それではまずはあらすじから。

あらすじ

ステージが上下で分かれている。

下部に雑居ビル。デスクが1つ、皮張りの黒のオフィスチェアが1つ、ボロボロのオフィスチェアが1つ、脚立が2つ、机の上には固定電話。


中央で1人の男が血まみれで梶に殴られている。
真鍋と研修生たちがそれを見ている。
真鍋は時々時計を見る。
梶は這いつくばる男の髪を後ろから掴む。

真鍋「梶さん、ぼちぼち」
梶「え?」
真鍋「ぼちぼち終わりにしないと」
梶「いや、中途半端が一番良くないと思うんだよね。だって、このままだったらただの暴力じゃん」

手を離した梶は、周りにいる研修生に話しかける。

梶「別に俺、コイツを殴りたくて殴ってるわけじゃないから。むしろ感覚的にはお祓いに近いっていうか、ほら、バンバン叩いて悪魔を追い払う的な。だってコイツほんと終わってるから。俺こういう奴何人も見てきてるから、ちょっと心配で」

原田「すいません、本当にすいません」

梶「それは何に対する謝罪?」
原田「すいません」
梶「え、今お前、俺に謝ってない?みんなに謝れよ」
原田「すいません、あの、言い訳するわけじゃないんですけど、人身事故で電車が止まってて」
梶「やっぱコイツ全然分かってねえじゃん」

梶と真鍋は目を合わせ、真鍋が男を殴る。

真鍋「ぐちゃぐちゃ言い訳すんじゃねえよ」
梶「この世界白か黒しかねえから、別に悪くないと思ったら謝らなくても良いんだよ?」
真鍋「お前男だろ」
梶「男とか女とか関係ないから、それ言ったらコンプライアンス的にちょっとアレだから、今そういう時代だから」
真鍋「すいません」

原田が梶の足元で土下座する。

原田「あの、遅刻してしまい申し訳ありませんでした」
梶「そうだよ!」
真鍋は男に向かって大袈裟に拍手をする。

梶「その言葉が聞きたかったんだよ。それを言うまでにお前どれだけかかった?遅刻は絶対するなって最初に言ったよな?2回目だぞ。しかも何食わぬ顔で仕事始めて、俺らが見逃すと思ったわけ?そんな甘い世界じゃないから!ここは戦場だから」
真鍋「ここは学校じゃねえからな」
梶「悪いと思ったらきちんと謝る、それがこの世界のルール」
真鍋「ここは学校じゃねえからな」
梶「規律が全てなんだよ!学校で教わんなかったか?」
真鍋「ここは学校じゃねえからな」
梶「あんだけ遅刻はするな遅刻はするなって何回かも言ったのに、3日間で2回も遅れてくるってどんだけだよ!よっぽど人間が腐ってんだな!今までもそうやって誤魔化し誤魔化し生きてきたんだろ!その慣れの果てがこれだよ」

梶は窓の方を見上げる。

梶「てかあっちい、なにこれ?冷房壊れてんの?」
真鍋「いや、壊れてはないんすけど、風が冷たくならないんすよ」
若林「窓開けましょうか?」
梶は若林を無言で見返す。
若林「いや、なんでもないっす」

梶「おい、原田」
原田「え?」
梶「原田だっけ?」
原田「はい」
梶「お前今いくつ?いや、歳」
原田「38です」
梶「38!?俺より年上じゃん!コイツ、誰が連れてきたの?」
真鍋「池ちゃんっす」
梶「池ちゃん?」
真鍋「池ちゃんっす」
梶「池ちゃんかよ」
真鍋「池ちゃんっす」

真鍋と梶は顔を見合わせながら笑う。
その間に原田が必死に謝りながら入ってくる。

原田は梶に向かって土下座する。
原田「遅刻してしまい申し訳ありませんでした!」
梶「だーかーら!」
梶は再び男を殴る。望月のスカートに血が飛び、望月は悲鳴をあげる。
梶「俺に謝ってどうすんだよ。みんなに謝れよ」

足元を気にする望月に梶が気づく。

梶「あ、ごめん、血ついちゃった?」
望月「いや、大丈夫です」

望月は怯えている。
梶「あとでクリーニング出しといて。請求書渡してくれたら精算するから」
望月「大丈夫です」
梶「いや、そういうとこちゃんとしとかないと、じゃないとあとあとめんどくさいから」
望月「はい」

男は研修生全員に土下座して謝っていく。1人だけ謝り忘れられている。

梶「どうだ?みんな、許してくれるか?」

研修生たちは梶に怯えながら頷く。
しかし1人だけ恐る恐る手を挙げる。

若林「あの、俺、コイツ許す気ないんですけど」
梶と真鍋は目を合わせる。真鍋は若林を牽制するように立つ。
若林「いやだって、迷惑じゃないっすか。失礼ですけど梶さん?優しすぎますよ。コイツ絶対また繰り返しますよ」
原田「あぁ?」
若林「こうしてる間にも時間は過ぎていくわけだし。早く仕事始めたいじゃないですか。こんなやつもう出し子でいいですって」
原田は若林を睨みつける。
原田「ふざけんなよ」
若林「ふざけてんのはお前だろ」

原田が立ち上がり、若林に向かっていく。
原田「やんのかコラ」
若林「やんねえよ」
原田「やんのかコラ」
若林「やんねえよ」
原田「やんのかコラ」
若林「だからやんねえよ!」
原田は若林に掴みかかろうとするが、真鍋に引き剥がされる。
若林「服伸びちゃったじゃねえか!」

真鍋は若林を睨みつける。
真鍋「お前は黙ってろ。梶さんに意見するなんて100年早えよ」
梶は笑いながら真鍋の肩に手を置く。
梶「いいって、コイツの言う通りだよ、俺優しすぎるんだよ」
梶は若林に近づく。
梶「お前名前は?」
若林「若林っす」
梶「ありがとうね。いや、この前さ、俺、服役を体験した元政治家の獄中体験記を読む機会があってね。そんでその中に、身体障害者の受刑者仲間から『俺たちは生まれた時から罰を受けている』って言われるシーンがあって、俺それ読んだ時、目からうろこっていうか。いや、俺には身体障害者の苦悩とか分からねえよ?でも、なんとなく、生まれた時から罰を受けているって感覚は分かる気がする。俺こう見えて結構マトモに育ったんだよ。普通の家庭に生まれて、普通の両親に普通に育てられて、普通に学校にも行ったし、普通に彼女もできたし。普通に大学出て、普通に就職して」
若林「マジっすか」
梶「でもなんか、ずっとモヤモヤしたものを抱えて生きてきた。だから復讐みたいなもんだよね」

若林は曖昧に頷く。

梶「ごめん、言ってること分かる?」
若林「いや、すいません、正直よく分かんないっす」
梶はしんとした周りを見渡し、笑い始める。
梶「ごめん、余計なこと喋っちゃった。忘れて」
研修生の一人が突然口を開く。
「梶さんの言ってること、なんとなく分かります」
梶は真鍋と目を合わせて笑う。
梶「分かられちゃったよ」
望月「私も分かります。復讐したいです」
若林「え、誰に?」
望月「誰かに」

梶「ここは砂漠だ。俺たちは喉がカラカラに乾いている。雨が降る気配もなけりゃ、井戸を掘る体力もない。夜露をすすって耐え忍ぶしかない。しかしそこには水をたんまりと溜め込んだ連中がいる。泣き叫ぶ子供にも知らんぷりで、のうのうと生きている老人どもがいる。お前らならどうする?奪うだろ」
真鍋「何も一文なしのホームレスから身包み剥がそうってわけじゃねえ。資産1億の連中からたった300万掠め取る」
梶「それって罪か?これって罪なのか?」

研修生たちは床に座ってファイルを開き、電話をかけ始める。真鍋と梶は監視するように見回る。

真鍋「いいかお前ら、契約営業を舐めんじゃねえ。マニュアル通りにやるな、臨機応変に」
梶「いいかお前ら、相手を騙すんじゃない、信じ込ませるんだ。お前らは被害者だ。お前らが汗水垂らし喉を枯らして必死に頑張っている間に、我関せず涼しい場所でのうのうとあぐらをかいて過ごしているやつがいる。悔しいだろ?腹立たしいだろ?これは犯罪なんかじゃない、単なる復讐だ」

 


ステージ上部にボウリング場。

上手側にレーン。下手側に丸テーブルが1つ、その周りに4脚の椅子がある。机にはソフトドリンクが2つ。青木がボールを投げようとしている。辺見は椅子に座ってそれを見ている。
ボールを投げる。結果はあまり良くない。

青木「あぁ」
辺見「無心でいけ、無心で」
青木「はい!」

青木が投げる。ストライク。
辺見は立ち上がり、ハイタッチしようと手を出す。青木はペコペコしながら控えめに手を合わせる。
辺見がボールを持つ。

青木「集中!」

辺見が構える。

青木「集中!」

辺見がボールを投げる。ピンが倒れる音。

青木「ああっ、割れた」
辺見「ええー、今のであれじゃどうにもなんないよ。今日レーン速くない?」
青木「速いっす。あんまレーンのコンディション良くないっす」
辺見「次のゲーム、レーン変えてみる?」
青木はレーンを熱心に見つめている。
辺見「昔池袋にあったボウリング場覚えてる?まだ点数が手書きだった頃。あそこ良かったなぁ、いつ行ってもコンディション良くて」
青木は相変わらずレーンを見て何かを考えている。
辺見「もっと厚め狙った方がいいのかな?」

ボールが戻ってくる。辺見がボールを持つ。

青木「集中!」

少し苛立った様子の辺見、ボールを構える。

青木「集中!」
辺見「あのさ、さっきから思ってたけど、それやめてくんない?逆に集中できない」
青木「すいません、野球部だったもんで」

辺見が投げる。ガーター。辺見が席につき、青木がボールを持つ。辺見はわざとらしく手を叩く。
辺見「集中!」
青木が投げる。ストライク。青木を睨みつける辺見。辺見が再びレーンに戻る。
梶と真鍋がやってくる。

梶「あれ?辺見さん惨敗じゃないっすか」

からかう梶を青木がたしなめる。3人は無言になり、梶は辺見の座っていた椅子に座る。
辺見が投げる。微妙な当たり。

青木「今日レーンのコンディションあんま良くなくて」
梶「でも青木さんハイスコアじゃないですか」
青木「いや、俺はたまたま」
辺見「今日全然ダメだわ、もう10ゲーム目なんだけど」
梶「えっ、10ゲームもやってんすか!」
青木「辺見さん、勝つまでやめないって聞かなくて」
辺見「いや、でもさすがに限界。もう握力残ってないもん。勝っても負けてもこれで終了」
梶「ていうか、まだ勝つ気でいるんですか?」
青木「いや、まだ分かんないよ。ラストパンチアウトすれば一発逆転もありえる」

辺見がボールを構える。

梶「よっ、お願いします!」

当たらない。
全員が下を向く。辺見が席に戻ってくる。梶は辺見の後ろで真鍋と顔を見合わせながら笑っている。

辺見「そういえば、最近どうなの?」
梶「え?」
辺見「いや、研修。上手いこといってる?」
梶「まぁぼちぼち。いつもと変わんないっすよ」
真鍋「それなりに使えるやつもいれば、そのまた逆もいる感じです」
辺見「まぁ元々がゴミみたいなヤツらの寄せ集めみたいなもんだから、1人でも使えそうなやつがいればラッキーだよ。それよりも躾だけはしっかりしとけよ。とち狂って警察に駆け込まれたりしたらシャレになんないから。まぁ重々承知だろうけども。最近のガキは何考えてんのかさっぱり分からんからねぇ。平気で親に泣きついたりするから。昔の不良の流儀ってやつを全然分かってない。この世界に飛び込む覚悟ができてないんだよ。まぁ、上からすれば、俺らも似たようなもんなんだろうけど」
梶は苦笑いする。

青木が投げる。辺見の番が来て、立ち上がる。

辺見「そういえばお前さ、なんか変な噂たってるけど」
梶「へ?」
辺見「俺たちの親裏切って新しい店、構えようとしてるって」
梶「いやそんなわけないじゃないっすか、誰から聞いたんですか、そんなデマ」
辺見がボールを持つ。青木はレーンを観察している。
青木「辺見さん、厚め狙っていった方がいいっす」
辺見「いや俺も信じちゃないんだけどね、そんなデマ。お前、コイツのパートナーとして、なんか聞いてない?」
真鍋「いや何も」
辺見「気悪くしたらごめんね、ほら俺臆病だから、色々予防線張ってないと上手く眠れないんだわ。お前もこの世界長いんだから、親裏切った奴がどうなるか見てきただろ?」
梶「はぁ」
辺見「分かってるよ、俺もお前と長年連れ添ってきたわけだから。お前がそんなに無謀なやつじゃないことくらい」

辺見がレーンの前に立つ。
辺見「で、俺が勝つ確率はあとどれくらい残ってるの?」
青木「ラストパンチアウトでもすればですね」
辺見「それほとんど無理じゃねえか」
青木「いやまだ分かんないっす」
梶「辺見さん」

辺見がボールを構える。

梶「辺見さん!」
辺見「うるせえな!今ボウリングの時間だろ!」

梶が黙る。
辺見が2投目を投げる。良い結果。

青木「おお!」
辺見「やっぱ厚め狙って正解だったな」
青木「厚め狙って正解でしたね!」
辺見「あ、お前らもやってく?次のゲーム」

辺見が戻ってくる。梶の隣の椅子に座り、梶の席の前にあった飲み物をとって飲む。

辺見「道具屋の赤羽。お前ちょこちょこ相談してるだろ」
梶が顔を上げる。
辺見「なに?バレてないと思った?」
梶「いやあれは」
辺見「ダメだよ、アイツはオーナーの犬なんだから、アイツに話したことは100%オーナーの耳に届いてると思った方が良い。おかげで俺が怒られちゃったよ。指何本か詰められそうになったんだから」
青木が笑っている。
辺見「コイツずっとくすくす笑いやがって」
青木「いや笑ってないっす」
辺見「気持ちは分かるよ、俺も昔同じこと考えから。当然だよ、男なら誰でも上目指すもんだ。親出し抜いて自分だけの城が欲しいわな」
梶「いや俺は」
辺見「でもな、これは老婆心っていうか、アドバイス。最近わかったことなんだけど、俺たちにはどうしても超えられない壁がある。ほら、あの人たち僻みっぽいから。一見さん絶対お断り。京都の老舗の料亭より融通が効かない。だから今を楽しみなさいよ。そこそこ稼いでんでしょ?ま、なかなか自由には使えない金だけど。あ、今何乗ってんの?まだベンツ?田舎臭えからやめとけって」

青木が投げて戻ってくる。

青木「辺見さん、ラストお願いします。もう勝てる可能性ないですけど」
辺見「ええ⁉︎」
青木「すいません、今のスペアで決まっちゃいました。もうパンチアウトしても追いつけないっす」
辺見「それもう投げる意味ないじゃん、あーあ、やる気なくなっちゃった」
青木「そんなぁ、辺見さん投げないと終わらないじゃないですか。お願いしますよ」
辺見「真鍋、代わりに投げて」

真鍋と梶は固まっている。

辺見「いいから、さっさと終わらせてみんなで肉でもパーっと食いに行こう」
真鍋は梶の方を伺い、梶が頷く。真鍋が辺見のボールを持つ。
辺見「俺のボールは使うな!」
真鍋はボールを置き、青木の使っていたボールを手に取る。
辺見「いやそれ結構精密に作ってるから、誰にも触られたくないんだよね」

真鍋が投げる。ストライク。
テーブルの方には梶と辺見だけが残っている。

辺見「そういや親父さん、もう長くないらしいな」
梶「はい?」
辺見「いやこっちの家業の親じゃなくて、お前の本当の親。船橋にある実家の」
梶は呆然としている。
辺見「3年前に膵臓だか肝臓だかに癌が見つかったって。その時は一命を取り留めたらしいんだけど、今じゃあちこち転移しちゃって医者も白旗らしい。もってあと数年だって。しばらく帰ってないんだろ?良い機会じゃない、たまには顔見せてあげたら?」

真鍋が2投目を投げる。連続でストライク。

辺見「ダブル!」
青木「真鍋くんすごいね」

真鍋は辺見と梶の方を気にしながら、ボールを構える。

辺見「あとお前の姉ちゃん、バツイチ出戻り。今実家の肉屋を継いで青息吐息で頑張ってます。その息子、中学1年生、バドミントン部所属。いやさ、将来もっと金になりそうなスポーツ選べばいいのに」
辺見と青木が笑っている。
梶「なんでそんなこと知ってんすか?」
辺見「調べたから」
梶は立ち上がる。
梶「ずっと一緒にやってきたじゃないっすか」
辺見「いや、悪いけど、俺お前のこと信用してねえから。いやお前だけじゃなく全員。世の中そういう仕組みだから。みんな自分のことしか考えてない。もう十分思い知った。いや俺臆病だから」

 

暗転。

 

ステージ下部にリビングダイニング。

下手側にはキッチンとダイニングテーブルと4脚の椅子。上手側にはソファとローテーブル、テレビのリモコン。テレビが点いているのが音で分かる。母・小川節子はダイニングテーブルの椅子に座り、とうもろこしを食べている。父・一郎はソファでテレビを見ている。机には朝ご飯。奥は玄関。リビング付近に階段があり、2階と繋がっている。

姉・美紀が奥の玄関からスマホを耳につけたままリビングに入ってくる。何やら電話の相手に向かって怒っている。

美紀「だから、届けたのはおたくですよね?いやだから、別に責めてるわけじゃないんですけど、私は事実関係をハッキリさせたいだけで」
一郎「なにを朝からごちゃごちゃやってんだ」
美紀「だからなんでそこでAmazonが出てくるんですか?いや、たしかにAmazonAmazonですけど。たしかにAmazonAmazonですけど」
一郎「アマゾン?アフリカの話か?」
美紀「私も今探してるんですけど、ていうかそんなものなくたっておたくに記録が残ってるんじゃないですか?」

美紀は何かを探しながら玄関の方へ去っていく。

節子「アマゾンはアフリカじゃなくてブラジルじゃない?」

2階から梶が降りてくる。
美紀が戻ってくる。
美紀「担当者に変わります⁉︎えっ、担当者に変わります?え、じゃあ私今まで誰と喋ってたんですか?私結構長いこと喋ってましたよね?」
一郎「うるせえな、テレビが聞こえねえじゃねえか」
美紀「じゃあおたくには非がないってことですか?今そういう言い方しましたよね?いや、今、そういう言い方しましたよね?」

梶は美紀の方を見て少し笑う。
美紀はキッチンでタバコを吸い始める。

美紀「いつまで待たせんのよ、あのおっさん。午前中に洗い物済ませて市役所行こうと思ってんのに」
節子「市役所行くんだったら私も行こうかしら。いや、住民票の写しを取りに行こうと思って」
美紀「なんで?え、なんで?」
節子「なんかの会員になるために必要なのよ」
美紀「え、なんの会員?」
節子「なんの会員だったか忘れちゃったけど」

梶は節子と美紀のやりとりに少し笑う。
一郎「聞いても無駄だ、何も覚えていやしねえ、もう耄碌しちゃってっから。昨日も夜トイレ行こうと思って起きたらキッチンから真っ黒な煙が上がってて、慌てて火を止めたから良かったものの、俺がもしトイレで起きてこなかったら危うく火事だったんだから、今頃お前ら死んでたぞ」
節子「コーンスープ飲もうと思って。鍋に火をつけたの忘れちゃったのよ」
一郎「夜中にコーンスープなんか飲むな!夜中にコーンスープなんて飲む日本人聞いたことねえぞ、イギリス人でも飲まねえよ、夜中にコーンスープなんて!」
梶「え、なんの話?」
節子「仕方ないじゃない、小腹が空いちゃって、カップ麺食べようかと思ったけど、それだとちょっと胃にもたれるから、粉末のコーンスープ飲もうと思って」
一郎「それでなんで鍋に火つける必要があんだ、ポットのお湯使えばいいだろ!」
節子「夏場はポットにお湯入れてないの!何も知らないくせに人を老人扱いしないでよ!あたしまだ耄碌なんてしてない。カボチャだって切れるんだから。あんたカボチャ切ったことないでしょ!カボチャってすっごく硬いんだから!危ないのよ、それで昔女優さんが怪我したんだから!」
梶「え、今なんの話?」
節子「ご飯食べたの?」
一郎「いや俺はもう」
節子「冷蔵庫にパン置いてあるから、もしあれだったらトースターでアレして食べて」
梶「いや、いい。お腹空いてない」
節子「とうもろこしもあるのよ、これ、佐竹さんのとこで取れたやつ」
梶「佐竹さん?」
節子はとうもろこしを食べ続けている。
梶「え、佐竹さん?」

美紀「えっ、担当者がいない?担当者がいない?それは担当者が不在ってことですか?それともそもそもそういう人がいないってことですか?あっ、ビックリしたぁ、そうですよね、不在ですよね。いや、そういう会社かと思って。いや、そういう部署がない会社かと思って!」
一郎「何ごちゃごちゃやってんだ。貸せ、お前女だから舐められてるんだよ」
美紀「それでいつお戻りになるんですか?いや、戻る時間がわかったらこっちから掛け直そうと思って」
一郎「だから貸せって」
美紀「じゃあもういいです!私も忙しいんで。こっちもいつまでも電話してるわけにいかないんで。だからAmazonは関係ない!そりゃAmazonが悪いことだってありますよ。私もそれは何度か経験してます。でも今回ばかりはAmazon悪くないと私は思います!」

美紀は電話を切る。

梶「宅急便?」
美紀「何を聞いてものらりくらりで。何考えてんのかねぇ、ああいう人たちは」
節子「責任取りたくないのよ」
美紀「別に私は責任とかじゃなくて。ただ送られてきたワイングラスがちょっと欠けてただけだから」
梶「え、姉ちゃんワインとか飲むんだ」
美紀「いや、ワインって言っても高級なやつじゃなくて、格安に売ってるようなそういうやつ。なに?」
梶「いや、発泡酒のイメージしかなかったから、ちょっと意外っていうか」
美紀「そりゃ私だってワインくらい飲むわよ」
梶「ふーん」

節子が梶の方を向く。

節子「今日泊まっていくの?」
梶「いや、もうぼちぼち帰ろうと思って」
節子「泊まっていくならお寿司取ろうと思ってたんだけど、ほら、あのワカバさんとこの」
梶「ワカバさん?」
一郎「あそこはダメだ、シャリがデカすぎてすぐ腹いっぱいになっちゃう」
節子「じゃあどこ?」
一郎「そうだな、タチバナさんとことか良いんじゃねえか?」
節子「ええー、私あそこ嫌い。出前のお兄さんが感じ悪いんだもの」
一郎「出前のお兄ちゃんは関係ねえだろ、寿司が美味けりゃそれでいいんだ」
節子「でも、見た目もなんか不潔だし、ちょっと近づくとすごく汗臭くて」
一郎「そいつが寿司握ってるわけじゃねえんだから」
節子「でも生モノだから気持ち悪いじゃない?おつりだって汗でビッチョビチョの時あるんだから」
梶「そうなんだ」
節子「あの男の子って浩一と年同じくらい?」
一郎「いやぁ、もっと若いだろ。まだ20代かそこらじゃねえか?」
節子「えー、20代?」
一郎「俺一回パチンコ屋で会ったことあるんだ。『小川さーん!いつもお世話になっております!』って甲高い声で話しかけてきやがって、恥ずかしいったらありゃしねえ。ヤクザじゃねえんだからそんな挨拶やめてくれって言ったんだけど」
節子「あれ?マロンちゃんどこ行った?」
梶「マロンちゃん?」
節子「猫。もう住み着いて5年くらい?元々野良だったんだけど、餌あげてたらいつのまにか住み着いちゃって。今じゃこの家で一番大きな顔して暮らしてる。あれ?浩一は見たことなかったっけ?あの子、知らない人がいるとすぐ隠れちゃうから」
梶「そうなんだ」

一郎はキッチンでタバコに火をつける。

節子「ちょっと、タバコやめてってお医者さんに言われてるでしょ?」
一郎「1日3本。これまだ1本目」
節子「そんなの誰が決めたのよ」
一郎「3本くらい吸ってる内に入んないから」
節子「誰が言ったのよ、そんなこと。あなたが勝手に言ってるだけでしょ?」
一郎「あー!ごちゃごちゃごちゃごちゃうるせえな!これタールが1ミリしか入ってないの。ほとんど味しないけど我慢して吸ってるの。こんなの吸ってるうちに入んないから!」
梶「お父さん昔ハイライトだったもんね」
節子「駅前にコンビニあるでしょ?」
梶「あー、あそこ元々クリーニング屋さんだったよね」
節子「この人そこで隠れてお酒飲んでんの。お医者さんに止められてて家で飲めないからって、コンビニの駐車場で飲んで帰ってくるの。本人は何食わぬ顔で戻ってくるんだけど、顔真っ赤にして足元フラフラで、もうバレバレ。それであたしと美紀が『お父さんまた飲んだでしょ?』って問い詰めたら、飲んでないって言い張るの。バカみたい。バレてないわけないじゃない」

節子が立ち上がってリビングを出ていく。
梶「え」
節子「おトイレ」

一郎はテレビに怒っている。
一郎「まーだ戦争やってんのか、中国のバカ!どいつもこいつもバカばっかりだ!」
テレビを消し、リビングを出る。梶は一郎の方を見ている。

一郎「散歩」

一郎が玄関に消える。

一郎「泊まれるなら泊まってけ、母さん喜ぶから」

梶だけがリビングに残る。冷蔵庫の横で立ち尽くし、周りを見渡す。
美紀が戻ってくる。

美紀「あれ、誰もいない」
美紀は一郎の座っていたローテーブルのあたりに立つ。
美紀「お父さーん、食べないなら捨てちゃうよ。早く洗い物済ませたいから」
梶は玄関の方を見る。
美紀「はぁ、誰もいない」
梶「俺はいるけど」

美紀は一郎の使っていた皿を持ってキッチンに立ち、皿に残っていたものを捨てる。

梶「いや、しばらく見ない内にもう完全な老人じゃん。いやもちろん、俺もそれなりに年取ったけど」
美紀は洗い物を始める。梶はソファの肘掛けに腰をかける。
梶「息子、もう中学生?まだ会ったことないな。あ、今学校か。部活とか入ってんの?運動部?」
無言。
梶「なに、怒ってんの?」
美紀は洗い物を終えて手を拭き、梶の方に向かってくる。
美紀「客観的な意見を聞きたいんだけど、ウチのコロッケ今70円なの。来週から20円値上げして90円にしようと思ってるんだけど、あんたどう思う?」

 

暗転。

 

ステージ下部はいつもの詐欺グループの店。研修生たちが地べたに座り込み、カップ麺やコンビニのパンを食べている。
ステージ上部はそのビルの屋上。下手側にパラソルとテーブルに椅子が4つ。若林と辺見が座っている。青木はうろうろしている。真鍋はBBQ用のグリルの前に立って肉やとうもろこしを焼いている。
屋上側が明るくなる。ヘリコプターの音。

辺見「えらい低いとこ飛んでくんだね。なに、自衛隊?」
真鍋「この時間いつも訓練かなんかで、この辺旋回してるんですよ」
辺見「自衛隊のみなさん、お疲れ様です!昼間っからシャンパンなんて飲んでごめんね」

若林がゲラゲラ笑う。

辺見「あなた方が守ってくれているおかげで、この国は平和です。おかげで国民がすくすくとアホに育っております。おかげさまで大金稼がせてもらってます!いつもありがとうございます!ほら、お前らも」
青木「ありがとうございます!」
若林「あざまーすっ!」

辺見が肉を焼いている真鍋の方に近づいていく。
辺見「日本最高。パラダイス」
若林「辺見さん、もうシャンパンなくなっちゃいました。もう一本開けます?」
辺見「いやいい、泡系はもうお腹いっぱい。ワイン開けといて」
辺見が席に戻り、青木が真鍋の方にやってくる。

青木「真鍋くんどう?肉、まだ食べれそう?」
真鍋「いやぁ、自分はそろそろ」
辺見「だから言っただろ、お前買いすぎだって」
青木「いやでも、俺興奮しちゃって。あんなに興奮したの人生で初めてっすよ!真鍋くん行ったことある?コストコ
真鍋「コストコ
青木「あそこもう日本じゃない」
辺見「アメリカ」
青木「そうアメリカ!幕張まで行ってきたんだよ。俺昨日あんまりよく眠れなかったから、正直辺見さんに誘われた時めんどくさいなぁって思ってたんだけど」
辺見「おい」
青木「いやでも!行ってみたら本当に楽しくて、大人気なくはしゃいじゃいました。だって食材も飲み物もお菓子も洗剤も全部が馬鹿でかい!おかげで洗剤とかキッチンペーパーとか全然いらないものまで買っちゃった。牛肉もこんなデッカい塊で売ってて」
若林「幕張って、幕張メッセ?」
辺見「確かにあんなはしゃいでる青木初めて見たよ」
青木「だって全部が馬鹿でかいから!」
辺見「お前何回言うんだよそれ」
若林「いいなぁ、俺も行ってみたいな」
青木「行こうよ!みんなで。今度でっかいハイエース借りて」
辺見「お前どんだけ買うつもりなんだよ」
青木「辺見さんのポルシェじゃダメです」
辺見「は?」
青木「あそこはあんな車で行くところじゃないんで」
若林「え、そこって、家電とか売ってます?」
青木「家電?」
若林「いやなんか、最近ドライヤー壊れちゃって、Amazonとかで探してるんですけど、全然いいのがなくって」
辺見「家電なら2階にあったよ」
青木「え、辺見さんいつのまに2階行ってたんすか!」
辺見「いやお前が1階で夢中になってはしゃいでる間に、ちょっと2階も見てみようと思って」
青木「ズルい!」
若林「じゃあ今度2階も行きましょうよ」
青木「そうだな、今度は2階を中心に攻めていこう」
若林「え、でも俺1階も見て回りたいっすよ」
青木「そんな、欲張りだよ?幕張のコストコ舐めちゃいけないよ?1階も2階もなんて見て回れないよ〜」

青木が若林にふざけて抱きつき、2人がゲラゲラ笑っている。
突然中年男(赤堀)が屋上に入ってきて、2人は黙る。

中年男「あの、ここは誰のビルですか?」

全員が中年男を不審な目で見ている。

中年男「ここは誰のビルですか?」

 

照明が下のステージの方へ切り替わる。
望月だけが電話をかけている。それ以外は食事を取っている。カップ麺やパンを食べている。
息子が事故に遭ったと聞かされた電話先の女性がパニックになり始め、会話がままならない。
望月「お母さん、ちょっと落ち着いてください。お母さん!お母さん!」

 

照明が屋上へ。

中年男「ここは誰のビルですか?」
辺見「いやあの、どちらさん?」
中年男「ここは私有地ですか?」
辺見「まぁ一応、ここは我々の上司が所有するビルですので、この屋上は私有地ってことになります」
中年男「チッ」
辺見「ええー?」
中年男「あ、いや、せっかく良い場所見つけたのになと思って」
辺見「で、どちらさん?」
中年男「私下のクリニックに通ってる者です。昼から肉ですか。羨ましいなぁ」
青木「あの、良かったら肉食べて行きません?肉買いすぎちゃって」
辺見「青木」
真鍋が中年男を睨むようにしながら近づいていく。
真鍋「ちょっと今、身内だけでやってるんで」
中年男「いやそんなこと分かってますよ。僕が見知らぬ人間とご飯食べるような人間に見えますか?怒りますよ」

中年男「いやだから、怒りますよ」
真鍋「は?」
中年男「怒りますよ!」
若林「おいおっさん、ここは私有地だって言ってんだろ。分かったならさっさとでてけ。じゃないとこっちもいつまでも穏やかじゃいられねえんだわ」
辺見「いいから、静かにしてろ。すいません。ゆっくりしてってください」
中年男「一服しても良いですか?」
若林「テメェ調子乗ってんじゃねえぞ!」
辺見「だからお前は黙ってろ!どうぞ一服してってください。最近はどこもかしこも禁煙で、愛煙家には肩身の狭い世の中ですもんね」

中年男がタバコを吸い始める。
辺見もその横で電子タバコを吸い始める。

辺見「ここ、冬になると富士山見えるんですよ。あそこのビルとビルの間に。あ、でもマンション建ったから見えなくなったんだっけ?」
真鍋「いや、ちょっと分かんないっす。すいません」
辺見「でも前は絶対見えたんですよ」
中年男「8月には噴火するらしいですね」
辺見「はい?」
中年男「いや、富士山」
辺見「いやそれは、都市伝説レベルの話でしょ?」
辺見と若林と青木がくすくす笑っている。
中年男「そうなんですかね」
辺見「そりゃそうでしょ。もし本当だったら今頃富裕層なんか東京離れて海外に逃亡してますよ」
中年男「でももし本当にそうなったら、楽しみですね」

中年男は吸い終わったタバコを落とし、靴で踏みつけて去っていく。
入れ替わるように梶が入ってくる。

 

照明が下のステージへ。
望月だけが電話をかけている。他は全員食事を取っている。
電話相手から電話を切られる。それを見ていた男が笑う。

望月「なんですか」
「いや、望月さん頑張ってるなと思って。もし男が必要だったらいつでも言って?駅員とか警察とか」
望月「今の所大丈夫です」

望月、再び電話をかけ始める。


照明は屋上へ。

辺見「浩一、全然来ないから心配しちゃったよ私」
梶「下の名前で呼ぶの、やめてもらっていいですか?ていうかなんなんですか?あの人」
辺見「ちょっと寄り道してきただけだよ。誰だって寄り道したい時はある」

梶が若林を見つける。
梶「てか若林、おめえなんでここにいんだよ、まだ仕事中だろ」
辺見「いやごめん、俺が誘ったの」
梶「どういうことですか」
辺見「いや、この子俺の知り合いで、頑張ってるかなぁと思って、それで俺が呼んだんだよね」
梶「どういうことですか」
辺見「道玄坂によく行くバーがあって、お前も行ったことあるよ、オカマのやってる、ほら、妖怪みたいなおばあさんのいる、おじいさん?」

若林が首を横に振る。

辺見「おばあさん」
梶「はぁ」
辺見「そこでたまたま会って、なんかその時悩んでたんだよね?ほら、若者だから、若者特有の人生への葛藤ってやつ」
若林「そんなんじゃないっす」
辺見「とにかくまぁ悩んでるみたいだったから、それじゃあちょっとウチ来てみたら?って話になって、それでまぁ、今に至る」

梶は納得していない。真鍋が代わりに怒る。
真鍋「ちゃんと説明してください!」
辺見「ごめんごめんごめんごめん。今なんかほろ酔いで、余計なことばっかり喋っちゃって。いや、よくよく聞くと、彼安西さんとこの若頭の息子さんらしいのよ」
若林「正確に言うと親父と愛人の息子っす」
真鍋「そう、でも腐っても鯛だから」
若林「腐ってないっす」
辺見「腐ってない、言葉の綾。それで本人もゆくゆくはヤクザの世界に戻る気があるみたいだから、盗んだバイクで走り出す的な」
若林「盗んでないっす」
辺見「盗んでない、これも言葉の綾。若者の葛藤の表現」
梶「だからなんなんですか」
辺見「だからよろしくお願いしますって」
青木「社会見学みたいなもんだよ」
梶「すいません、俺もう帰っていいっすか?まだ仕事残ってるんで。コイツ以外のみんな今下で必死に電話かけてるんすよ。まだ成果上がってないんだろ?」
真鍋がうなずく。
梶「俺がいてやらねえと、ちょっと心配なんで」
辺見「青臭いな、相変わらず青臭いよ」
梶「真鍋、いくぞ」
辺見「浩一!座れよ、いいから座れって。座ってくださいよ、これ一生のお願い」
青木がポーチから拳銃を出し、梶と真鍋の方へ向ける。
辺見「ちょっと、そんな物騒なもん出すなって。ていうかお前、それ持ってコストコであんなにはしゃいでたの?気狂ってんね」
青木「すいません」
辺見「まぁワインでも飲めよ。ロマネ・コンティ、結構奮発したんだから」
若林「えっこれロマネっすか⁉︎うわぁ、俺全然知らずにガバガバ呑んでました」
辺見「いいから。いや、安藤さんとこから直々に電話があってね、クレームが入ったんだよ」
若林「なんすかそれ」
辺見「お前には関係のない話。我々のような下々には関係のない話。上の方でメンツが立つとか立たないとか色々あるみたい。ほら、安西さんとこ昔気質だから。でも子供は可愛いから、愛人の子であっても等しく可愛いから。それで本人もゆくゆくはヤクザの道に戻りたいと申しております。そうですか、わかりました。ではそちらで面倒を見ていただけないでしょうか?もちろんです。立派な不良に育ってて見せます。わかりました。それでは一つよろしくお願い申し上げますと、若頭は溜飲を下げて電話を置きました。お後がよろしいようで」
梶「だからなんですか?」
辺見「だから、引き続きコイツに社会を教えてやってくださいよ」
若林「いや俺、辺見さんにはほんと感謝してて。家飛び出してホストとかやってコツコツ働いてたんですけど、なんかこのままの人生で良いのかなぁって悩んでたら、そしたら偶然辺見さんと会って、年収1億も夢じゃないって言うから。真面目にコツコツ働いてきて本当によかったなって。マジで神様いるなって」
辺見「神様なんていないよ」
若林「いますよ。ていうか俺、辺見さんのことマジで神だと思ってます、いや自覚ないかもしれないですけど、辺見さん、俺にとって結構神っす」
辺見「お前からも改めて挨拶しとけ」

若林が立ち上がって梶の方に近づいてくる。

若林「あの俺、正直詐欺ってちょっと舐めてましたけど」
青木「おいおい」
若林「いやでも、梶さんの下で色々学ばせてもらって、詐欺って大変なんだなって。だから研修も残り数週間?ですけど、頑張りたいなって。俺辺見さんにはマジで感謝してて。だから、俺もいつか辺見さんの下で店長やってみたいなと思ってて、なのでよろしくお願いします」

梶は持っていたバッグを投げ捨て、若林を殴る。

若林「いってぇ!なにすんだてめぇ」
真鍋「梶さん!」

梶は這いつくばる若林を蹴る。

若林「たすけて」

若林は椅子に捕まって立ち上がろうとするが、梶がその椅子を持って、仰向けになってしまった若林の首元に椅子のパイプを押し付ける。

真鍋「梶さん!」

真鍋が梶を後ろから引き剥がし、再び若林に向かっていこうとするのを止める。2回止められたところで梶は殴りかかるのをやめ、若林を睨む。若林は血だらけになっている。

辺見「浩一!てめぇが何やったか分かってる?」
梶「見損ないましたよ、辺見さん。もう縁切りましょう」
辺見「何言ってんの?」
梶「俺、コイツとゼロから始めてみます」
辺見「青臭いにもほどがあるよ!俺はお前のためを思って」
梶「行くぞ」

梶は屋上から去っていく。真鍋は梶が投げ捨てたバッグを拾って、辺見を睨んで去っていく。
ヘリコプターの音。

辺見「うるせえな、さっきからぐるぐるぐるぐる。無意味なことはやめてくれよ!」

 

照明が下のステージへ。
望月だけがまた電話をかけている。市役所の職員を名乗るが、疑われ始める。電話を切られる。
それを見ていた男がくすくす笑う。

望月「他人の失敗がそんなに面白いですか?」
「いや、そんなんじゃなくて」
望月「さっきからなんでチラチラ見てるんですか?もしかして梶さんか誰かから私を監視するように命令されてるんですか?」
「そうじゃないよ。俺はただ、望月さんのことが心配で。お昼ご飯も食べずにずっと電話かけ続けてるから」
望月「他人の心配してる暇があったら自分の心配したらどうですか⁉︎」
全員が望月の方を見る。
望月「あ、大声出してごめんなさい」
原田「あの、窓開けよっか?ほら、ずっとこんなところに居たら息詰まっちゃうし。換気しないと」
望月以外がうなずく。
望月「大丈夫です」
原田「え?」
望月「窓開けないでもらっていいですか?もうちょっと電話したいんで」
原田「いやでも」
望月「ていうかみなさんそんなに悠長にお昼ご飯食べてていいんですか?まだ誰も成功してないですよね?そんなんで借金返せるんですか?この先やっていけるんですか?一生このままでいいんですか?私は嫌です!詐欺でもなんでもいいから成功したい!お金持ちになって今までバカにしてきた人間たちを見返してやりたいんです!」
「そんなにお金が欲しいなら、風俗でも行けば?」
くすくす笑う。望月が近づいていく。
望月「私これでも一応元風俗嬢です。それでダメだったから今ここにいます。私こう見えて結構終わってる人間なんです」
「終わってるのは君だけじゃないよ。ここにいる時点でみんな多かれ少なかれ終わってるから」
望月「すいません、余計なこと喋っちゃって。私別にみなさんと傷の舐め合いがしたいわけじゃないんで」
パソコンを持っていた男が喋り始める。
「あの、一応俺は、少額ですけど、成果上げてます。いや俺口下手だから、架空請求とかでちょっとずつですけど、コツコツ地道にやってます。あ、もちろん梶さんが掲げるような金額には到底及ばないんですけど」
望月「へぇ、そうなんですか」

「そういえば、若林来てないね」
「あいつ、なんか幹部候補生らしいよ」
「え?」
「いやこの前、なんとなく気が合いそうだったから飲みに誘って、駅前の魚民で飲んでたんだけど」
「この場所以外での交流は禁止されているはずです」
「いや、そうなんだけど、でもずっとこんな場所に閉じ込められて電話かけ続けてたら喉もカラカラじゃん?だからビールでも飲もうと思って。そしたらアイツ、聞いてもないのにペラペラ喋り出して。ヤクザの息子なんだって。だから今頃アイツ、青空の下でシャンパンでも飲んでるよ」
「ヤクザの息子」
原田「エリートか」
「俺たちとは住む世界が違う」

望月が再び電話をかけ始める。周りも昼食を置いて、徐々に仕事に戻り始める。全員が電話で話す。
梶と真鍋が戻ってくる。

梶「いいかお前ら!無理はするな。危ないと思ったら引き返せ。自分の勘を信じろ。相手を騙すんじゃない、自分を騙すんだ。お前らは何者でもない。逆に言うと何者にでもなれる、そういう可能性を秘めてるんだお前たちは!」
真鍋「梶さん、もうそろそろ限界です!」
梶「ああ?」

望月「梶さん!」

全員が手を止める。
望月は固定電話の前に置かれたボロボロの椅子に座る。
電話がかかってくる。
望月は法律事務所の人間を名乗り、相手に今日中に120万円振り込むように伝える。電話が終わる。
梶は机に両手をつき、望月の方へ身を乗り出す。

梶「よくやった、よくやった!」

研修生たちが拍手し始める。望月は涙を流している。
梶は真鍋の方に笑いながら近づいていく。

梶「まだ何も終わっちゃいねえ」

 

暗転。

 


ステージ上部は夜の公園。ベンチが真ん中にあり、その横にゴミ箱がある。

ステージ下部は道路。手前に車道があり、奥にガードレールで区切られた歩道がある。上下が錆びた階段でつながっている。
節子はベンチに座っている。美紀が電話をしている。

美紀「あ、もしもし、あんた今どこ?商店街?商店街ってちっちゃい方の?あぁ、そこはもう探した。カワバタさんにも一応話通してあるし。だからそこももういいから。とりあえずあんた一回こっち戻ってきて」

電話が終わる。
節子「浩一?」
美紀「そう、あたしたちと同じとこばっかり探してる。同じとこばっかり探しても意味ないじゃん。例えばお母さんは家の近所、私は商店街周辺、浩一は公民館のまわり、みたいにちゃんと作戦を立てて、手分けしてしらみ潰しに探していかないと。お父さんは一体どこほっつき歩いてるのかね」
節子「あの人が猫なんて探すわけないじゃない。あの人はマロンちゃんのことなんか1ミリも考えてないんだから。どうせまたコンビニでお酒でも飲んでるよ。だってあの人、この前マロンちゃんのこと足で蹴飛ばしたんだから。自分が通るところにマロンちゃんが寝てたから、足でどかしたのよ!」
美紀「蹴飛ばしたわけじゃないんでしょ?」
節子「でも、足でどかすことないじゃない。相手は気持ちよさそうに寝てるんだから、跨ぐなり、遠回りすればいいわけで、何も起こさなくったって」

美紀の電話が鳴る。電話を取る。

美紀「もしもし、カワバタさん?え?見かけました?ウチの猫」

節子が嬉しそうに立ち上がる。

美紀「はい、茶色といえば茶色です。はい、茶色といえば茶色です。いやだから、よくあるシマシマの」

一郎がコンビニの袋を提げて公園に入ってくる。

一郎「なんだ、見つかったのか?」
美紀「首輪の色は」
節子「赤、赤よ」
美紀「今日は赤みたいです。鈴?鈴はついてません。だから、鈴はついてません」
一郎「見つかったのかって聞いてんだよ!」

怒鳴る一郎に耳を塞ぎながら美紀は公園の端に移動する。

美紀「ごめんなさい、え?いや、ワンちゃんじゃないです。猫。私たちが探してるのはワンちゃんじゃないです、犬じゃないです」

梶が下の道路から歩いてきて、階段を上がって公園に入ってくる。

美紀「写真お見せしましたよね?いやだから、猫。ねーこ。そうなんです」
一郎「カワバタのジジイか」
美紀「はい、また見かけたらよろしくお願いします」

電話が切れる。

一郎「カワバタのジジイか、あんなのに声かけたって意味ないだろ」
美紀「いや一応、商店街の会長さんだから。念の為、話通しておこうと思って」
一郎「あんなの置物と一緒じゃねえか。ほとんど死んでるようなもんだ」
節子「それよりあんた、どこ行ってたの?」
一郎「いやどこって、その辺歩き回って探してたんだよ」
美紀「どの辺り」
一郎「どの辺りって、佐藤さんとこまで行って、タイヤばっかりの公園も通って」
節子「そんなとこいるはずないじゃない」
一郎「わからないだろ!」
美紀「それで?」
一郎「それで、公民館の方までぐるーっと回って、ここに戻ってきたんだよ」
美紀「それでどうやってコンビニ寄れるの?それ、なんか買ってるよね?」
一郎「いやだから、それは家を出てまず一番はじめに駅前のコンビニに行ってだな」
節子「バカみたい」
美紀「もういい、今内輪揉めしてる場合じゃないから。1秒も無駄にしたくないから。こんなこと言いたくないけど、猫って車に轢かれたりして結構簡単に死んじゃうから」
美紀「そんなこと言わないでよ」梶「俺、一応神社の方まで足伸ばそうか?」
一郎「いやぁ、さすがにそこまでは行ってないだろ」
梶「あの辺、車の通り多いから、それまでには食い止めたいよね」

節子「マロンちゃん、餌残してたから、今頃お腹空いてるんじゃないかしら」
一郎「元々野良なんだから、その辺のコオロギとかバッタとか捕まえて食べてるだろ」
節子「そんなの食べるわけないじゃない!」
一郎「だから心配するなって言ってんだ。子供じゃないんだから、腹が減ったらその辺の虫でも食うし、トイレがしたくなったらその辺の草むらでするし、危ないと思ったら自分で逃げるだろ」

梶「あのさ、元々どこで拾ってきたの?」
美紀「え?」
梶「いや、野良だったんでしょ?だったら、元いた場所に戻ってそうなもんじゃない?」
美紀「あぁ」
美紀がベンチに座る。
梶「え?」
節子「いや、あたしたちもね、そう思って探してみたんだけどね」
美紀「元々ウチで生まれたようなもんだから。駐車場のところに捨てられてて。気がついたら親猫もいなくなって。最初は5匹いたんだけど、どんどん減っていって、気づいたらマロン1匹になってて」
一郎「カラスに食われたんだ」
美紀「それでマロンちゃんだけウチの庭で遊び回ってたから、試しに餌を置いてみたら、よっぽどお腹が空いてたみたいで。あたしたちが見てると食べないんだけど、あたしたちが目を逸らすとそーっと近づいてくるの。だるまさんがころんだみたいに。それでバッと振り返ると、また動かなくなって。面白くって何度も繰り返してたんだけど」
節子「可哀想だからもうやめようって。それであたしたちが遠くから見てたら、バクバク食べ始めて。もうとっくになくなったお皿をいつまでも愛おしそうに舐めてるもんだから」
美紀「ほんと、可愛かった」

梶「ごめん、俺のせいかもしれない」
美紀「なんであんたのせいなのよ」
節子「確かに知らない人がいると怖くて隠れちゃうけど、別に浩一のせいじゃないわよ」
美紀「網戸が空いてただけだから。リビングの網戸が開きっぱなしになってただけだから」

美紀と節子が一郎を見る。梶も釣られて一郎を見る。

一郎「えっ、俺?」
美紀「いや別に、お父さんのせいにしたいわけじゃないけど、でも網戸開けっぱなしにしたのはお父さんだよね?」
一郎「俺⁉︎」
美紀「別にお父さんが悪いわけじゃないから。勝手に出ていったのはマロンだから」
一郎「俺?」

美紀「お母さんが網戸開けっ放しにするわけないでしょ。あたしもずっとお店にいたから、今日はリビングの窓すら触ってない」

一郎「俺じゃねえよぉ」

美紀「タバコ吸うとお母さんに怒られるから、換気するためにリビングの窓開けるよね?あたし何度も見たから。めんどくさかったから何も言わなかったけど」
一郎「もしかしたら今頃リビングのソファで寝てるかもしれないぞ」
美紀「そうだったらそんなに良いことはないんだけど。とりあえずもう一度家の周辺探してみよう」
母「私はとりあえず家に一回戻ってみる」
美紀「じゃああたしはもう一回この公園の近く探してみる」
浩一「俺は念のため神社の方まで足伸ばしてみるよ」
美紀「お父さん?」

一郎が背中を痛そうにさすっている。美紀が駆け寄る。

美紀「お父さん大丈夫⁉︎」
一郎「いや、なんでもない。ちょっと食い過ぎただけだ」
節子「お父さんはあたしと一緒に家に戻りましょう」
一郎「大丈夫だって、俺はちょっと公民館の方まで行ってみるよ。あそこ野良猫の集会場になってるから、もしかしたら混ざってるかもしれない」
美紀「じゃあ」

一郎以外、それぞれの方向に去っていこうとする。
一郎「ちょっと待った」
一郎がコンビニの袋から何かを取り出す。
一郎「ちゅーる。あいつ、これ好きだろ。あいつのいそうな場所でこれ開けたら、匂いに釣られて出てくるんじゃねえか?」
美紀「お父さん」

3人は一郎からちゅーるを受け取り、再び去っていく。節子だけ足を止め、一郎の方を見つめる。そして去っていく。
全員がいなくなったところで、一郎はベンチに座り、コンビニの袋から缶ビールを取り出す。

一郎「はぁ」

プルを開け、飲み始める。
梶が戻ってくる。

一郎「なんだ、お前か」
梶「それ酒?」
一郎「見りゃわかるだろ、俺がサイダーなんか飲むわけねえだろ。お前もいるか?もう一本あるぞ」
梶「いや、俺今日車だから」
一郎「そうか」
梶「大丈夫なの?体。医者に止められてるんじゃないの?」
一郎「なに、こんなの俺にとっちゃ水みたいなもんだ。若い頃はこれで歯みがいてうがいしてたんだからよ」
梶「お腹、痛かったんじゃないの?」
一郎「あれは、晩御飯に食ったゆで卵のせいだな。口に入れた瞬間酸っぱかったから」
梶「酸っぱかった?」
一郎「飲み込まねえで、吐き出しゃよかったよ。たく美紀のやつ、大雑把なんだよな、性格が」

 

梶「あのさ」
一郎「この前も小腹が空いて、冷蔵庫開けたら納豆があったから、開けてみたら真っ黒になってやがんの。それで賞味期限見たら8月2日になってて。今何月だよ、もう10月だぞ。2ヶ月も前の納豆放置しやがって。あ、お前彼女いんのか?まだ結婚もしてないんだろ」
梶がうなずくと、一郎はため息をつく。


梶「俺さ」
一郎「この前家に帰る途中によ、黒い虫が落ちてたから、ありゃゴキブリか?と思って、近づいて見たらアブラゼミだっけ?あの羽が茶色いセミ
梶「うん」
一郎「ひっくり返ってやがったから、もう死んでるのか?と思って、足でつっついてみたら、ミーン!っていきなり動き出しやがって。さすがの俺もっびっくりして尻餅ついちゃって。情けないったらありゃしねえ」

一郎は1人で笑っている。
しばらく笑った後、立ち上がって空になった缶をゴミ箱に捨てる。

一郎「そろそろ行かねえと。女どもがうるさいからな」

梶は頷く。一郎が公園を去っていく。
梶はスマホを取り出し、電話をかけながら階段を降り始める。

梶「もしもし、今どこ?あぁ、そっか、ごめんね、全部任せちゃって。俺も今からそっちに戻るから。泊まってくわけねぇだろ、俺枕変わると眠れないんだわ。うるせぇ、うるせぇよ」

梶は笑いながら階段を降りていく。

梶「お前もう足洗え、もう開店の準備しなくていいから。冗談でこんなこと言わねえよ。明日には東京出ろ。そうだな、沖縄あたりがいいんじゃねえか?」

下の道路まで降りた梶は、ガードレールに腰掛け、電子タバコを吸い始める。

梶「夕方、ちょっと着替えようと思って家に帰ったら、マンションの廊下に猫の死体があったんだよね。猫、猫。多分実家の猫。これは多分っていうかおそらく絶対、多分辺見さんの仕業だと思う。いや知んねえけど。あの人性格悪いから。だからあそこまでやってこれたんだろうけど。多分辺見さんなりの警告?次は猫じゃ済まねえぞっていう。とりあえず今から戻るから.そこで今後のこと話し合おう。なにお前、泣いてんの?泣いてんの?」

梶は笑っていたが、電話の相手から電話を切られる。
タバコを吸っていると、美紀がやってくる。

美紀「あんた今どこ住んでんの?」
梶「え?」
美紀「東京のどこ住んでんの?何区?」
梶「一応渋谷区」
美紀「マンション?」
梶「まぁ」
美紀「家賃高いでしょ」
梶「いや、そりゃマンションにもよるけど」
美紀「あんたんとこは?家賃、いくらなの?」
梶「いや、いいって」
美紀「なんでよ。え、タワーマンション?」
梶「いや、タワーかどうかはわかんないけど、一応10階」
美紀「じゃあ全然タワーマンションじゃん。え、あんたんとこ、ベランダに椅子とか置いてんの?」
梶「置いてない。ていうかほとんど家具とか置いてない。ほとんど寝に帰ってるだけだから」
美紀「もったいないねぇ」
梶「いやほんとに。なんのためにこんなとこ住んでんだろうって」
美紀「もったいないもったいない」
梶「もっと安いとこに引っ越そうかな?」
美紀「その方がいいよ。あたし、昔タワーマンションのベランダでワイン飲むのが夢だったんだ」
梶「結構ベタだね」
美紀「夢なんてそういうもんでしょ」
梶「だっせぇ」
美紀「だっせぇとか言わないでよ」

梶と美紀が笑い合っている。
梶は吸っていたタバコを仕舞い、ガードレールから腰を上げる。

梶「じゃあそろそろ帰るから」
美紀「え?」
梶「いや、猫、探せなくて申し訳ないけど」

美紀「あんた今、車何乗ってんの?」

 

暗転。

 

 

ステージ下部は屋上。BBQの時にも使っていたテーブルと椅子。机の上には寿司が乗っている。
錆びた階段が上へと繋がっている。

ステージ上部は高架水槽。


辺見は椅子に座っている。青木は机の横に立っている。梶は包丁を握りしめて辺見の方を見ている。机の上には寿司。

 

辺見「どうなの?最近。元気にしてる?」

青木が笑っている。

辺見「今日新しくできたスタジアムで花火やるらしいよ。俺の計算ではギリギリここから見えると思うんだよね。だからこうして男2人で寿司食ってます」
青木「商売女でも呼べばよかったじゃないっすか」
辺見「さすがにここには呼べない。上にバレたらタダじゃ済まない」
青木「気がちっちぇえな、辺見さんは」
辺見「そう、俺小動物だから。ハイエナみたいなお前とは違う。サバンナに隠しておいた木の実をこうしてこそこそ1人で食ってるってわけ」
青木「辺見さん友達いないから」
辺見「そう、俺友達いない。お前だけが唯一の友達だと思ってたんだけど、それも俺の独りよがりだったみたい」
青木「チッ、うるせぇな」
辺見「あ?」
青木「いや、カラス。俺嫌いなんですよね」

辺見は梶の方を見る。
梶は落ち着かない様子で顔をピクピクと動かし、時々歩き回る。
辺見は寿司を食べる。

辺見「やっぱここの寿司屋にして正解だったな。どこだっけ、赤坂にあるあそこ、アオバ。あっちも悪くないんだけど、なんかセンス押し付けてくる感じがあってあんまり好きじゃないんだよね」

辺見は梶の顔を見て、何か思い出したように笑い出す。

辺見「昔こいつ俺の家で住み込みしてた時期があって、犬の散歩行ってもらったり車洗ってもらったり、あと俺セックスレスだったから、愛人の世話もしてもらったりしてたのよ」
青木「マジっすか」
辺見「コイツ本当に頑張ってたから、一生懸命だったから。ある時俺とコイツと愛人の3人で日曜日に寿司屋に行ったんだよ。そしたらコイツ『カウンターで寿司食ったの生まれて初めてっす』ってわんわん泣き出しやがって、つられて愛人も泣き始めるし、俺もう恥ずかしくって、2度と行けなくなっちゃったよ、あの寿司屋」

辺見は笑うのをやめる。

辺見「ま、元々大してお気に入りじゃないから、どうでもいいんだけど。で、その尖ったもんで何しようってわけ?まさか刺身切り分けにきたわけじゃないよな?」

青木がくすくす笑っている。

梶「もう終わりにしましょう。キリがないっす。さすがに猫はやりすぎですって。もうとっくに死んだ猫探す家族見て、なんか俺」
辺見「ええー、待って、今時そんな安っぽいドラマみたいな感じ、老人でも泣かないよ?てめぇが今までやってきたこと、忘れたわけじゃないよな?お前のせいで自殺した老人が何人いる?両手じゃ足りないくらいの数だよ。そういうこと分かってて言ってんの?」
梶「分かってます」
辺見「騙される方がバカなんだよ。そんで俺もそのバカに同情するほど人間できてない」
梶「だから、俺がバカでした」
辺見「騙される方が悪い。そういう覚悟を持って、俺とやってきたんだよな?そういう認識でいいんだよな?」
浩一「だから、もう終わりにしましょう」
辺見「それで俺を刺して自分も死ぬってか?」
梶「そうですね、それもいいかもしれません」
辺見「勘弁してよ、俺もうちょっと人生楽しみたいんだよね。お前誰のおかげでここまで来れたか分かってて言ってんの?そういうとこ理解してる?」
梶は泣きそうな顔で辺見を見る。
辺見「そう、正解!お前がヤクザのバカ息子ボコボコぶん殴った後、尻拭いするのにいくらかかったと思う?2000万かかったよ。封筒に入れるんじゃ芸がないから、やっぱりお菓子の缶からかね?って。ヨックモックの缶からに札束入れてネクタイ締めて詫び行きましたよ。あの人たちそういうプレイが好きだから!」
青木「ハハッ」
辺見「色々悩んだんだよ?ゴディバじゃちょっと嫌味か、やっぱあの世代だとヨックモックかな?って」

梶が辺見の方に包丁を向ける。

辺見「無理すんなよ、手震えてるぞ」
青木「今更カタギになんか戻れるわけねえし、独立してもお先真っ暗だし、かといって辺見さんに泣きつくわけにもいかねえもんな」
辺見「俺は全然ウェルカムだよ!だって俺、お前のこと好きだから。お前がまた俺のところに戻ってきて一生懸命働いてくれるならそれでいい」

青木が梶の後ろでポーチから拳銃を出し、梶の頭につきつける。

辺見「いいって」
青木「いや、念のため」
辺見「ていうかそれ、どこで買ってきたの?」
青木「改造銃です。自分で作りました。なんとなくで作ったんで、もしかしたら暴発して、てめぇの手が吹っ飛ぶかもしれませんが、そうなったら笑ってやってください」
辺見「いや、笑えない」

青木が屋上の隅にあったブルーシートをめくると、ボロボロの真鍋が倒れている。

辺見「大丈夫、まだギリギリ死んでない」
青木「コイツ、男の中の男だよ。俺たちのところに自分で切り落とした小指持ってきて。これで勘弁してくださいって。これ、真鍋くんの小指」

青木がポーチからジッパー付きのポリ袋を取り出す。

辺見「いや昨日六本木の焼肉屋で青木と2人で飲んでたらさ、いきなりコイツから電話かかってきて、直接話をさせてくださいって。それで店教えたら真っ青な顔でやってきて、カバンからいきなりそれ出して渡してくるもんだから」
真鍋「すいません…、梶さん」
辺見「俺に謝れよ!食ったもん全部トイレで吐いちゃったじゃねえか!それでお会計8万だぞ!」
青木「コイツお前によっぽど惚れてんだな、そりゃ辺見さんも嫉妬するわけだよ」
辺見「そういう問題じゃない」
青木「本当は知り合いの建設業者に頼んでまだ建ってないマンションがあったら昨日のうちにコンクリで固めて基礎になってもらおうと思ったんだけど」
辺見「浩一は必ず来るからって。だからそれまでコイツ埋めるの待ってくれって」
青木「辺見さんはコイツを使ってお前の復活に賭けたんだよ」
辺見「そういう希望があったのかもしれない」
真鍋「すいません、ほんと、すいません」
梶「なんでだよ、足洗えっていっただろ」
真鍋「すいません。自分、不器用なもんで」

真鍋と辺見が爆笑する。

辺見「嘘でしょ⁉︎もっかい言って!」
真鍋「自分、不器用なもんで」

笑い続ける辺見の腹を、梶が包丁で刺す。

辺見「いって」

辺見が地面に倒れる。

辺見は梶から逃げるように這うようにして階段の方に上がっていき、体を横たわらせる。梶は真鍋を庇うように真鍋の前に立つ。
真鍋「梶さん」
辺見「お前一回落ち着けって、話せば分かるから。うわぁ、めっちゃ血出てるんだけど。俺死んじゃうのかな、俺死んじゃうのかな!」

梶が辺見の方に向かっていく。

真鍋「梶さん!」

梶は階段を上がらず、ふらふらと階段の横で笑う。

梶「あーあ、疲れちゃった。なんかごめんな」
真鍋「いえ、自分で選んだことですから」
辺見「青木、救急車」
青木「え?」
辺見「いや、結構血出てるから」
真鍋「一瞬でしたけど、結構良い思いさせてもらいましたし。俺日本人大嫌いだったんで、結構痛快でした」
辺見「ていうか、なんでそれ使わないの?」
辺見は青木に向かって話しかける。
青木「あ、もう刺されちゃったから。本当は刺される前に使いたかったんですけど」
辺見「俺もそうしてほしかった」
真鍋「梶さん…。いや、なんでもないです、ただの寝言です」
梶「ニラが腐ったみたいな匂いがするんだよ。いや、実家。台所」
真鍋「あぁ」

梶と真鍋は笑っている。
梶「排水口が詰まってんのかな?と思って思い切って嗅いでみたんだけど、なんかそこじゃないんだよな。いや、匂いの原因。学校から帰ってきて玄関開けたらその匂いがして、俺ほんと吐きそうになっちゃって。みんなよくここに住んでんなぁと思って、逆に感心しちゃったもん。ほら、俺小さい頃、蓄膿の気があったから、お医者さんにも相談してみたんだけど、問題ないって言われちゃうし、思い切って姉貴に告白したらブチ切れられちゃうし、俺もうノイローゼ気味になっちゃって、早くここから出たいって布団の中でずっと思ってた。でも最近分かったんだ。いや、匂いの原因。人間の匂い。俺を含めたただの人間の匂いだったのかもしれない。若い頃には気づけなかった」

ヘリが飛んでいる。

青木「あれ?誰かいる」

上に望月が立っている。望月は梶を見かけてイヤホンを外す。

梶「なんでお前がここにいるんだよ」
望月「あれ?梶さん」
青木「あ、知り合い?」
梶「いや、前ここで働いてた」
青木「良かったぁ、俺見えちゃいけないものが見えてるのかと思って」
梶「なんでここにいるんだ。もうとっくに解散しただろ」 
望月「すいません。久しぶりに洋服でも買おうかと思って、近くに寄ったんですけど、そしたらなんか懐かしくなっちゃって、部屋覗いてみたら、当たり前ですけど、もう誰もいなくて。それで屋上に来て、ずっと音楽聴いてました。だから私、何も見てませんし、何も知りません」
梶「ずっとそこにいたのか?」
望月「他に行く場所もないですから」
梶「お前、名前なんて言うんだっけ。だから、お前の名前」
望月「道子です。望月道子」
梶「そういう名前だったのか。お前、そういう名前だったんだな!」
望月「はい」
梶「早く降りてこい、そこは危険だから」

花火の音が聞こえる。
声が届いていない。

望月「え、何の音?」
青木「戦争だよ、戦争が始まったんだよ」
望月「え、何?あれ?花火!」
青木「辺見さん!辺見さんの言った通りですよ。花火が見えますよ!」

青木がドタドタと階段を駆け上がる。辺見が呻きながら傷口を庇う。
辺見は手すりをつかんで、なんとか階段を上がっていく。

青木「どこに見える?」
望月「あそこです!」

花火が上がる。
梶は真鍋を見つめている。

望月「ほら見えた!」
青木「辺見さん!早くきてください!梶、お前なにそんなとこで突っ立ってんだよ、早くこっちにこいよ、ワクワクするぞ」
梶「望月さん。もうここはお前のいる場所じゃないんだよ、頼むから早く消えてくれ、早く消えてくれ」

辺見は階段を上がり終えて倒れる。
屋上への入り口が開き、中年男が赤いポリタンクを持って入ってくる。
梶は中年男を不審そうに見る。

中年男「富士山ぜんっぜん爆発しないじゃない!もう10月だぞ!どうなってんだよYouTuber!いい加減なこと言ってんじゃねえよバカヤロウ!」
梶「え、すいません」
中年男「あ、すいません、大声出して。私普段は温厚な人間なんですけど、さすがに堪忍袋の緒が切れちゃいまして。あ、私下のクリニックに通ってるものです。去年からちょっとしんどくて、そろそろ会社休もうかなと思ったんですけど、上司に相談したら診断書持ってこいって言われまして。それで色々調べて先月、下のクリニックに1時間かけて遠征してきたんですよ。評判良かったから。そしたらそこの先生に、『宮下さん、安心してください。病気じゃないですよ』って言われて。いや、私も自分が病気だという自覚はあったもんですから、『先生、私は病気です。診断書ください』って言ったんですけど、先生は頑なに優しい笑顔で『病気じゃない。病気じゃない』って診断書書こうとしなくて。それで私『いいからさっさと診断書よこせバカヤロウ!』って。あ、バカヤロウとは言ってないですよ。それに近いことは言いましたけど。それでその時は大人しく家に帰ったんですけど。でも富士山全然爆発しないから。YouTuberの人たちが口を揃えて言うもんだから、楽しみにしてたんですけど、でも富士山全然爆発しないから。それで今日改めて下のクリニックに行ってきたんですけど、先生は変わらず『宮下さんは病気じゃないです。安心して会社に行ってください』って言うもんだから、腹が立ってきて、火をつけてやりましたよ」
梶「え?」
中年男「だから4階のクリニックに」
梶「今?」
中年男「はい、今結構燃えてます。それで命からがら上に逃げてきたんですけど、いやぁ、よく考えたらなんで下に逃げなかったんでしょう。上に来たって逃げ場ないのに。完全なる自爆ですよね。まぁそれはそれで良かったのかな。あ、今何時かわかります?もう発表されたかな?巨人対ヤクルトのスタメン」

青木が中年男を撃ち殺す。
青木は望月に銃を向ける。

青木「降りろ」
望月「やめてください!」
青木「いいから降りろって!」

望月が階段から降りている途中で、青木は鍵を下に落とす。

青木「それ、非常階段の鍵。もう錆びてボロボロだと思うけど、運が良ければシャバに帰れる」
望月はなかなか動かない。
青木「行くも地獄、帰るも地獄」
望月は階段を降り始め、途中で梶さんの方を見る。
望月「梶さんは?」
青木「コイツもう戻る場所ないから」

梶は望月から目を逸らす。望月は下まで降りる。
青木は1万円札を下に落とす。

青木「それで腹一杯食え」

望月は鍵と一万円札を拾って屋上を後にする。

辺見「青木、救急車…」

青木は辺見を撃ち殺し、階段を降りてくる。
梶の方を見ながら真鍋に銃を向ける。

梶「青木さん、そいつはもう」

青木は真鍋の胸を撃ち抜く。
カラスが鳴いている。花火が上がる。

青木「チッ、うるせえな」

青木は空に向かって拳銃を何発も撃つ。
カラスの声がどんどん静かに鳴っていく。
青木は梶に向かって銃を向ける。

青木「知ってる?昔カラスは3本足だったんだ。犬も3本足だったんだよ」

梶はニコニコしながら青木の話を聞いている。

青木「でもカラスは飛べるから良いけど、犬は3本じゃ歩きづらいよ?それである時、犬は偉い人にお願いしたんだ。偉い人って神様じゃなくて。それでその偉い人はどうしたと思う?」

梶は半笑いで答える。

梶「いや、ちょっと分かんないっす」
青木「カラスの足を1本奪って、犬にあげたんだよ。偉い人って全然偉くないよね!」

梶が笑う。

青木「犬っておしっこする時、後ろ足あげるでしょ?あれってカラスから貰った足を汚さないようにってことらしいよ。遠慮することねぇのにな。あんな小狡いヤロウのために」

カラスの死骸が2人の間に落ちてくる。

青木「ざまぁみろ」

梶が声を上げて笑う。暗転。

 

 

いつもの実家。下手側がキッチンとダイニング。上手側がリビング。一郎はリビングでテレビを見ている。節子はダイニングでブドウを食べている。2人の前にはカレーライスが置かれている。

 

一郎「美紀、おい美紀。ハヤトは、ハヤト何時ごろに帰ってくんだ?」

美紀がエプロンで手を拭きながらリビングに入ってくる。

美紀「何?誰か呼んだ?」

誰も答えない。美紀は節子の方を向く。

美紀「何?」
節子「知らない」
美紀「ていうかお母さん、なんでブドウ食べてるの?カレー食べてよ」
節子「あとで食べる」
美紀「あとで食べないじゃん」
節子「今お腹空いてないの」
美紀「ブドウ食べてるからでしょ。あれ?お父さんも手つけてないじゃん」
一郎「俺はチビチビやってんだよ」
美紀「早く食べないと冷めちゃうから。冷めちゃったら美味しくないから」
一郎「ていうかなんで今日もカレーなんだよ。これで3日連続だぞ」
節子「洗濯機、ピーピーって聞こえた。もう終わったんじゃない?」

美紀はため息をついてリビングを出ていく。

一郎「コイツなんでこんな漢字も書けないんだ」

一郎はテレビに向かって怒っている。

一郎「あぁっ、またコイツだ。バカ!何をヘラヘラしてんだ。恥ずかしくないのか!今頃親御さん顔真っ赤にしてテレビ見てるよ!なんでこんなヤツが人気なのかね、俺にはさっぱり分からないよ」

一郎は立ち上がって後ろのタンスを開け始める。

一郎「美紀、美紀!爪切りどこやったかな。引き出しに入ってねえぞ」

美紀が戻ってくると同時に、一郎が出ていく。
美紀が節子に向かって聞く。

美紀「何?」
節子「知らない」
美紀「ていうかお母さん、そろそろ機嫌直して?もう1週間も口聞いてないじゃん。子供じゃないんだから」

美紀はダイニングの椅子にに座る。

節子「あたしもちょっとは譲歩してるのよ。あの人のつまらない冗談に少しは笑ってあげたり」
美紀「それは立派だと思う。立派だと思うけど」
節子「あたしばっかり責めないでよ!大体のことはあの人に原因があるんだから、あの人をもっと糾弾すべきじゃない?あの人をもっと更生すべきじゃない⁉︎」
美紀「それができたらやってるけど、でもできないから」
節子「分かってるわよ!分かってるわよ、そんなこと」

一郎が戻ってくる。節子が黙る。

美紀「お父さん、おトイレ?」
一郎「うん」
美紀「ちゃんと座ってしてくれた?」

一郎は爪楊枝を咥えたまま頷く。

美紀「ウソ」
一郎「ウソついたってしょうがねえだろ、こんなこと」
美紀「この前便座上げっぱなしになってたから」
一郎「なんで俺なんだよ。お前の息子じゃねえの?」
美紀「ハヤトがそんなことするはずないから、もしやってたらはっ倒すから」
一郎「はっ倒すことねぇだろ」
美紀「ねぇお父さん、一回トイレの掃除自分でしてみたら?立ってした時どれだけおしっこが周りに飛び散ってるか分かるから」
一郎「なんで俺がそんなこと」


節子「悪いと思ったら謝ってよ!悪いと思ったら謝ってよ。あんたがグチグチ言い訳するから美紀だって嫌味の一つも言いたくなるのよ。あんたが素直に謝ってたら美紀だってあんたに掃除なんてさせないわよ」

 

美紀「あたしそろそろお店行くから。まだ片付け残ってるし。カレー、半分でもいいから頑張って食べてね。お父さんも」

美紀がリビングを出ようとする。

一郎「悪かったよ」
美紀「え?」
一郎「だから、怒鳴って悪かった」
美紀「なんのこと?」
一郎「だから、この前お母さんが俺に『まだ起きてるの?』って聞いてきたのが、『まだ生きてるの?』って聞こえて、『俺がまだ生きてちゃ悪いか!』ってお母さんにリモコン投げつけたんだよ」
節子「バッカみたい。あたしがそんなこと言うはずないじゃない」
一郎「だから、悪かったよ」

美紀「なーんだ」
一郎「え?」
美紀「いや、全然別のことかと思って。まぁいい。ぶり返すとめんどくさいから。とにかく、2人とも頑張ってカレー食べてね?」

美紀がエプロンを外しながら出ていく。
節子がカレーを食べ始める。それを見た一郎もカレーを食べ始める。
玄関の開く音。

美紀「あれ?おかえり。なんでこんな時間に?まぁいいわ。カレー余ってるから、あんたいっぱい食べちゃって」

 

暗転。

 

考察

相変わらず好き勝手考察してます。特に今回はキャラクターの若干センシティブな内容についても触れているので、目次を見て解釈が合わなさそうなら読まないことをおすすめします。

目次

・名前について

・俺たちは生まれた時から罰を受けている

・梶さんの性的指向について

・中年男とのリンク

・格差の比喩

・若林という存在

・実家

・三角関係

・辺見と梶

・真鍋と梶

・希望の象徴としての望月

・最終場の解釈

・プレイリスト

・地名について

・その他

 

 

・名前について

1回目に観劇した時は全然気づかず、2回目の開演前にパンフレットを読み込んでいてようやく気がついたのですが、梶の実家って「小川家」なんですよね。結婚していないということにも言及があるので、おそらく「梶」は仕事で使っている仮名だということになります。一方で家族からは「浩一」と呼ばれているので、下の名前の方は本名であると予想できます。犯罪に関わる仕事上、本名の名乗るのは都合が悪かったのかもしれません。

そして辺見に「浩一」と呼ばれて「下の名前で呼ぶのやめてもらっていいですか?」と苛立った様子の梶。本名を呼ばれたくないパターンと、下の名前が好きじゃなくて呼ばれたくないパターン(私はそうです)があると思ったのですが、梶さんはどちらかというと前者かなと。

辺見は屋上のシーンなんか嫌がらせのように「浩一」と何度も呼びますが、なんとなく呼び慣れているんじゃないかと思ったので、辺見と出会う(呼ばれ方は浩一)→仕事の都合上「梶」と名乗り始めるという時系列だったのかなと思います。

個人的に「浩一」という名前、あのお父さんが付けそうな名前だなと思いました。父親の名前が「一郎」で、おそらく長男。あの年代の人なので、兄弟は少なくない数いたと思います。そういった環境で頑固で負けず嫌いな性格が熟成されたのかなと。そして生まれてきた長男の名前に自分の名前にもある「一」という漢字を使うのが、めちゃくちゃぽいなって。

 

・「俺たちは生まれた時から罰を受けている」

これは1場での梶さんのセリフですが、梶さんが詐欺をする前の人生について語るのってここと辺見を刺した後だけなんですよね。そのわりに自分の心情についての描写は妙にぼやけていて、結局梶さんがどうして世の中に復讐したいと思ったのかは具体的には明かされない。

ちなみにこのセリフは梶によると「服役を体験した元政治家の獄中体験記」から引用された身体障害者の囚人仲間のものらしいですが、この辺が梶さんの曖昧っぷりに比べて偉くリアリティがあるなと思ったんですよ。そこで元ネタがありそうだなと思って検索かけて出てきたのがこちら。

news.yahoo.co.jp

以下、記事から引用。

動機について申し上げます。一連の事件を起こす以前から、自分の人生は汚くて醜くて無惨であると感じていました。それは挽回の可能性が全くないとも認識していました。そして自殺という手段をもって社会から退場したいと思っていました。痛みに苦しむ回復の見込みのない病人を苦痛から解放させるために死なせることを安楽死と言います。自分に当てはめますと、人生の駄目さに苦しみ挽回する見込みのない負け組の底辺が、苦痛から解放されたくて自殺しようとしていたというのが、適切な説明かと思います。自分はこれを「社会的安楽死」と命名していました。

ですから、黙って自分一人で勝手に自殺しておくべきだったのです。その決行を考えている時期に供述調書にある自分が「手に入れたくて手に入れられなかったもの」を全て持っている「黒子のバスケ」の作者の藤巻忠俊氏のことを知り、人生があまりに違い過ぎると愕然とし、この巨大な相手にせめてもの一太刀を浴びせてやりたいと思ってしまったのです。自分はこの事件の犯罪類型を「人生格差犯罪」と命名していました。

自分が「手に入れたくて手に入れられなかったもの」について列挙しておきますと、上智大学の学歴、バスケマンガでの成功、ボーイズラブ系二次創作での人気の3つになります。あと、取り調べでは申し上げませんでしたが、新宿出身というのもあります。公判のために必要な事実関係は全て供述調書になっていますので、ここでその詳細については申し上げません。上智大学への自分の執着につきましては、自分が上智大学出身者だけにのみ強烈なコンプレックスを抱くようになったきっかけは、19年前にささやかな屈辱を味わったことに端を発します。バスケマンガと二次創作につきましては、色々な出来事が複雑にリンクしています。31年前に同性愛に目覚め、同じ年に母親から「お前は汚い顔だ」と言われ、26前に「聖闘士星矢」のテレビアニメを見たいとお願いして父親に殴り飛ばされ、24年前にバスケのユニフォームに対して異常なフェチシズムを抱くようになり、22年前にボーイズラブ系の二次創作同人誌を知ったという積年の経緯があります。また、新宿につきましては、16年前に自殺をしようとしてJR新宿駅周辺を彷徨し、11年前にJR新大久保駅周辺を歩き回ったことがきっかけです。いずれも昨日今日に端を発することではないのです。自分にとってはとてつもなく切実であったということだけは申し上げさせて下さい。

(中略)

以前、刑務所での服役を体験した元政治家の獄中体験記を読みました。その中に身体障害者の受刑者仲間から「俺たち障害者はね、生まれたときから罰を受けているようなもんなんだよ」と言われたという記述があります。自分には身体障害者の苦悩は想像もつきません。しかし「生まれたときから罰を受けている」という感覚はとてもよく分かるのです。自分としてはその罰として誰かを愛することも、努力することも、好きなものを好きになることも、自由に生きることも、自立して生きることも許されなかったという感覚なのです。自分は犯行の最中に何度も「燃え尽きるまでやろう」と自分に向かって言って、自分を鼓舞していました。その罰によって30代半ばという年齢になるまで何事にも燃え尽きることさえ許されなかったという意識でした。人生で初めて燃えるほどに頑張れたのが一連の事件だったのです。自分は人生の行き詰まりがいよいよ明確化した年齢になって、自分に対して理不尽な罰を科した「何か」に復讐を遂げて、その後に自分の人生を終わらせたいと無意識に考えていたのです。

 

こちらは梶さんのセリフとは違って、かなり詳細に犯罪に手を染めた動機が語られています。梶さんにとって頑張れてしまったのが詐欺で、それを通して「何か」に復讐をしたかったのかなと思いました。でも心の底から詐欺で成功したいと思っているわけじゃなくて、どこかで自分の人生すらもめちゃくちゃになっていいと思っていたから、若林をボコボコにしたり、辺見さんにナイフを向けたりできたのかなと。

梶って野心的に見えるし、辺見の「青臭い」というセリフも、それを指していると思うのですが、本気で何がなんでものし上がってやろうと思っているようには見えないんですよね。梶のセリフに「あの人性格悪いから。だからあそこまでやってこれたんだろうけど」というのがありますが、梶も辺見のやり方が賢いことはある程度認めていたのかなと。それでも若林への怒りを我慢できず、独立を夢見てしまっていたのは、むしろどこか投げやりな気持ちがあったんじゃないかなと思いました。

 

・梶さんの性的指向について

じゃあなぜそこまで梶さんが追い詰められたのかを先ほどの記事を元に考えると、学歴コンプレックスや母親からの罵りは示唆されていませんでした。残るのが同性愛という側面です。

演出の赤堀さんはアフタートークショーで「梶と辺見と真鍋の三角関係」と語っていたり、パンフレットでも「三者の関係、そこにある俗っぽい感情のもつれ。そこで吐露される胸の内には恋情まがいの言葉もあるが、真意については観る方に委ねたい」と語っています。

また、詐欺グループの部下の名前について、まず一番最初に梶さんに殴られていた男のことは、うろ覚えながら「おい原田。原田だっけ?」と一応名前を覚えていることが分かります。また、若林については「お前名前は?」と最初に聞いた後、BBQのシーンでは躊躇なく「おい若林」と名前を呼んでいます。なのに望月の名前だけは解散後、最後の最後まで知らなかったんですよね。もしあそこで再会しなければ、一生知ることはなかったでしょう。

客観的に見て、望月道子ってかなり目立つキャラクターなんですよね。スカートに血が飛んでしまったくだりで、初めて梶さんとマトモに会話するのも望月ですし、そもそも詐欺グループの紅一点なので、それだけでも目立ちます。さらに望月は、梶の詐欺グループの中でも詐欺に対してかなり熱心で、一番初めに詐欺を成功させ、多額の利益を上げています。

だからこそ、屋上のシーンで望月に名前を聞く梶の異様さが際立つんですよね。屋上の場面は、詐欺グループ側のシーンとしてはラスト、梶さんの出番としてもラストなので、その中で突然組み込まれる望月に名前を聞く梶のシーンはかなり目立ちます。本来名前を覚えていない方が不自然である状況の中で彼女の名前だけを覚えていない梶の望月への無関心さは、強調したかった部分なのかなと思いました。

あとは猫探しの場面、父親と2人で話すシーンですね。自分のせいで猫が殺されたことを分かっていながら、まだ生きていると思って猫を必死に探す家族に協力する梶さんですが、公園のベンチで隠れて発泡酒を飲み始める父親と、おそらくかなり久しぶりに、2人で会話します。

このシーンの長年会ってなかった父と息子の空気感が絶妙なのですが、気になったのが梶さんの言いかけたことです。まず冷蔵庫にあった茹で卵が腐っていた話を終えた父親に対する一度目の「あのさ」は、猫がいなくなったのが自分のせいであることを打ち明けたいのかなと思いました。しかし父に話し出すのを邪魔され、次が2度目です。

父親から「お前彼女いんのか?まだ結婚もしてないんだろ?」と聞かれた後、「俺は」と何かを打ち明けようとします。もちろんこちらも猫のことについて打ち明けようとしている風にも捉えられるのですが、「俺は」という言い方と前後の流れ的に、自分のことについて話そうとしていると推測する方が自然かなと思いました。

結局父親に邪魔されて打ち明けられないまま終わっていくわけですが、父親側からも何か察するところはあったのかもなと思います。昭和と亭主関白を絵に描いたような父親ですから、彼女を作ることも結婚することもできて当たり前だと思ってそうですし、梶が犯罪に手を染めていることも、結婚しない理由も、できれば耳に入れたくない話なんだろうなと。もし父親が都合の悪い話から逃げようとせずに梶と向き合っていたら、何かが変わったのかなとか考えながら。

彼女と言えば、1場で梶さんが「俺こう見えて結構マトモに育ったんだよ。普通の家庭に生まれて、普通の両親に普通に育てられて、普通に学校に行って、普通に彼女もできし、普通に大学出て、普通に就職して」と語っていますが、「普通に」という言葉をつけていることによって、こうあるべき、こうしなきゃの中に「女性と付き合う」という項目が含まれていたのかなと思いました。この辺りの追い詰められ方は、あの「普通の」家族で生まれ育ったからこその強迫観念なのかもしれません。

 

・中年男とのリンク

引き続き先ほどの記事からの話ですが、苦痛から解放されたくて自殺しようと思っていたが、やっぱりせっかくなら復讐することにした、が当てはまるのって、どちらかというと赤堀さん演じる中年男の方な気がします。

ただ、この中年男と梶さんの話すことって共通する部分があるんですよね。ツラいと思っていることを認められないことのツラさが2人共にあるように思えます。屋上でのシーンの2人の打ち明け話は詳細こそ違えど、大筋はそっくりだと思いました。

梶さんは原因不明の実家の悪臭を医者から「問題ない」と言われ、姉からは怒られ、ノイローゼ気味になっていきます。それに対し、中年男の場合は休みたいと言ったら上司に診断書を取ってくるように言われ、医者からは「病気じゃない」と言われ、富士山が噴火しなかったから病院を放火します。

2人ともツラいことが認められないツラさから、かたや放火、かたや詐欺で世の中に復讐しようとするが、壊れてしまえと念じている対象の中に、世間だけでなく自分自身も入ってしまっている気がして、結果として自分が死んでしまうのもそれはそれで良かったのかもしれないと思っているように見えました。中年男のこの話を聞いている時の梶が浮かべる同情にも似た表情と、その後4階に火をつけてきたと言われて呆気に取られる顔が好きでした。

中年男が執着する富士山の噴火も、本当にそうなったら中年男が無傷でいられるとは思えないんですよね。1時間かけて病院まで通っていると言っていましたが、都内が巻き込まれるような規模の富士山の噴火なら、1時間移動した場所でも被害は出るでしょうし。

この中年男の演出的な役割としては、梶さんを復讐に駆り立てた動機の少し分かりづらい部分を言い直して分かりやすく提示しているのかなと思いました。その辺りを梶さん自身が言いすぎると、セリフが説明的になりそうですし。

 

・格差の比喩

この舞台で最初から最後まで一貫したテーマとして取り上げられているのが、社会格差だと思います。その散りばめられ方が面白いと思ったので、私が気付いた限りでまとめてみました。

上下に分かれたステージ

今回の舞台は基本的に常に上と下で分かれています。そこを登場人物が行き来したり、行き来できなかったり。特にBBQのシーンなんかは、上では辺見や若林がシャンパンを飲みながら、下では研修生たちが地べたに座ってカップ麺をすすっているのが顕著だと思いました。

登れない脚立

詐欺グループのオフィスにはいくつかの脚立が無意味に置かれています。しかし、誰も上に登ろうとしないし、登ったとしても上には何もつながっていない。

逆転しないボウリング

辺見と青木がその日10ゲーム目のボウリングを行っているシーン。辺見は一度も勝てていませんし、「パンチアウトすれば逆転もありうる」と言われながら、最終的にはパンチアウトをしても追いつけないほどの点差になって終わります。

白いスニーカー

若林の衣装をチェックしていて気になったのが真っ白の汚れのないスニーカー。さらに辺見もBBQでは真っ白のローファーを履いていました。一方で研修生の男も白いスニーカーを履いていたのですが、そちらは全体的に薄汚れていました。

家族との合流

梶さんの登場する実家のシーンは2度あり、1度目は2階の自分の部屋と思わしき場所から階段で降りてきます。2度目は猫探しのシーンで、下にある道路を走ってきて、上にある公園に向かって階段を登っていきます。最初に実家に帰ったタイミングでは、独立を企んでたことこそバレたものの、お咎めらしきお咎めもない一方、実家では話に入れず浮いていることから、実家に帰ることが下がることだったのかなと。しかし独立すると言い張った後は、辺見さんに猫を殺され不信感を募らせる一方、家族とは普通に会話し、自然な笑顔も見せていて、実家に帰ることが上がることだったのかなと思いました。

花火

屋上で真鍋が息絶えた後、花火が上がります。上にいた望月はそれに気づき、青木も上に上がって見にいきます。瀕死の辺見でさえもなんとか体を引き摺りながら上に上がって、そこで倒れました。梶だけは青木に呼ばれても上に行こうとしません。真鍋が死んだ時点で、梶の上に行こうとする野心はもう完全に死んでしまっていたのかもしれないなと思いました。

犬とカラスと偉い人</ph5

昔カラスは3本足だったんだ。犬も3本足だったんだよ。

でもカラスは飛べるから良いけど、犬は3本じゃ歩きづらいよ?それである時、犬は偉い人にお願いしたんだ。偉い人って神様じゃなくて。それでその偉い人はどうしたと思う?

カラスの足を1本奪って、犬にあげたんだよ。偉い人って全然偉くないよね!

犬っておしっこする時、後ろ足あげるでしょ?あれってカラスから貰った足を汚さないようにってことらしいよ。遠慮することねぇのにな。あんな小狡いヤロウのために。

 

というのが青木の最後のセリフですが、カラスは辺見、犬は梶や自分達のことを指しているようにも聞こえますし、カラスが老人、犬が若者と考えても良さそうです。持っている人間(カラス)が与えてくれたもの、持っている人間から奪ったものに感謝する必要なんてないということなのかなと思ったのですが、面白いのが登場人物がもう1人いることですね。それが「偉い人」です。この「偉い人」って辺見の言う「上」や「あの人たち」と同一のものなのかなと思いました。

 

これは最近分かったことなんだけど、俺たちにはどうしても越えられない壁がある。あの人たち僻みっぽいから、一見さん絶対お断り。京都の老舗の料亭より融通が効かない。

 

我々のような下々には関係のない話。上の方でメンツが立つとか立たないとか色々あるみたい。

 

青木も辺見も、犬とカラスは同じ地平にいるが、それよりも上の越えられないところに「偉い人」がいるような口ぶり。それがいわゆる「エリート」で、「俺たちとは住む世界が違う」人たち(若林)のことなのかなと思いました。全然偉くない偉い人が、犬の不満をなだめるためにカラスから奪って与える。

おそらく梶はまだそれに気づけていないんじゃないでしょうか。だから青臭い。全力で頑張ればなんとかなるとどこかで信じていて、若林のことも殴るし、熱くなって独立を宣言したりしちゃう。辺見にもそういう時期はあったんだと思います。でもそれが無理だと悟り、諦めたからこそ、辺見にとっては梶の行動が無謀で無意味な青臭いものに映る。

辺見はゼロから始めると言い放つ梶に「俺はお前のためを思って」と引き止めますが、本当に梶のことを思っての行動だったんだろうなと思います。結局梶はその後辺見の元から真鍋と共に去っていきますが、その後のヘリコプターに対する「うるせぇな、さっきからぐるぐるぐるぐる。無意味なことはやめてくれよ」は梶への嘆きにも思えました。

その悲痛な叫びと「やめろよ」ではなく「やめてくれよ」という懇願口調に、めちゃくちゃ切なくなりました。

 

・若林という存在

2020年に公演中止に至り、2022年、ようやく幕を切ることのできたパラダイスですが、元々村上虹郎さんだったところに入ってきているのが永田崇人さんです。この永田さん演じる若林というキャラクターは、出番自体はそれほど多いわけではないのですが、存在感がかなり強いなと思いました。

まず先ほど言った通り、若林だけは「越えられない壁」の向こう側の人間で、「偉い人」の息子で、「エリート」で、「俺たちとは住む世界が違う」人間です。なのでちょこちょこ考え方が浮いているんですよね。

まず1場で梶が復讐について語るシーン、若林だけは「わかんないっす」と言い放ちますが、それ以外のメンバーは梶に対して共感しているようなセリフや素振りを見せます。また、辺見と出会えたことに対して「マジで神様いるなって」と言っていますが、辺見は「神様なんていないよ」と否定します。おそらく若林は、望みを口にしておけば誰かが与えてくれた人生だったんだと思います。若林はその誰かを「神様」だと思っていますが、実際は辺見のような人間たちが「神様」として色々やってくれていたんだと思います。

BBQのシーンと同時並行で進む詐欺グループも、最初は望月以外はあまりやる気がない様子でしたが、若林への「俺たちは住む世界が違う」というセリフをきっかけに動き出すんですよね。若林への反感が、梶や研修生たちの心情変化を作り出しているように見えました。

あと若林って良くも悪くも堂々としていて生意気。ボコボコ人殴ってる梶に対し他の研修生たちが恐怖を抱いている中、若林だけは梶に普通に意見を言ったり、話しかけたりします。ビビっている様子もなくはないですが、他の研修生たちとはビビり方が違う。一回り以上年上であるはずの青木や辺見に対しても、学校の先輩くらいの感じで接する。真鍋が肉を焼いてくれている間に自分が座って酒を飲んでいることにも全く悪びれない。というか多分気にしてすらいない。

急に自分語りになりますが、私は良い家に生まれて、良い学校に行って、良い大学に入って、良い会社に就職しました。めちゃくちゃ裕福というわけではないですが、貧しいとはかけ離れていました。私は自分のことを運の良い人間だと思っていたし、堂々としていて物怖じしないのが個性だと思っていました。でも若林というキャラクターにそれを見せつけられたことで、運が良いと思っていたのは、チャンスが来た時に躊躇なく機会(中学受験や習い事など)を買ってもらえるだけのお金があったからで、堂々としているのは、困った時には誰かが助けてくれるという安心感があったからだと感じました。

その辺りの無自覚さが生々しく描かれていて、「俺もいつか店長やってみたいな」と軽々しく口にするところに、梶はキレたんだろうなと思いました。

 

・実家

ここまで考察してきた詐欺グループ側の話と並行して進むのが、梶さんの実家です。

パンフレットには「うんざりするほど卑近なホームドラマ」と紹介されていましたが、まさにそれだと首をブンブン縦に振りました。

初見の感想は「あの家族の気持ち悪さすごすぎる(褒めてる)」でした。正直詐欺グループ側よりも感情が持っていかれた。でも見れば見るほど気持ち悪さは慣れで薄れていって、その辺りも余計に気持ち悪くて良かったです。多分実際家族ってあんな感じなんですよね。父親が男尊女卑・亭主関白を地で行く人間でも、毎日一緒に過ごしていたら毎日怒るわけにはいかない。こっちが疲れるから。だから適度に無視して、適度にあしらって、なんとなくこういうもんかと受け入れる。気がつくと何が気持ち悪かったのかも分からなくなってくる。

家の匂いってその象徴なのかなと思います。他人の家だと濃密に「家の匂い」を感じるのに、自分の家の匂いはそれが悪臭だったとしても、慣れてしまって全然分からない。梶さんはそんな自分の家の匂いを、普通なら慣れてしまうようなぬるい苦痛を、当たり前だと思うことができず、敏感に感じ取ってしまっていたのかなと思いました。

あとは久しぶりに帰ってきた梶さんが、自分の知っていること(コンビニのところにクリーニング屋さんがあったこと、父親が吸っていたタバコの銘柄)と辺見さんから聞いたこと(甥の年齢や部活)の2択しか話せない感じもリアルだなと思いました。梶さんの衣装は基本的に黒基調なのに対し、小川家の衣装は白っぽくまとめられていることで、家のセットでは1人だけ浮いていて、夜の公園のセットでは1人だけ溶け込んでいることに、実家と梶さんの距離を視覚的に感じました。

 

東京で犯罪組織に馴染む梶と、船橋の実家は対照的な存在ですが、全く別世界にある理解できないものとしては描かないところもこの舞台の面白さ。詐欺グループ側の会話と実家側の会話が、丁寧にリンクさせられていることに感心しました。

①自分に非があるときは言い訳せずに謝れと怒る梶・真鍋

ー責任逃れする宅配業者に怒る姉

ー悪いと思ったら謝ってよと怒鳴る母親

②「男とか女とか関係ないから、今そういう時代だから」と話す梶

ー「女だから舐められてんだよ」と話す父親

②寿司屋を比べる辺見

ーどこの寿司屋を頼むかで言い合う父と母

Amazonでドライヤーを探していた若林

Amazonでワイングラスを注文した姉

詐欺で金を稼ぐ犯罪組織とどこにでもありそうな実家をつなげることで、犯罪がどこか遠い世界の話なんかじゃないと突きつけてくるような感じがありました。

 

・三角関係

社会格差や犯罪といった重めのテーマをぶつけてくる作品ですが、卑近さを同時に持ち合わせているのが面白いところだなと思いました。

特に梶・真鍋・辺見の関係性の変化は、やることなすこと動く金と流れる血の量の規模がデカいだけで、動機だけ見るとよくある愛憎劇だなと思いました。梶が真鍋と辺見から異常に好かれているのもわかりやすいですが、その2人に対する梶の中途半端っぷりもモテるクズ男感があって良かったです。

真鍋に対しては「コイツと2人でゼロから始めてみます」とあっさり巻き込むわりに、いざ猫が殺されて危険が迫ってくると「もう足洗え」と巻き込まないように気を遣う。おせえよ。

辺見に対しては、真鍋と黙って2人で独立を企んでたくせに、実家のことを持ち出されると「ずっと一緒にやってきたじゃないですか」と裏切られたような顔をする。裏切ったのお前だろ

辺見の方はなんとか梶を取り戻したい一心で、猫を殺してみたり、真鍋を半殺しにして呼び出してみたり、2000万円で尻拭いしてあげたり(重い)

真鍋は真鍋で、梶に勝手に巻き込まれても文句も言わずに辺見のこと睨んで去っていくし、自分が死にかけているのに梶さんが助かるならとモノマネで辺見を笑わせてご機嫌取るし、小指切り落としちゃうし(重い)

梶も、最初は辺見に対して包丁を持つ手が震えていて、体重も全然乗ってなかったのに、真鍋が馬鹿にされて笑われてるのを見て、辺見のこと刺しちゃうし(重い)

そりゃ自分から梶を奪った真鍋がこれで勘弁してくださいって小指持って乗り込んできたら、辺見さんもイライラするよね。梶には2000万円出せるけど、真鍋には1円も出したくないわな、と勝手に納得しました。

 

・辺見と梶

辺見と梶の関係は、「そりゃ辺見さんも嫉妬するわけだよ」とか「だってお前のこと好きだから」など、結構言葉にもされているので初見からわかりやすかったのですが、見るごとに辺見さんから梶さんへの思いの強さに勝手に切なくなりました。

パンフレットにも八嶋さんが辺見について「どこかで若い頃の夢を諦めきれない部分もあって、みっともなく抗っている、女々しい男ですね。辺見の中にあるそんなメス的な部分が、ある意味で夢を託した梶に対する執着に繋がっている気がします」と語られていて、理解しやすかったです。その続きで辺見の行動について「好きな女の子にこれ以上しつこくするともっと嫌われるのに、手紙を大量に書いて『なんで返事くれないんだよ!』とキレる、みたいな感じ」と例えていて、マジでそれなと思いました。

一見すると辺見って梶の嫌がることをやっているようにも見えるけど、決して憎いわけでもないし、嫌われたいわけじゃなくて、むしろその逆というか。ボウリングのシーンでも、無謀なことをしようとする梶を結構本気で親切心から言ってるところもあるんだろうなと。梶を手放したくないし、誰かに殺させたくもない。

若林をスカウトしてきたのも、BBQに若林と梶を呼んだのも辺見ですが、別に梶に嫌がらせをしたいわけじゃなくて、上とのコネクションがあった方がいいだろうというお節介なのかなとも思いました。それだけに若林をボコボコに殴った梶に「縁切りましょう。コイツと2人でゼロからやり直します」と言われたのはかなり堪えただろうなと。

大阪公演のときはその後の「俺はお前のためを思って」の部分がもう少し茶化した言い方に聞こえていたのですが、東京公演では梶のところまで近づいていって腕を掴みながら「俺はお前のためを思って」と引き留める形に見えて、より一層その後の「無意味なことはやめてくれよ」の悲痛さが増していました。

大阪と東京千秋楽を見に行ったので、間が1ヶ月ほど空いて、結構セリフの言い方とか動きが変わっているところがあったのですが、辺見の真剣なセリフが増えているのと、辺見から梶へのボディタッチが増えているのは感じました。

真鍋を殺さずにしておいた理由について青木が「辺見さんはお前の復活に賭けたんだよ」と言った後の、辺見の「そういう希望があったのかもしれない」というセリフの絶望感も増していましたし、「俺はお前のことが好きだから」もわりと真剣になってた気がしました。

大阪初日を見たときは「2000万円も払っちゃったの⁉︎」と突然の愛の強さに驚きましたが、その辺りのセリフの真剣さが増したことで、「まぁ梶さんのためなら2000万円くらい払うか」と納得できる感じでした。

辺見の立場から考えると、2000万円出してでも手放したくなかった梶が、自分より後に知り合ったはずの真鍋と自分に黙って独立企んでいた上に、2人でやり直すとか言い出すもんだから、やりきれないですよね。辺見の嫌がらせのようにも思える行為が梶を連れ戻すどころか、むしろ事態を悪化させていたわけだけど、かといって広い心で背中を押していたら、それはそれで真鍋と2人で飛んでいっちゃいそうだし。どうにもできなかったんだろうなと。

 

・真鍋と梶

辺見から梶への愛の重さに引けを取らないのがこちらの2人。

この2人、立ち姿がめちゃくちゃ似てるんですよね。身長も5cm差ですし、着こなしも似ている。第二ボタンまで開けたシャツとスラックス、腕時計に金色のチェーンのネックレス。ネックレスは全く同じデザインにも見えたのですが、微妙に梶さんの方が長かったです。元々手足長くて頭小さい体格がそれなりに似てるっていうのもあると思いますが、結構衣装とかでわざと演出的に作っている部分もあるのかなと思いました。

辺見と違ってセリフや説明が多くないので若干わかりづらいのですが、とにかく表情や動きにめちゃくちゃ出てる。ていうかアイコンタクトが多すぎる。以心伝心というか、言い訳を始めた原田にイライラする様子の梶を見て、汲み取って殴り始めるし、ボウリングが下手な辺見を2人でひっそり笑ってるし。

特に「コイツ誰が連れてきたの?」「イケちゃんっす」「イケちゃんかよ」「イケちゃんっす」「イケちゃんか」のところの2人だけの入り込めなさそうな雰囲気が、それだけでめちゃくちゃ説明になってた。そこに原田が空気読まずに割り込んで謝りにいって、案の定殴られてた。

生意気なことを言う若林に苛立っている様子の梶を宥めようと笑いかける真鍋も良いのですが、その後若林をボコり始めた梶を止めるところが良かったです。私の入った公演では、一旦落ち着いた梶をまだ止めようとする真鍋に対し、もう大丈夫だからと言うように梶がポンと胸を叩いていて、2人で至近距離で笑っていたのが萌えました。どんな窮地でも、死にかけでも、2人ともお互いの顔を見ると笑うんですよね。

あとは電話のシーンの梶さんのトーンだけでも、真鍋にどれだけ心を開いているかがすごく伝わってくる。「俺自分の枕じゃないと上手く眠れないんだよ」に対し、電話の向こうの真鍋が何かを言って梶のことをいじって、梶がそれに対し「うるせえ、うるせえよ」と笑ってるところが、ピリッとした後半の数少ないほんわかシーンでした。真鍋ってどちらかというと忠臣みたいな印象だったので、梶のことおちょくったりするんだなぁって。梶が結局なんて言われたのかめちゃくちゃ気になる。でも「〇〇では寝てたじゃないですか」的ないじりなら、真鍋は梶さんが寝てる姿を見たことがあることになるなぁと思いつつ。

色々考えて2人の距離感を作り込んでいたんだろうなとは思っていましたが、毎熊さんが丸山さんのことを「隆平さん」と呼んでいたことが判明して、マジで梶と真鍋じゃんと噛み締めました。

 

ここまでの関係性があって、真鍋の最期のシーンを見ると、もう切なさでうわぁってなります。

死にかけの真鍋と切り落とされた小指を見せられた梶が怒鳴ったりしないのが余計にリアルだなと思いました。怒りとか驚きとか不信感とか心配とか、いろんな感情が混ぜこぜになって、自分でもわけがわからなくなって混乱して何も言えなくなっているように見えました。

「すいません、梶さん」と謝る真鍋に対し、「俺に謝れよ!」とキレる辺見ですが、結局この後も真鍋、一回も辺見さんに明確には謝ってないんですよね。その後の「すいません、ほんと、すいません」も辺見さんを怒らせないように梶さんの名前こそ出していないものの、梶さんに謝っているようにしか見えなかったです。

何より、その後の梶の「足洗えって言ったじゃん」に対する「すいません。自分、不器用なもんで」ですね。これが高倉健の「自分、不器用ですから」という有名なセリフと似ていて、辺見と青木が爆笑するんですよ。「嘘でしょ?もっかい言って!」と辺見にバカにされても、むしろより一層似せる感じで「自分、不器用なもんで」と従順に繰り返すんですよね。最初見たときは瀕死の真鍋がモノマネすることに違和感があったのですが、梶さんを助けたかったんだなと思うと納得しました。自分が笑われてもバカにされても、それで梶さんが助かるなら、梶さんが許してもらえるならそれでいいというか。

辺見を刺してしまった梶に対しても、なんとか止めようと瀕死の体で這いつくばって梶の足を掴んで止める姿、めちゃくちゃ良かったです。

でもそれだけ徹底して梶を守ろう、助けようとする真鍋だからこそ、梶から「お前もう足洗え」「明日の朝には東京離れろ。そうだな、沖縄あたりがいいんじゃねえか?」と言われて、泣いて電話をブチ切りするのも分かるなと。真鍋からすれば梶とならどこまでもという覚悟があったわけだから、そりゃ自分だけ先に逃げるような真似できるはずがないよなと思いました。

そのまま梶さんの話を聞きながら息絶えてしまう真鍋に、梶が泣き叫びもしがみつきもせず見つめているのが、ただただ絶望と喪失感と悲しみを抱えて動けなくなっているように見えました。梶以外の全員、死にかけの辺見でさえも花火を見ようと屋上の上部に登っていく中、ただ1人真鍋の死体の横で、階段を掴もうともせずに立ち尽くしている姿を見て、もうこの人には何の気力も残っていないんだなと思いました。

 

・希望の象徴としての望月

ここまでのリアリティと熱い流れがあったからこそ、その後に続く望月と梶のシーンが浮いている感じがするんですよね。疲れそうなくらい他人の話をひたすら聞く梶なのに、望月とのここでの会話は妙に不自然というか。アンジャッシュのコントみたいな感じで、梶は望月じゃない誰かと話していて、望月は梶と話しているんじゃないかというような印象を受けました。

それでパンフレットを読みつつ思ったのが、梶があのとき話していたのは未来や希望の概念としての望月なんじゃないかと。

梶のセリフだけ抜粋すると「何でお前がここにいるんだよ。もうとっくに解散しただろ」「ずっとそこにいたのか?」「お前、名前なんて言うんだっけ。だから、お前の名前」「そう言う名前だったのか。お前、そういう名前だったのか」「早く降りてこい、そこは危険だから」「もうここはお前のいる場所じゃないんだよ。頼むから早く消えてくれ。早く消えてくれ」という形になります。

ずっとそこにあったのに、気が付かなかった。お前がそれだとは思わなかった。こんなところにあるはずじゃないのに、なぜかまだある。頼むから早く消えてくれ。

消えてくれという言い方も、人間に対して言うのはやや不自然ですが、未来や希望に対して言っているのであれば、自然な言い回しかなと思いました。

青木はそんな望月を逃そうとしますが、梶は目も合わさない。真鍋を失い、戻る場所もない梶にとって、今さら希望や未来を見せつけられてもツラいだけで、祈るように早く消えてくれと繰り返していたんじゃないかなと思いました。

 

・最終場の解釈

最終場は再び実家のシーンに戻り、3人の日常的な会話が繰り広げられます。最後に誰かが帰宅してきて、それに対する美紀の「あれ?おかえり。なんでこんな時間に?まぁいいわ。カレー余ってるから、あんたいっぱい食べちゃって」というセリフで終わります。

帰ってきたのが誰かという解釈については、美紀の息子であるハヤト、生き残った梶の2択に分かれるわけですが、私はハヤトだと考えています。

もちろんアフタートークで赤堀さんが「舞台初日、最後の実家のシーンを見て丸ちゃんが、梶はもうあそこには戻れないんだと泣いていた」と話していたのも理由の一つですが、他にもそう考える理由があります。

まず、あそこで絶望し、青木に銃を向けられながら笑った梶が、たとえ奇跡的にあの火災から生き残ったとしても、そのまま実家で平凡な日常を過ごして生き延びていく姿が考えられないなと思ったのが一つです。

次に父親と美紀のトイレ問題に関する口論で、「この前便座あげっぱなしだったから」に対し、父親が「何で俺なんだよ、お前の息子じゃねえの?」と返しますが、もし梶さんがこの家で生きていたら、便座を上げっぱなしにする可能性がある人間は梶さんを含む3人になるはずなので、梶さんはこの家にいないんだなと解釈しました。

最後に美紀が玄関から帰ってきた人間に対して「あれ?なんでこんな時間に」と問いかけますが、それが父親の一番最初のセリフ「ハヤトは何時ごろ帰ってくんだ?」とつながっているのかなと思いました。ハヤトは学校の行事か部活か何かでその日は元々帰りが遅くなる予定で、夕ご飯もいらないと言っていたが、何か事情があって早く帰ってくることになったのかなと。

マロンもいなくなって梶が死んでいたとすると、最後の日常シーンがいつも通りすぎるかなとも思うのですが、いつまでも悲しんでいても帰ってくるわけじゃないですか。どこかで日常に戻らないといけないから、ふとした時に悲しくなることはあるけど、今のところは日常を送れている、という状態なのかなと思いました。実際、前の2場面から何も変化がないわけじゃなくて、父親がようやく非を認めて謝ったり、美紀の言うことを聞いてカレーを食べたりします。息子に先に行かれたことが、ほんの少しだけ2人を素直にさせたのかなと感じたりしました。

 

・プレイリスト

パラダイスで一番違和感があったのは、開演前に流れている曲です。マシーン日記だと工場をイメージしたサウンドトラックだったり、ヘドウィグだと道路をイメージした救急車などの音だったり、イフオアだと洋楽がかかっていることもあったり、いろいろですが、パラダイスは完全に流行りのポップスでした。そのリストがこちら。

 

一途/King Gnu

残響散歌/Aimer

悪魔の子/ヒグチアイ

アルデバラン/AI

燦々デイズ/スピラ・スピカ

踊り子/Vaundy

命に嫌われている。/まふまふ

うるうびと/RADWIMPS

Actually.../乃木坂46

Mela!/緑黄色社

POP SONG/米津玄師

題名のない今日/平井大

ミライチズ/夜のひと笑い

3月9日/レミオロメン

Butter/BTS

CITRUS/Da-iCE

踊/Ado

WADADA/kep1er

ドライフラワー/優里

The Feels/TWICE

祭/藤井風

うっせぇわ/Ado

炎/LiSA

Permission to Dance/BTS

ミスター/YOASOBI

ハート/あいみょん

Pretender/official髭男dism

 

特に洋楽縛りとかでもなく、ジャンルも恋愛ソングだったりそうじゃなかったりバラバラ。パラダイスという作品自体わりとシリアスな感じなので、違和感があったのですが、違和感があるということは意図的にそうしているということなので、いくつか考察してみました。

 

望月が聴いていた曲説

これはツイッターで何件か見かけた考察なのですが、望月が屋上で聴いていたのがこのプレイリストなのではないかという説です。確かに望月の見た目の年齢的に聴いていない不思議じゃない内容ですが、個人的にはあまりにも趣味がなさすぎるんじゃないかなと思いました。お気に入りというものを感じないというか、流行の寄せ集めって感じで、特定の誰かのプレイリストって感じがあまりしないというか。ただ、恋しているのではないかというのは面白いなと思いました。確かにわりと恋愛ソングが目立つんですよね。特に最後のPretenderなんかは日本語で詐欺師という意味もありますし、望月が梶に恋をしていたと捉えても、セリフや表情に違和感はないなと思って。

 

作品全体を表している説

パラダイスって取り扱っているのが詐欺、犯罪、社会格差だったりするので、すごく重々しくシリアスな感じがするのですが、意外と動機になっているのはただの三角関係という話を踏まえると、流行りの恋愛ソングや、世の中への不満を歌った曲など、普遍的なものをあえて揃えている理由になるかなと思いました。あえて陳腐にすることで、彼らの物語が全く遠い世界の話じゃなくて、身近であることを示しているのかなと。

 

渋谷をイメージしている説

個人的にはこれが一番しっくりきました。私は今回初めて渋谷に行ったのですが、渋谷ってスクランブル交差点だとずっと広告が音付きの動画で流れていたり、センター街に入ると流行りの曲が流れていたり、結構音にまみれているなと思いました。

話に出てくるのも渋谷、道玄坂、池袋、赤坂、六本木といった、渋谷近辺の地名が多いので、渋谷の街から会場内を地続きにするようなイメージで作られているのかなと思いました。

 

・地名について

作品の中ではさまざまな地名が出てきますが、私は関西人なので、地図で調べて初めて気がついたことがいくつかありました。

赤坂と六本木

六本木がわりと高級なイメージはあったのですが、赤坂も同じような場所にあるんですね。同じ港区内で、渋谷から車で10分ほど。辺見が文句を言っていた寿司屋があるのが赤坂、真鍋が小指を切り落とした後に行った焼肉屋が六本木なので、その辺りも辺見の経済状況を反映しているのかなと思いました。

池袋

池袋の名前が出てくるのが、辺見が昔よく行っていたボウリング場があるのが池袋。渋谷よりは栄えていないイメージがあったのですが、家賃相場も渋谷駅周辺が1Rで13万円なのに対し、池袋駅周辺は1Rで9万円と結構差があるようです。

「スコアが手書きだった頃よく行った」と言っていたので、おそらく80年代~90年代だと思います。丸山さんが38歳で、梶さんが38歳よりは若い設定なので、八嶋さんも実年齢よりいくつか若い設定だとすると、辺見さんは2022年で50歳ほど。1980年だと8歳になってしまうので、90年代頃、20歳前後の時によく行ったのかなと思いました。おそらく当時はそこまでお金がなかったので、池袋だったんですかね。青木がそのボウリング場を知っている体で話しかけているように思えたので、もしそうだとすると青木と辺見はおおよそ30年前から知り合いだったことになりますね。水澤さんが八嶋さんの6つ年下なので、青木はおそらく1990年で12歳、2000年で22歳になるくらいのはず。青木が高卒か中卒で卒業したてくらいの頃に知り合ったのかもしれません。大体25年くらい付き合いがあるということになります。

一方で梶は「普通に大学を出て」と言っているので、留年なし4年制大学だと考えると、2010年ごろに就職したことになります。その後しばらく働いてから辺見と出会ったと考えると、付き合いはおよそ10年ほどになるので、辺見の「お前と長年連れ添ってきた」がそれくらいのスパンを指していると思うと面白いですね。よっぽど濃密な関係だったのかなと思います。

毎熊さんは丸山さんより3歳若いので、もし真鍋が大卒か高卒かくらいでこの世界に入っていたとすると、真鍋と梶はほぼ同期くらいになるのかもしれません。

渋谷

梶さんが住んでいるのが渋谷区、辺見と若林が知り合ったのも渋谷の道玄坂にあるバー、ついでにシアターコクーンがある場所となっています。私は最初にパラダイスに入ったのが大阪公演だったので、森ノ宮で観たのですが、森ノ宮ってかなりファミリー向けというか、大阪市内でも閑静で公園などがあり住みやすい街(逆にいうと外の人がわざわざ訪れる場所ではない)というイメージです。なので当たり前ですが、ピロティホールを出るとすぐ現実という印象がありました。

でも渋谷で観ると、舞台に入る前も入った後も、パラダイスの空間と地続きであるような感じがしました。10代~40代くらいの人間で溢れていて、喫煙所からタバコの煙が漏れてきて、大声で話すちょっと怖そうなお兄さんたちがいて、流行の音楽がかかっている。ここに梶や真鍋がいても不思議ではないような雰囲気。なんとなく望月が洋服を買おうと思ってやってきたのも渋谷だったんじゃないかなと思いました。

船橋と幕張

梶さんの実家のある船橋、私は勝手に車で1時間以上かかるくらいの距離だと思っていたのですが、渋谷駅から船橋駅まではおよそ40分程度。帰ろうと思えばすぐに帰れる距離です。

実際辺見と青木がBBQの買い出しに行った幕張も渋谷から車で40分ほどとほぼ同距離です。コストコは会員制で、青木がコストコに行ったのが初めてだったことを踏まえると、おそらく辺見がコストコの会員なのではないでしょうか。そう考えると、辺見にとって幕張はある程度日常的に通える距離で、船橋もそれと同じくらいだと捉えることができます。

中学1年(13歳)の甥と一度も会ったことのないと考えると、梶は10年単位で帰ってなかったのかなと思いました。先ほどの予想から10年前に梶が辺見と知り合ったと考えると、この世界に入ってからは一度も帰っていなかったのかもしれません。地理的な距離が遠くない分、心の距離の遠さがわかるなと思いました。

 

・その他

タバコの銘柄

梶さんのタバコの銘柄を見ようとしていたのですが、恐らく色味的にマールボロヒートスティックトロピカルメンソールだと思います。Twitter見てたらTEREAのトロピカルメンソールという説もありましたが、私から見るとマールボロの方が色味が近い気がした。

とりあえず、どっちにしてもわりと吸いやすいフレーバーなんですよね。最初はメンカラ?と思っちゃったけど、赤堀さんの作り上げる密度の濃いリアリティの中で、単にメンカラと言う理由だけで銘柄を選ぶのは違う気がする。

なんとなく思ったのは、元々梶さんは非喫煙者で、付き合いでタバコを吸い始めたのかなと思いました。辺見さんが喫煙者ですし、合わせて吸いやすいタバコを吸っているうちに、習慣になったってところかなと。

辺見さんも同じ銘柄だったという情報を見たのですが、もしかすると辺見さんも周りと合わせるために吸い始めたのかもしれませんね。辺見さんの性格ならめちゃくちゃ想像しやすい。

 

姉と弟

最初の場面での美紀と梶の会話ってかなりぎこちなくて、二人きりになった時も、梶の言う通り美紀がどこか怒っているようにも見えるんですよね。

実際美紀の立場から考えてみると、全然帰ってこなかった弟がいきなり「ワイン飲むんだ。意外」とか言ってくるし、両親のこと「もう完全に老人じゃん」とか言ってくるし、腹立ってもおかしくないよなと。そこまでの梶の会話を無視して、最後にあえて関係のないコロッケの値段のことを聞いたのは、苛立つ気持ちもあったけど、その気持ちを飲み込んで和解の一歩を踏み出したのかなと思いました。

だからこそ最後は笑いながら家の話や憧れの話をできたのかもしれません。

真鍋さんの前では美紀を「姉貴」って呼んでるのに、実際は「姉ちゃん」呼びなの可愛い。

 

父親の癌

辺見は梶の父親のがんについて「膵臓だか肝臓だか忘れちゃったけど」と言っていましたが、一郎が何度も背中をさするシーンがあったので、膵臓がんなのかなと思いました。

膵臓がんはヘビースモーカーだとなりやすいそうです。肝臓がんや他のがんと比べても、かなり生存率が低く、難治性のがんで有名らしいです。

 

愛人とセックスレス

よくよく考えると意味わからなくないですか?愛人って嫁以外とセックスしたくて作るもんじゃないの?と思いました。もしかすると辺見さんにとってはあの男社会で生きていくためのトロフィーみたいなもんだったのかなと。

 

暗転の仕方

結構プツリと切れたように暗転することが多いのが特徴的でしたが、観客側はあくまで彼らの人生の一部を覗いているだけなんだというのを強調しているように思えました。

 

梶浩一の性格

2場の途中以降、梶さんってずっと追い詰められているので、逆に2場のお調子者っぽさが浮いているように感じるのですが、本来のキャラクターとしてはわりと陽気でお調子者な感じなのかなと思いました。

辺見さんに対して「惨敗じゃないっすか」って笑ってたところとか、「よっ、お願いします!」って盛り上げてたところが結構好きでした。

 

最後に

私が舞台にどっぷり浸かり始めたのはマシーン日記がきっかけで、あの時は結構ミチオの仕草含むビジュアルが好きで何度も観に行ってたんですよね。その次にどハマりしたのがヘドウィグで、あの時は丸山さんというより完全にヘドウィグのファンとして通っていました。

そして次にハマったのがパラダイスですが、今回は作中の登場人物同士の関係や心情変化を考えるのが楽しかったなと。

推しのおかげである意味好き嫌いなく色々な作品に触れられているので、今まで気づかなかった好きなものがどんどん掘り出されて、すごく楽しいです。

マシーン日記が終わった後もこれより良い作品に出会えるのか不安になりましたし、ヘドウィグの時もそうでしたが、1年も経たないうちにこうして5万字のブログを書いてしまうほどハマる作品に出会えたのは本当に幸せだなと思います。

一方で、これより良い作品に出会えるのかなとまた不安になっている自分がいます。最高に出会ってしまった時に付き纏う贅沢な不安なのかもしれません。

しばらくはこの興奮と寂しさと一緒に生活していこうと思います。

 

 

ライブ遠征、ホテルを選ぼう!

18祭が終わりましたね。ドームツアーが決まりましたね。

祭りの後は寂しさを覚えるものって蒼写真で歌ってた気がするんですけど、そんな暇は与えてくれないのが関ジャニ∞

私は大阪に住んでいるので、基本的には舞台でもツアーでも地元公演があるのですが、なぜかそんじょそこらのオタクよりは遠征しています。

エイトにハマって早6年、気がつくと16回遠征していました。夜行バスで行って夜行バスで帰る0泊3日の超弾丸過酷遠征をしたこともありましたが、やっぱり遠征にホテルはつきものです。なんせライブの公演時間が3時間がデフォルトになってきているエイトさんですから、よっぽど工夫しないと日帰りは無理です。

特に8BEATで慣れない土地に何度も足を運んだこともあって、ようやくホテルの上手な選び方が身についてきました。

本当はちょっとだけ教えたくないけど、ライブ遠征における上手なホテル選びのコツをお伝えします。

 

目次

 

 

1. いつ予約する?

 

関ジャニ∞のライブの場合は、おおよそ3~4ヶ月前に日程が出ることがほとんどです。交通機関の予約は90日前からであったり、1ヶ月前からであったりすることが多いですが、ホテルは3~4ヶ月前なら普通に予約することが可能です。

選択肢としては、

①日程が出た段階

②当落の後

③直前

この3つくらいが想定されるわけですが、私のおすすめは①です。

特にドームは5万人単位の人間が動くわけですから、早め早めに越したことはありません。また、ほとんどのホテルは3日前くらいまではキャンセル無料です。(そうじゃないところもあるのでちゃんと確認してください)

予約自体は後にするとしても、ホテルの候補を挙げておくくらいのことは、会場が決まった段階か、日程が出た段階でしておく方が良いでしょう。

 

2. 予算を決めよう

 

予約するとなると、まずはこれで絞る人が多いのではないでしょうか。大富豪でもない限り、遠征は常に金欠と隣り合わせです。

ホテルの価格というものは案外ピンキリ。土地代や設備の豪華さも関係してきますが、ホテルの宿泊代のほとんどの部分を決定するのは繁忙期か否かです。

なのでツアーの日程が発表される前に、せめて当落が出る前に、一度でいいのでホテル予約サイトを調べてみてください。特にホテルの少ない地方都市とかだと、元々は3000円くらいで泊まれるホテルが8000円くらいになっていることもあります。8000円もかかるんだからそれなりに良いホテルだろう、なんて思っていると間違いなくガッカリします。

 

では通常期のホテル代を元に予算を決めていきましょう。

私はいつも1人1泊5000円を目安にしています。大体この価格だと、アパホテルやドーミーイン、スーパーホテルといったメジャーどころのビジネスホテルに宿泊することができます。もし1室に2人で泊まるのであれば、1人あたり3500円くらいまで下げても同じランクのホテルが探せると思います。

双眼鏡の時にもした話ですが、ブランドやメジャーさというのは結構馬鹿にできません。もしチェーン展開をしている特定のホテルに泊まって、ものすごくその部屋が微妙だったら、もう一度同じブランドのホテルに泊まろうと思いますか?

ブランド名をつけるということは、ある意味リスクなんです。たった1回の不満で今後ずっと使ってもらえないかもしれません。というわけで、それなりのクオリティを担保しようと企業努力がなされるわけです。

そうしたそれなりにメジャーなブランドのビジネスホテルを不自由なく選べる価格帯がこの1人5000円のラインです。

もしこの価格よりも下げたいのであれば、中途半端にビジネスホテルに手を出すよりも、割り切ってカプセルホテルなどを探した方が、綺麗な部屋・立地の良いホテルなどに泊まれる思います。

 

3. 路線を調べよう

 

会場から徒歩圏内のホテルは当たり前ですが、間違いなく混みます。

混んでいるということは価格が上がります。価格が上がるということは、同じ予算でもクオリティの低いホテルを掴まされる可能性が高いということです。

とはいえライブ後に遠いホテルまで帰るのもしんどいですよね?場合によっては終電を気にしなければいけません。

そこでオススメなのが、路線で探すという方法です。

乗り換えがないというだけで、それなりに距離が離れていても、終電の時間はグッと後ろ倒しになりますし、帰るのも楽です。

例えば東京ドームの場合。

最寄駅は水道橋駅後楽園駅春日駅の3つです。「水道橋駅 路線」と調べてみると、総武線都営三田線が通っていることがわかります。後楽園駅南北線丸ノ内線春日駅三田線大江戸線です。

次は各路線を検索してみましょう。

総武線だと新宿、秋葉原錦糸町なんかがそれなりにホテルの多いエリアですね。基本的には「なんか聞いたことあるな」みたいな駅の方がホテルは多いです。

名古屋とか福岡だとほとんど聞いたことない駅名かもしれませんが、そこまで駅の数多くないので頑張って調べてください。複数の路線が乗り入れしてる駅は基本的にホテルが多いです。(もちろんそれ以外の施設も多い)

 

検索するときに一つ注意があります。

例えば「新宿駅」で検索したとして、時々最寄りが全然新宿駅じゃないホテルが引っ掛かることがあります。(「新宿駅から乗り換え5分」「新宿駅駅から車で5分」といった感じ)

きちんとその駅から徒歩で移動できるのかどうかは見ておきましょう。

 

こんな感じで乗り換えなしで行き来できる駅を把握しておくと、遠征はかなり楽になります。

 

 

4. ビジネスホテルは新しさが命

 

さて、予算と駅が決まれば、あとはホテル予約サイトで検索するだけです。

5大都市であれば、恐らく10以上のホテルが表示されるでしょう。(福岡は若干少ないかも)

逆に10個以下しかホテルが出てこない場合は、その駅はホテルが少ない場所である可能性が高いので、別の駅に変えた方が選びやすいかもしれません。

 

この中からどのホテルを選ぶか、というのが大切になってくるわけです。

遠征先のホテルで不満を感じるのってどんな時ですか?これは私調べですが、圧倒的に水回りです。排水溝が詰まる、ほんのり臭い、ユニットバスに清潔感を感じなくてお風呂に入る気が失せる。

その次に電気設備です。ドライヤーが弱い、熱すぎる、エアコンの効きが悪い、加湿器がない、あっても性能が悪い。

こうしたホテルを避けるために何を確認するべきか、それが新しさなんです。

 

そもそも水回りや電気設備というのは、入れ替えにかなりのお金がかかります。

アメニティやパジャマ、タオル、シーツなどは単価が安いので、古いホテルでも新しいものを使っている可能性はそれなりにあります。だからそれ以外のところで不満が出てくるわけです。

ドライヤーもお金を出せば高機能なものを買えますが、同じ価格なら新しいものの方が性能が良い、それが市場の原理です。だって同じ価格で同じ品質の商品を出したら買い替えてもらえませんからね。ホテルだって予算の許す限り良いドライヤーを買った方が、良い空調を導入した方が、リピート率が上がるに決まっています。特にそれなりに名の知れたチェーン展開のビジネスホテルなら、出張客なんかのリピート率が命なわけで、我々が普段家電を買う時以上に真剣に時間と労力をかけて設備を選んでいるはずです。

 

じゃあ実際新しさを重視するとして、そんなのどこで確認すればいいわけ?

かつての私はそう思っていました。だって物件サイトなら必ず築年数って表示されてるし、検索する段階で絞ることもできるけど、ホテルは今年オープン!とかじゃない限り、大体は記載されていないんですよね。

「ホテル名 開業」で検索してください。

大抵の場合、企業サイトでのリリースの記事や、小さなネット記事が引っかかります。例えばアパホテル上野駅前ならこんな感じ。

www.apahotel.com

記事の投稿日を見てください。何年に開業されたかが分かります。

注意点は「リニューアル」や「リブランドオープン」です。新しくなってるんだし良いんじゃないの?と思われるかもしれませんが、大抵入れ替えられるのはアメニティ・家具・家電・壁紙・絨毯などです。それだと十分じゃないんです。

水回りと空調設備、これがビジネスホテルの快適さの6割です。そしてこれらを入れ替える工事は、大掛かりかつ莫大な費用がかかる割に、サイトに載せる写真などでは分かりにくく、客側も選ぶ段階ではそこまで意識していません。つまりコスパが悪い。もちろん実際の満足度を意識してそこまでリフォームしているホテルもあるとは思いますが、なかなかそこを見抜くことはできません。

家電とホテルは「古かろう悪かろう」です。歴史ある高級ホテル(素泊まり1泊1万円以上)とかなら別ですが、基本は新しければ新しいほど良いと思ってください。

さて、新しい方が良いことがわかったところで、もしかすると「開業記事なんて出てこないよ」という人がいたかもしれません。

そのホテルは候補から外して大丈夫です。記事が引っかからない理由は2つほど考えられます。

・記事が古すぎて削除された(あるいは非表示になった)

・当時はインターネットではなく紙媒体で開業を報告していた

どっちにしても相当古いと思います。私も記事が出てこないホテルの開業時期をなんとかして調べたことがありますが、ほとんどが開業から20~50年ほど経ったホテルでした。

 

5. 荷物は預けられる?チェックインの時間は?

 

遠征で宿泊用の荷物を持ち歩くほどツラいことはありません。

もし現時点で私のアドバイス通りに予算5000円ほどでビジネスホテルを選んでいるなら、荷物を預けられるかどうか心配する必要はありませんが、もう少し予算を下げてカプセルホテルなどを見ているなら、必ず調べてください。

一例として、私が名古屋で泊まったカプセルホテルは、公式サイトからの予約でなければ荷物を預けることができませんでした。もちろんコインロッカーを使っても良いですが、安いホテルを探している人なら、コインロッカー代はできれば節約したいでしょうから。

また、チェックインの時間も必ず調べておいてください。チェックインの開始時間ではありません。終わりの時間です。

ビジネスホテルなら大抵は1時くらいまで問題なくチェックインできますし、それより後でも連絡を入れていれば大丈夫だったりしますが、少々お高めのホテルをとっている方、またビジネスホテルの少ない地方都市に泊まる方は注意してください。

8BEATの時に福井のホテルを探したのですが、ほとんどが21時まででした。横浜でもみなとみらいのビジネスホテルではない少々お高めのホテルは23時まででした。21時終演で規制退場の後ろの方だったりすると、23時までにホテルに辿り着けないことがザラにあります。事前連絡をする必要があるのか、そもそも間に合うのか、ライブ遠征の場合はその辺り注意が必要です。

 

6. 公式サイトは使うべき?

 

「公式最安値」って、ほとんどのホテルの公式HPで見かける文言です。

実際公式サイトで予約した方が数百円安いことがあったり、アメニティやサービスが豪華だったりすることがあります。

ただしこれは、1ツアーで1遠征以内しか予定のない人が使える技だと思ってください。

私の場合ですが、8BEATは福井と仙台に宿泊しました。連泊ができるホテルを探すのが難しかったのと、もし札幌や名古屋が当たったら行こうと思っていたので、実際に手配したホテルは5以上ありました。それらを全て管理するのは至難の業です。キャンセルを忘れれば、もちろん宿泊費がそのまま請求されます。日付を間違えて重ねて予約してしまうかも知れません。

そういったリスクを踏まえると、予約サイトを一つに絞ってポイントを貯めた方が、安全でお得に予約できると思います。

 

まとめ

 

ここまで色々言いましたが、「古かろう悪かろう」だけは覚えておいてください。

予算5000円と言いましたが、下げてもらっても構いません。私も昔は3000円くらいのホテルに泊まってた頃もありました。アクセスの悪さを許容して予算を抑えるのも手の一つです。コインロッカーを使ったって良い。

でもそういう人こそ、新しさだけは気にしておいてほしいというのが私の老婆心です。せっかくの楽しいライブの思い出を綺麗なまま残しておいてほしいですから。

 

そしてもしかすると関ジャニ∞のファンじゃないけど、このブログに辿り着いたかもしれないあなたへ。もしこのブログが少しでも役に立ったら、関ジャニ∞のライブ動画をちょっとだけでも見てってください。

youtu.be

 

 

 

 

 

 

関ジャニ∞の並び方、調べてみた

 

8BEATのDVDが発売されましたね。

DVDを見ていると参戦した時のことを色々思い出します。私は基本的に丸山さん、横山さん、村上さんを中心に双眼鏡で追っていました。ただ、3人いっぺんに見るのって難しいんですよね。目は二つしかないですし、脳に至っては一つなので。

だから町中華は丸山さんを見て、イッツマイソウルは横山さんを見て、といった感じで曲ごとに分けていたのですが、一つだけどうしても分けられなかったのがYESです。

イントロのJust Say "YES"のところは丸山さんを見たいし、永遠をTonightのところは横山さんを見たいし、Hay Baby, Will you mary me?のところはヒナちゃんを見たいし、といった感じで脳が忙しかったことを思い出します。ただなんとなく思っていたのが、YESって丸山さん横山さんヒナちゃんが隣り合っている並び多くない?ということ。

多分「ブリュレの時、ヒナちゃん見てると安田さんが視界に入ってくること多くない?」とか、「丸山さんと横山さんはやっぱりMCとかバンド以外でも下手が多いよね」みたいな経験則が、ファンの皆さんそれぞれにあると思います。

でも、案外数えてみるとそんなに多くなかったり、逆に予想通りだったりで、面白いことってありますよね。

 

というわけで、関ジャニ's ReLIVE 8BEATのライブ映像を見ながら、並べ方を徹底調査してみました。

 

目次

1. 1番多い並び方

2. メンバーそれぞれの立ち位置

3. シンメ調査

4. まとめ

 

1. 1番多い並び方

まずは単純に並び方を表にまとめて、その並び方が出てくる頻度をまとめてみました。

そもそも5人の並び方は5!=120なので、120通りあります。

その中でコンサート中に使われていた並び方は57通りでした。一度も出てこなかった並び方をまとめようと考えていたのですが、63通りを書き出すのはめんどくさいですし、見づらいとも思うので、省略します。

 

それではランキング、どうぞ。

 

同率2位(出現頻度3)

・横山、丸山、大倉、安田、村上

・村上、横山、大倉、丸山、安田

 

4位以下は重複が多いので省略しました。

まずは予想通りMC順がランクイン。MCの時に加えて、関ジャニ∞ on the stageの「毎度おなじみ長めのMC ようホンマこんな喋れるわ」のところでも同じ並びが再現されていました。さらに、稲妻ブルースのイントロもこの並び方です。

続いての村上、横山、大倉、丸山、安田という並び方ですが、これセンターから背の高い順ですね。やっぱりセンターが高くて外側に向かって低くなっていく構図はバランスが良く見えるのでしょうか?YESの1番Bメロ、ブリュレの間奏、キミトミタイセカイなどで使われています。

 

というわけで、1位にいく前に身長順について調べてみることにしました。

まず素直に身長順、

・大倉、横山、丸山、村上、安田

・安田、村上、丸山、横山、大倉

この並びはどれくらいあるのでしょうか。

 

なんと、1度もありません!

検索してみて一致する項目なしと出た時に、めちゃくちゃテンション上がりました。

やっぱり背の順に並ぶと見た目のバランスが悪いんですかね?

 

一方、センターから背の高い順はどうでしょう?

・安田、丸山、大倉、横山、村上

・村上、丸山、大倉、横山、安田

・安田、横山、大倉、丸山、村上

・村上、横山、大倉、丸山、安田

この4パターンですね。上から4つ目の並び方は先ほど言った通り、出現頻度3回で2位に入っています。さらに、そこから丸山さんと安田さんの位置を入れ替えた2番目のパターンもRAGEの歌い出しで見られました。

1番目と3番目のパターンは見つかりませんでした。

 

では、センターから背の低い順。

・大倉、村上、安田、丸山、横山 :1回

・横山、村上、安田、丸山、大倉 :2回

・大倉、丸山、安田、村上、横山 :0回

・横山、丸山、安田、村上、大倉 :2回

 

今度もわりと見つかりました。さっきよりも若干多いです。

センターが低い方が端にいる人が奥まって見えないからバランスが良いんですかね?

 

身長に関して調べ終えたところで、出現頻度第1位の並び方の発表です。

 

1位(出現頻度4)

丸山、安田、横山、村上、大倉

 

これ、何順ですの?と言いたくなりました。唯一4回も使われている並び方なのですが、さっきみたいに身長が絡んでいるわけでもなければ、年齢も関係ないし、シンメって感じもしない。

使われているのは、ブリュレのイントロと1番サビ、ひとりにしないよの大サビ、赤裸々の大サビ前などです。強いて言うなら全てダンス曲ですね。

 

2. メンバーそれぞれの立ち位置

続いてどのメンバーがどの立ち位置に多いのかを比べてみました。

まずは下手の端から。

1位 横山さん(21回)

2位 丸山さん(18回)

3位 村上さん(16回)

4位 安田さん(13回)

5位 大倉さん(8回)

やっぱり横山さんと丸山さんが多かったですね。2人とも大倉さんの2倍以上この位置にいます。意外と村上さんも多いんですね。

 

下手から2番目

1位 安田さん(22回)

2位 村上さん(16回)

3位 丸山さん(14回)

4位 横山さん(13回)

5位 大倉さん(11回)

意外なことに圧倒的に安田さんが多いようです。しかも2位も村上さんと、どちらもMCでは上手側の2人ですね。そして大倉さんは全然下手に来ない。

 

センター

同率1位 横山さん、大倉さん(20回)

3位 安田さん(16回)

4位 丸山さん(13回)

5位 村上さん(7回)

普段のアー写や記者会見、CMなんかだと、なんとなく安田さんと大倉さんが多いイメージでしたが、横山さんと大倉さんでしたね。

大倉さんはMCやキミトミタイセカイ、ReLIVEなどで1曲丸ごとセンターがあるのに対し、横山さんはYESやLet me down easy、ブリュレなど、移動回数の多いダンス曲に横山さんが歌い出しの曲が多いので、フォーメーションに反映されたのかもしれません。

 

上手から2番目

1位 村上さん(19回)

2位 丸山さん(17回)

3位 大倉さん(14回)

同率4位 横山さん、安田さん(13回)

この場所はMCでは安田さんの位置ですが、安田さんが一番少ない結果になりました。

 

上手端

1位 大倉さん(23回)

2位 村上さん(18回)

3位 丸山さん(14回)

4位 安田さん(12回)

5位 横山さん(9回)

意外と安田さんが上手にいないし、意外と大倉さんの上手端率が高い。横山さんがかなり下手に偏っていることもわかりますね。

 

というわけで、下手と上手の割合を比べてみましょう。

 

 名前  下手比率(%) 上手比率(%)
 横山  61 39
 村上  46 54
 丸山  51 49
 安田  58 42
 大倉  34 66

最も偏りが出たのが大倉さんですね。MCでもバンドでもセンターに立つ大倉さんでしたが、かなり上手の方が多いようです。同じく安田さんもMCとは逆に下手側が多くなっています。一方で横山さんは予想通りというか、私の体感通り、下手の方が多いみたいですね。

マルヒナは他の3人と比べるとあまり差がついていません。数%だけMCの立ち位置側に偏っている感じですね。2人は他の3人と比べるとセンターに立つ回数が少なかったので、満遍なく上下どちらも行く機会が多かったのかもしれません。

 

メンバーごとでも一覧にしてみました。

 名前  下手端(%) 下手中(%) 中央(%) 上手中(%) 上手端(%)
 横山  28 17 26 17 12
 村上  21 21 9 25 24
丸山 23 18 17 22 18
安田 17 29 21 17 16
大倉 11 14 26 18 30

こう見ると先ほど上下に偏りの出た横山さん、安田さんですが、下手側に満遍なく来ているというよりは、横山さんが極端に下手端が多く、安田さんも極端に下手から2番目が多いといった感じですね。一方で大倉さんは上手の両側ともに下手よりもくる割合が高くなっています。上手端に至っては唯一の30%台ですね。平均すれば20%になるはずなので、かなり偏りが大きいように思います。

先ほど上手と下手にあまりさのなかったマルヒナですが、丸山さんは表にしてみると改めて満遍なく来ているのが分かりますね。村上さんは数値上はそこまで差がないように見えていましたが、上手側に満遍なく偏っていることが分かりました。

 

3. シンメ調査

最後にせっかくなので誰がシンメ(左右対称)の位置に来ることが多いのかを調べて見ました。

 

早速結果はこちら。

 

同率1位 村上&安田、丸山&安田(21回)

3位 横山&村上(18回)

4位 横山&大倉(17回)

同率5位 村上&丸山、村上&大倉、丸山&大倉(15回)

8位 横山&丸山(12回)

同率9位 安田&大倉、横山&安田(9回)

 

1位のペアが両方安田さん絡みになりました。山田は確かに7人の時からシンメのイメージがありますし、ヤスヒナもブリュレのイメージですね。ヤスヒナはエイトで言うとちっちゃい組なので、その辺りの見た目のバランスもあるのかもしれません。

よく見ると1位〜4位までは身長差6cm以内のペアで埋まっています。

(※アップロードした後に読み直して気づきましたが、山田の身長差は10cmなので、この記述は間違っています。)

逆に最下位の安田さんと大倉さんは15cm差、安田さんと横山さんも11cm差なので、身長差が最大になる2組のペアが綺麗に最下位を取った形ですね。

一方で最も身長差がないはずの横山さん&丸山さんの組み合わせは結構少ないですね。

 

面白そうだったので散布図にしてみました。

横軸が身長差(cm)、縦軸がペアの出現頻度(回)を表します。点線は回帰直線です。xの係数は身長差が1cm増えるごとに出現頻度0.3回減ることを予測するものです。

バラつきがかなり大きいので微妙なところですが、一応予想通り負の相関になりました。横山さんと丸山さんのシンメ率がもう少し高ければ、わりと綺麗な負の散布図になりそうですね。

ちなみに回帰分析をしたところF値は0.31になりました。これはxの係数-0.3689が本当は0である(=つまり身長差と出現頻度に相関など存在しない)確率が31%ということです。実際の研究ではこの値が5%を下回らないと信用に値しないとすることが多いです。

 

4. まとめ

さて、ここまで調べたところで、改めて1番頻度の高かった並び方を新ためて見ておきましょうか。

 

丸山、安田、横山、村上、大倉

 

横山さんがセンターで、ヤスヒナがシンメ、大倉さんが上手端。シンメ位置にいる2人の身長差は5cm以内。ここまで見てきた中で出現頻度の特に高かった要素が色々と詰め込まれた並び方って感じですね。エイトのよくある立ち位置をまとめるとこうなるのかもしれません。

なんとなく分析し始めましたが、並び方を決める上で移動の利便性よりも身長や見た目のバランスが思っているより重要そうなのが面白いなと思いました。

 

 

 

 

お気に入り双眼鏡をひたすらおすすめする

18祭の会場が昨日ようやく発表になりました。

日産スタジアムヤンマースタジアム長居。私にとって初の屋外コンサートになります。

初めての野外ライブでの心配事と言えば、もちろん天候。

ただでさえ天気の崩れやすい7月に、雨も風も雪も嵐も連れてくる関ジャニ∞のライブとなれば、雨が降らないはずがないと薄々思っている人も多いでしょう。

 

とりあえず防水双眼鏡だけは絶対に手配しないといけないと思って色々と探していたのですが、手持ちの双眼鏡のスペックと見比べていてあることに気がつきました。

 

これ、防水じゃね?

 

PENTAX AD8×35WP

これが私の持っている双眼鏡の機種名です。明らかにWater Proof。

一応購入履歴を確認して商品ページを見ましたが、やっぱり防水でした。なぜ気づかなかったのだろう。ていうか、気づかなかったら普通に別の防水双眼鏡を買うところでした。よかったです。

 

関ジャニ∞の野外ライブは十祭以来8年ぶり。おそらく私のようなうっかりさんでなければ、防水双眼鏡をお持ちの方は少ないのではないでしょうか。

私は今持っている双眼鏡がすごく気に入っているので、そのお気に入りポイントと双眼鏡のスペックを比較する際に見るべきポイントを解説していきたいと思います。

 

改めて、私の持っている双眼鏡がこちら。

PENTAXのAD8×36WPです。

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https://www.yodobashi.com/product/100000001002602093/www.yodobashi.com

家電の名前って大体よくわからない数字やアルファベットが書いていませんか?

双眼鏡の場合は8×25とか10×36などの整数同士の掛け算が入っていると思います。

8や10の方はご存知の方も多いと思いますが、倍率を表します。倍率が大きいほど、物体は大きく、近くにあるように見えます。

ということは、倍率は高ければ高いほど良いのでは?と思われがちですが、そうではありません。理科の実験で顕微鏡の使い方を習ったのを覚えていますか?

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おそらく資料集や教科書に、こういった解説が載っていたと思います。

低倍率ほど物は小さく、明るく、鮮明に見え、高倍率ほど大きく、暗く見えるのです。

原理としては倍率が高いほど小さい範囲を高倍率で拡大することになるので、視野は狭くなり、視界から入ってくる光の量も少なくなるということですね。

特に私のように推しのダンスが好きな方、全身を見たい方にとっては、倍率は高すぎると扱いにくいと思います。

私のおすすめは8倍です。多くのライブ向けの双眼鏡は6倍~10倍ほどになっていると思います。12倍以上のものも時々見かけますね。一般的にはドーム規模の会場では10倍の双眼鏡がおすすめされることが多いです。

しかし、このイラストを見てください。

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これなら10倍くらいがちょうどいいのではないかと思ってしまいがちですが、大事なのは「ステージの位置はコンサートによって変わる場合もございます」という部分です。

このイラストは、ジャニーズのライブには必ず存在する花道やバックステージ、センターステージ、トロッコなどが想定されていません。このイラストに書いてあるメインステージの場所をそのままバックステージの場所に持っていけば、東京ドームのほとんどすべての座席が黄色、つまり~8倍がおすすめされる距離になることがわかると思います。

 

また、距離以外にも私が8倍をおすすめする理由はあります。

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これはヨドバシドットコムでの双眼鏡の取扱件数です。

8倍の品揃えが圧倒的に豊富です。基本的に市場の原理として、競争が激しければ激しいほど良い製品が開発されます。そのため、最も品数の充実している8倍から選ぶ方が、良い双眼鏡を見つけられる確率が高いということです。個人的には8倍か10倍の2択以外あり得ないと思います。

 

では続いて、8×36の後ろの数字についてです。

これはレンズの口径を示し、この数字が大きいほど、レンズは大きくなります。

レンズが大きいということは、見える範囲が大きくなるということです。ということは視野も広くなりますし、倍率が同じでも明るさが上がることになります。

実際、双眼鏡の「明るさ」というのはレンズの口径の2乗を倍率の2乗で割ることで求められます。

ではこちらも数値が高ければ高いほど良い双眼鏡なのでしょうか?

答えは人によります。レンズが大きくなれば、双眼鏡本体も大きくなり、少し持ちづらくなります。また、大きくなるということは重量がその分増すということです。

個人的には、小さければ小さいほど持ちやすいというものでもないと思います。特に横幅が狭すぎる双眼鏡は腕をキュッと内側に寄せて持たないといけなくなるため、腕に変な負担がかかって私はあまり好きではありません。その辺りは、家電量販店で実際に試してみるのが一番良いと思います。

インターネットで買うにしても、Amazon楽天市場などの総合通販サイトよりは、ヨドバシカメラビックカメラの通販サイトをおすすめします。

なぜなら商品説明の欄に、必ずスペックが書かれています。このスペック、また数値が大量に並んでいるので苦手な人はうっかりすっ飛ばしてしまいそうになるかもしれませんが、読み方が分かれば非常に便利なので、簡単に解説しようと思います。

 

・対物レンズ有効径

・倍率

・明るさ

・最短合焦距離

・ひとみ径

・アイレリーフ

・実視界

・重量

 

この辺りがヨドバシドットコムで標準的に記載されているスペックです。

対物レンズ有効径(レンズの口径)と倍率に関しては、先ほど説明したので省略します。

加えて見ておきたいのが、明るさ、最短合焦距離、実視界、重量です。

重量については、説明の必要はないかと思います。量販店で試してみるのが良いでしょう。

 

というわけで、まずは明るさです。

双眼鏡を選ぶ上では、これが一番大事だと思います。ただ単に明るいだけでしょ?と思われるかもしれませんが、そうではありません。明るいということは、コントラストが強いということです。その分、輪郭線は鮮明になり、例えるなら視力が上がったような状態になります。

実際の写真がこちら。

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まずこれが、私の旧双眼鏡。PENTAXのUP8×25で撮ったものです。明るさは9.6という数値。

この数値は、わりと高い方です。1万円以下の双眼鏡ではほぼ最大になります。

続いてこちら。

f:id:m1i1y2u0:20220414175536j:plain

今現在使っているAD8×36を通して撮った同じ木の写真です。明るさは2倍近い20.6になります。

比べてみると、1枚目は手ブレしてるんじゃない?と思いませんでしたか。

私も最初撮った時はそう思ったのですが、何回撮り直してもこうなります。つまり、1枚目の写真が明るさ9.6の限界です。

分かりやすく言うと、Blu-rayとDVDの画質くらい違います。生の推しをBlu-ray画質で見たい人は、ぜひこの明るさを重視してください。

また、他にも明るさが活躍するポイントがあります。それは暗転時です。

コンサートや舞台では、ほとんどの場合ステージが暗くなる瞬間が存在します。暗転時に捌けていく推しの姿や、暗転中に衣装チェンジをする推しの姿は基本的に映像には残りません。生でしか見れない不意の瞬間を見逃さないためにも、明るさは重要です。

 

続いて最短合焦距離です。

これは私はあまり重視していません。私の双眼鏡は3mなので、ピントの合う最も近い距離が3mということになります。ステージからおおよそ5列目くらいの距離でしょうか。

この距離が短ければ短いほど近くのものにもピントを合わせられるという意味なので、数値が小さければ小さいほどスペックが高いということになります。他の双眼鏡は1m近くのものもあるので、3mという数値はそこまで良いものではありません。

ただ想像して欲しいのが、アリーナの6列目で双眼鏡使います?

舞台の6列目で、スタンドの6列目で、推しが3m先にいる状況、私なら使いません。

なので、あまりにも数値が大きすぎると問題かと思いますが、アイドルオタクにとってはあまり重要なスペックではないと思います。

 

最後が実視界です。

これは視界の広さを示す値になります。つまりどれだけ広い範囲が見えるかということです。

これはアイドルオタクにとっては結構重要です。アイドルは大抵、動き回ります。

ダンスもしますし、ファンサもしますし、トロッコに乗ったり、花道を歩いたり走ったり。

それが1人ならまだ追いやすいですが、似た色の衣装を着た人が5人いるとすると、1人を追い続けることはそれほど簡単なことではありません。視界が広いほど推しを捉えやすいです。

特に登場する瞬間を捉えるのに、この実視界は重要です。例えば8BEATのアンコールはポップアップでの登場でした。十五祭のオープニングもポップアップでしたね。ポップアップで登場する瞬間の推し、見たくないですか?ただ、立ち位置を正確にロックオンするのって結構難しいです。

その点、視界が広ければそこまで綿密に位置を合わせなくても、推しの登場の見逃しを避けることができるというわけです。

また、箱推しや掛け持ちにとっても実視界の広さは役立ちます。私は8BEATのYESで、いつも丸山さんを見るかヒナちゃんを見るか横山さんを見るか迷っていました。視界が広ければ、2人くらいなら同時に視野に入れることができます。

 

ここまでは数値で測れるものに関する話でした。

他にも見ておきたいポイントが3つあります。

 

①防振か、そうでないか

防振双眼鏡を買うか迷われている方も多いのではないでしょうか。

私も実際、その1人でした。しかし今はお金があったとしても防振双眼鏡を買う予定はありません。理由はいくつかあります。

・コストパフォーマンス

一般的な双眼鏡は、1万円出せばかなり良いものが買えます。しかし、防振の場合は最低10万円ほどです。先ほど、双眼鏡の使い心地には明るさや実視界が重要だと言いました。これらのスペックは基本的に値段に比例します。

ということは、約1万5千円という一般の双眼鏡の中ではかなりお高めのものと同じくらいのスペックでかつ防振機能がついているものを選ぶとなれば、10万円じゃ全然足りません。というか、そこまで高額で高スペックな双眼鏡って、あんまり売ってません。

私が8倍を選ぶ理由の一つに品揃えの多さを挙げましたが、防震についても同様です。防振機能がついた双眼鏡はあまり多くないため、製品開発の競争も加速せず、性能に対する価格が割高になることが多いのです。

・酔う

色々言いましたけど、シンプルにこれが一番大きいです。

防振双眼鏡は揺れを防止します。つまり、普通に双眼鏡を横に動かした時も、その動きに対して補正がかかります。頭の動きと見ている景色が微妙にずれるというわけです。

私は3時間のコンサートなら2時間半はレンズを覗いているタイプです。しかも車や船だけでなく、新幹線や電車でも酔ってしまう極度の車酔い体質です。友人に防振双眼鏡を少し見せてもらったことがありますが、数分で気持ち悪くなりました。

 

というわけで、防振も一概に良いとは言えません。

逆に、車酔いをほとんどしない人、短時間だけ特定のシーンをロックオンしたい人(例えば丸山さんのベースのスラップのところだけは手元を見たい、など)の場合は、防振がおすすめできると思います。どちらにしても、防振はレンタルも充実していますし、購入の前にレンタルなどで自分の三半規管との相性は確かめた方が良いかもしれません。

 

②レンズコーティング

明るさは倍率とレンズの口径で求めることができると言いました。では、同じ倍率・同じ口径なら高くても安くても、物体の鮮明度は変わらないのでしょうか?

企業の開発努力はそんなところで終わるはずがありません。そこで関わってくるのがレンズのコーティングです。

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左が旧双眼鏡、右が今使っているものです。

左の方がレンズがやや明るく、輪っかのような蛍光灯の形がはっきり見えるのがわかるでしょうか?

つまり、光が多く反射しているということです。反射した分の光は、もちろんその分だけ内部に取り込まれません。反射が多ければ、目に届く光の量が減るということです。

対物レンズ側から覗いた時に、反射が少ないレンズほど、目に届く光の量が多く、明るく見える、つまり鮮明に見えるというわけです。反射を減らす役割をするのがレンズコーティングです。

とはいえ、なかなか私を含め素人には見分けるのが難しいものです。しかし、コーティングにこだわっている双眼鏡であれば、大抵の場合、商品紹介のところにコーティングに関する説明が載っているはずです。量販店に行って、実際に対物レンズ側を覗き比べるのも良いかもしれません。あまりにも反射が多ければ、その双眼鏡はやめておいた方が良いかもしれません。

 

③素材・ストラップ

双眼鏡の素材って気にしたことありますか?私はなかったです。

ストラップも大体外された状態で販売されているので、確認しないと思います。

ですが、2時間以上双眼鏡を持ち続ける場合、この2つは結構重要になってきます。

私の今持っている双眼鏡はかなり重いのですが、素材が柔らかく、ラバーのような質感です。これの何が良いかと言うと、持っていて滑りません。両手で持っている時は一般的なプラスチック系のサラサラした素材でも気にならないのですが、片手で持っている時にかなりこれが効いてきます。

以前の双眼鏡は300gでしたが、左手だけで支えることはかなり難しかったです。今の双眼鏡は640gなので、左手どころか右手でも厳しいのではないかと思っていましたが、実際に使ってみると案外簡単に支えられました。それはグリップ感のおかげだと思います。

ペンライトを振ったり、手が疲れたから少し休めたり、思っているより双眼鏡を片手で持たなければいけない瞬間は多いです。片手で重いものを持つなら、もちろん持ちやすい方が、滑りにくい方が良いですよね。滑りにくければ手ブレも軽減できます。実際に購入する時は、片手で持った時の使い心地も確認することをおすすめします。

あとはストラップの幅が狭いと、かなり首や肩に負担がきます。ただでさえ腕を酷使するのがコンサートですから、肩周りは労った方が良いです。もし付属のストラップが細ければ、幅広のものを購入しても良いかもしれません。

書きながら思い出しましたが、ピントを合わせる調節ネジの位置も注意です。特に防振双眼鏡は手で持つ位置からかなり離れたところに調節ネジがついている場合があります。特に会場が広ければ広いほど推しとの距離は場面によって大きく変わってくるので、持ちながら簡単にピントを調節できるかというのも確認した方が良いでしょう。

 

えらく長々と語ってしまいましたが、最後に私の双眼鏡の推しポイントを聞いてください。

・信頼のPENTAX

PENTAXというと聞き馴染みのない人もいるかもしれませんが、リコーは聞いたことがあるのではないでしょうか。要は超大手です。家電で言うパナソニックとか日立みたいなもんです。なんやかんやブランドってそのブランドイメージを落とさないために製品開発に必死なので、中途半端な製品を発売することは少ないです。

・抜群の明るさ

8倍双眼鏡だと明るさ10あれば結構スペック高い方です。なので20.6はかなりズバ抜けています。私はこの双眼鏡を8BEATから使い始めましたが、映像記憶の残り方がすごいです。体感的にはBlu-rayでコンサート映像を見ているのとほぼ同じ解像度なので、めちゃくちゃ見たものを思い出せるようになりました。

・グリップ感・ストラップ

これはさっきも言った通りです。この双眼鏡は他の8倍の双眼鏡に比べるとかなり重量がありますが、それをしっかりと補ってくれています。立つ・座る以外の運動をほとんどしない私ですが、3時間のコンサートでも最後までずっと見ていることができました。

・防水

時々野外ライブをやる雨男超えて嵐男・関ジャニ∞さんですから、これだけお気に入りの双眼鏡が防水なのはありがたいです。普通に遠征している時でも、リュックやカバンの中が濡れるレベルの大雨や大雪に見舞われることがありますからね…。

 

いかがだったでしょうか?

双眼鏡選びのお手伝いになれば幸いです。ちなみに今気づきましたが、ずっとおすすめしてたAD8×36WP、ヨドバシだと販売終了になってますね…。Amazonも今は取扱がないようです。私の以前使っていたペンタックスのタンクローシリーズUP8×25も防水ver.がありますし、コスパや重量的にもわりとおすすめです。

双眼鏡でより良いオタクライフを。

 

 

 

 

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ2022 あらすじ&感想・考察

 

 

ヘドウィグの千秋楽が終わって、1日が経ちました。

終わる前から確実にロスになるだろうなと予想はしていたのですが、予想通りでした。

午前中はそこまで実感がなかったのですが、今日の丸の大切な日を読んで終わったことを改めて実感し、ちょっとだけ寂しくなっています。

 

この記憶が薄れない内に、ここに見たもの・感じたものを書き残しておこうと思います。

感想や考察については、あくまで個人のものなのでご了承ください。あらすじについても、記憶違いがあるかもしれません。それを前提としてお読みください。

 

目次

1.あらすじ

2.萌えポイント

3.考察

4.感想

 

あらすじ

ヘドウィグ(ハンセル)、トミー …丸山隆平

イツハク、ルーサー、ヘドウィグ・シュビット(ヘドウィグの母) …さとうほなみ

""や「」内はセリフから抜き出し。

 

ステージ中央に"HEDWIG'S BRAIN INSIDE"と書かれたピンクの壁が立っている。

その後ろにはモニターがあり、壁をイメージさせるイラストの上に"Hedwig and the Angry Inch"と書かれている。両脇の背景は落書きされた壁。

下手側にはキーボード、ドラム、ベースが置かれていて、上手側にはギターが2本ある。

上手にはギター以外にピンクのドレッサーや、ウィッグの乗ったマネキンの頭もある。

 

ステージ上にバンドメンバーとイツハクが現れる。

「ヘドウィグマインドシアターへようこそ!」

観客はアングリーインチのライブを見に来たことになっている。

「携帯電話と監視用の端末の電源は切っておくように。かなりうるさい音を出すライブだが、もちろん静かなところもある。もし良いところで変な音が鳴ったりしたら、みなさんご存知のあのビッチが、帰るーとか言い出すから。分かったら拍手!」

"Whether you like or not, Hedwig!!"

という紹介と共に、曲が流れ始める。

 

♪. TEAR ME DOWN

曲が流れ始めるが、ヘドウィグが出てくる気配はない。少し焦った様子のイツハクは、壁の後ろに回り、壁を前に向かって倒す。

真ん中にヘドウィグが後ろを向いてしゃがみこんでいる。イツハクに何やら説得された後、ヘドウィグは立ち上がり、パフォーマンスを始める。

natalie.mu

www.fujitv-view.jp

セリフパート

イツハク:

1961年8月、ベルリンの真ん中に壁が建てられた。

世界は冷戦で分断され、ベルリンの壁はその象徴として忌み嫌われた。誹謗中傷、罵倒、悪態、落書き、唾吐き。

壁は永遠に無くならないと思われたが、取り壊され、人々は自分が誰であるかを見失った。

Ladies and gentlemen!! ヘドウィグは壁だ!

分断の前に燦然と立ちはだかる。

東と西、奴隷と自由、男と女、上と下。

引き裂いても良いが、これだけは言っておこう。

ヘドウィグは壁だ!

 

アウトロで気持ち良さそうにフェイクを歌うイツハクに苛立った様子のヘドウィグは、着ていたマントをイツハクの頭に被せて歌をやめさせ、曲が終わる。

 

観客に向かってヘドウィグからの挨拶。

「どうも、ヘドウィグでございます。バンド、アングリーインチへ拍手を」

会場から拍手が響く。

「あと私の旦那であり専属なんでも屋、イツハク」

イツハクに対しても拍手が起こると、ヘドウィグは会場に対して拍手をやめさせる。

「いいのよ、拍手はいらない。またアレが調子に乗るから」

イツハクを馬鹿にしたような様子のヘドウィグだが、挨拶を続ける。

「ようこそ、ヘドウィグマインドシアターへ。分かってるわよ、普段はZepp TOKYOって言うんでしょ?でも、今日はあたしの東京。あたしね、どうしてももう一度東京でライブをやりたかったの。外国人も大好きな街よね。人種のるつぼ。男女でも、女男でも、LでもBでもGでもTでもQでも!」

ヘドウィグはライブをするために東京の影の支配者「ロバート・ステイン様(仮名)」に対し、床に頭を擦り付けてお願いしたそうだ。

ヘドウィグの再現によると、ボブは「口に物を入れて喋るな」と言ってきたそうだ。ヘドウィグは片膝をついてしゃがみこみ、マイクを使ってフェラを 再現する。「感謝するわ、ボブ」

満員の客席を見て、去年の夏は半分しか入れられなかったと思い出すヘドウィグ。しかしヘドウィグは客席に対し、「分かってるわよ、あなたたちのほとんどがあたしを知ったのは最近だってこと」と投げかける。

モニターにゴシップ記事が表示される。

 

"TOMMY TO TOTS 'SORRY'(トミーから良い子たちへ、ごめんね)"という見出しの記事に、トミーの写真が大きく載っている。トミーは盲学校のスクールバスに追突事故を起こしたのだ。その記事の右下には、トミーと同乗していた女の写真、ヘドウィグの写真が載せられていて、"Who is the mystery woman?(謎の女は誰?)と書かれている。

 

ヘドウィグは、「ヘドウィグって誰!?それはあたしがずっと考え続けている問題よ」と話す。

「ねぇ、ヘドウィグって誰?今日話したいのはそのこと。事故のことも、スキャンダルのことも、ましてやトミー・ノーシスとの関係性について話すつもりはない。共産主義東ドイツ出身のオネエの出来損ないがいかにして全世界に無視されるカバーアーティストになったかって話よ」

ヘドウィグによると、隣のライブ会場では「偶然」トミーのつぐないツアーが行われているそうだ。ヘドウィグが今頃トミーは自分のことを話しているだろうと得意げにライブ会場の扉を開けると、トミーの声が聞こえてくる。自分の名前を出さず、ファンに甘い言葉をかけ、TEAR ME DOWNを歌い始めるトミーに、ヘドウィグは腹をたてて扉を閉める。

「あのアルバムは全曲あたしが書いたのよ!」と苛立っている様子のヘドウィグは、追突事故の晩に起こったことを話し始める。

その夜、男としての身分証明書を忘れたヘドウィグは、ホテルから出禁を食らった直後だった。ちょうどホテルの前に停車したリムジンにヘドウィグが乗り込むと、そこにはトミーが座っていた。トミーが自分で書いた2枚目のアルバムの売り上げが散々だったという話になり、トミーは「孤独だ」とヘドウィグに言ってきたそうだ。運転手を車から下ろしたヘドウィグとトミーは、クスリをキメながらマンハッタンをドライブした。追突事故の時には、運転するトミーに対しヘドウィグがフェラをしていたところだったそうだ。

 

怒りが落ち着いたヘドウィグは、話を変えて自分が幼い頃の話を始める。

幼い頃に描いた絵でいっぱいの日記が出てきたそうだ。モニターに"HANSEL'S DIARY"と描かれた古い絵日記が映される。

アメリカのG.I.だった父さんは、ハンセルが碌に言葉も覚えない内に出て行った。東ドイツ人の母さんがハンセルに触れたのは、ほとんどが事故だったそうだ。

ハンセルがテレビでジーザス・クライスト・スーパースターを見ながら、「イエスの言うことってめちゃくちゃだね」と母親に言うと、「2度とその名前を口にするんじゃないよ」とっは親に引っ叩かれた。「ヒットラーも同じさ。良いかい坊や、絶対的な権力は堕落するものなのよ」と語った母親の言う通り、ベルリンには壁が立った。

母とハンセルはたまたま東側にいて、母親は手足のない子供たちに彫刻を教える仕事に就いていた。

幼いハンセルは、米軍ラジオで「アメリカの一流」を聴いた。住んでいた部屋が狭かったため、オーブンの上段に頭を突っ込んで聴いていたと言う。ハンセルは、ラジオから流れてくる曲に対してハモリを歌っていたが、ある日我慢できなくなってサビを歌った。すると母親からトマトを投げつけられた。しかしヘドウィグは、薄暗いオーブンの中で優しくハモリを歌うだけで幸せだったと回想する。

夜が更けてくると、母親は風呂場から「終わったわよ」と叫び、ハンセルが「じゃあ僕も終わり」と返し、2人は小さな一つのベッドに横たわる。父さんが出て行って以来、2人で同じベッドに寝ていた。

ある日、母親はハンセルにある言い伝えを聞かせた。

 

♪. THE ORIGIN OF LOVE

後ろには歌の内容を表すアニメが流れている。

natalie.mu

 

拍手を貰ったヘドウィグは「このアニメ可愛くない?よかったら映像チームに拍手を」とモニターを示す。

 

話が終わると、母親はいびきをかいて寝てしまった。

ハンセルは「カタワレ」について考えるために、オーブンの中に頭を突っ込んだ。

「カタワレを見つけなきゃいけないってことはわかった。でも、男なのか女なのかも分からない。もしかして父さん?それとも、母さん?急にベッドに戻るのが怖くなった。どんな見た目なのかしら?あたしと瓜二つ?それとも全然?あたしにないものを持ってる?愛とか、運とか、美貌とか?欠けることのない完全体、どれほどのパワーかしら?そりゃ神々も恐れをなすわ!それにセックスは?元の体に戻ろうとする行為なの?父さんがやろうとしたこと。もしソレ中アウトバーンで運転してたら?現実的な問題よ?本当に無理矢理引き剥がされたのかしら?良いところを全部持ち逃げした?もしかしてあたしが?あたしはカタワレを見て恥ずかしいと思うのかしら」

 

イツハクがヘドウィグのウィッグを被ろうとしている。ヘドウィグはドイツ語でイツハクを怒鳴りつける。イツハクはヘドウィグと出会った頃、脚モデルを目指していたそうだ。

「あたしの髪、良い香りがするのよ?例えるならアフガニスタンの子供75人分の手みたいな香りよ、これはさすがに洒落にならないか」とご機嫌なヘドウィグに対し、過去を弄られたイツハクが会場の扉を開ける。

相変わらず自分の名前を出さないトミーに対し、「あたしがいなければ最近絶不調だった人気を救ってくれたつぐないのお話も作れなかったくせに」とヘドウィグは苛立ちをぶつける。

 

80年代後半、20代後半、ハンセルは大学を追い出された。講義の中で、ドイツ哲学がロックンロールにがっつり及ぼした影響について、講義のタイトル「如何ともしがたい状況でも頑張れば何とかなるかもしれニーチェ」を発表しようとしたそうだ。

学術的キャリアも閉ざされ、初キスもまだで、母さんと一緒に寝ていたハンセルは、壁の中でカタワレを見つけられていなかった。どうやって壁を越えればいいのかとハンセルは考えながら、壁の近くの教会の爆撃跡で全裸になって日光浴をしていた。壁の西側にできた新しいマクドナルドの芳しい香りを思い出しながら、ヘドウィグは自分がもらえるのは「なんでかいっつもアンハッピーセット」と毒づく。

仰向けに寝ていたハンセルの後ろに、いつのまにかアメリカ兵のルーサーが立っていた。

「お嬢さん、邪魔するつもりはなかったんだ。俺の名前はルーサー・ロビンソン」とハンセルに話しかけてきたルーサーに、ハンセルは「ハンセルです」と言いながら向き直る。「あたしのタートルネックを被ったビショップ」を見つめたルーサーは、「お菓子は好きかい?」と続ける。「クマのグミが好き」と答えたハンセルの両手いっぱいに、ルーサーはアメリカっぽい包装のグミベアを渡した。

ルーサーの目は「幼いあたしには分からない欲望に満ちていた」。ハンセルは自分の知っているクマのグミよりも断然甘くて大きいグミベアを奥歯で噛み締めながら、その食べ慣れない味が何であるか気づく。「権力の味。悪くない…」と頬に手を当てるハンセル。「驚いたなぁ、信じられないよ。君が女の子じゃないなんて」と続けるルーサーは、ハンセルの顔を「そこに自分の運命が書いてあるかのようにじっと見つめ」ハンセルの頭をつかみ、腰を振る。

「その時のルーサーの顔は袋いっぱいに閉じ込められたクマの顔と重なった。色んな種類の顔、顔、顔。色がついてりゃそりゃアーリア人じゃない。アウシュビッツに連れて行かれた連中のように袋の中をムンムンと曇らせる。ただのシャワーだよ。ガス室なんかじゃない」

ハンセルはそこから逃げ出した。明くる日、ハンセルがレインボーカラーのグミベアを辿って爆撃跡に戻ると、そこにはネッコ・ウエハースが3つ、パチパチキャンディ、ミルキーウェイ、そして巨大なシュガー・ダディが転がっていた。

 

♪. SUGAR DADDY

画像:

https://www.fujitv-view.jp/gallery/post-485747/?imgid=1

thetv.jp

セリフパート

ルーサー: 

オーベイビー、きっと君に似合うと思ったんだ。

ベルベットのドレスに、ハイヒール、それにアーミンの毛皮のストール。

ヘドウィグ:

あぁ愛しいルーサー、神に誓うわ。あたし女の服なんて着たことない。

でも一度だけ着たことがあるの、母さんのキャミソール!

 

曲が終わって、ヘドウィグのMCが挟まる。

ヘドウィグが話していると、イツハクがソファで演歌を歌い始める。ヘドウィグはイツハクに「歌ってみなさい」とステージの真ん中を譲る。しかし、イントロが終わり歌に入りかけたところで、ヘドウィグはシンバルを叩き散らして曲を中断させる。「なに?本気で歌わせてもらえると思ったの?」とバカにしてくるヘドウィグに、イツハクは腹をたててマイクスタンドに当たりながらステージから出ていく。それに対し、ヘドウィグは「あれ、入国管理官じゃない?」と、イツハクをからかう。イツハクはヘドウィグに仕返しするように、会場の扉を開けた。

 

ライブ中のトミーの声が聞こえてくる。

「いつでもそばにいてくれたのは、俺自身だった。あの事故は救いを求める俺自身の叫びだったんだ」と語るトミーに、ヘドウィグは「だったらあたしはどうなるのよ!あたしがいなけりゃ障害児のスクールバスに追突することもなかったくせに!」と腹を立てる。

「忌々しい発言禁止令ね」とヘドウィグはぼやく。事故の後、「黙っててください」とトミーの会社から大金を積まれたそうだ。

「あたしがそんな薄汚い金受け取ると思ったのかしら?」とヘドウィグは嘲笑う。

「あたし、あたしブランドの香水も売ってるのよ?その名もATROCITY by HEDWIG、オゲレツって名前の香水よ。もちろん、男女兼用よ。男女でも、女男でも、LでもBでもGでもTでもQでも!あとIとかAもよ!」

 

少し冷静になったヘドウィグは、再び昔の話を続ける。

ハンセルは「世界一幸せな男の子になった。だって愛する人が夢見るだけだった国に連れて行ってくれるんだもの」

ハンセルはルーサーを家に招いた。ルーサーは結婚指輪とアメリカの市民権の申請書、そしてウィッグを持って行った。ウィッグを被ってルーサーと結婚して渡米すると話すハンセルに対して、「母親の顔はピクリとも動かなかった。一生分くらい時が止まったように感じた後、母さんはウィッグを直しながら、『ハンセル、あたしのパスポートとカメラを持っておいで。なに、簡単な切り張りだけよ』」と話す。ルーサーが「お母さん、そんな簡単な話ではないですよ。愛しているよベイビー、でも結婚はここでしなければいけない。それはつまり、上から下まで身体検査されるってことだ」と返すと、母親は「あぁルーサー、あたしもそう思ってたのよ、あたしぴったりの医者を知っているわ」とハンセルを押さえつける。

 

♪. ANGRY INCH

セリフパート

ヘドウィグ:

手短に話すわ。手術が終わって目が覚めると、あたしの両足の間には穴が空いていて、そこから血が流れていた。

女になって最初の日に、もう月の物が来たみたい。

2日後、傷が治ると穴が塞がって、1インチの隆起した肉片が残った。ペニスがあった場所、ヴァギナが出来なかった場所。

1インチの肉片は、目なしの横向きの薄ら笑いのようだった。

 

性転換手術が失敗し、1インチの隆起した肉片が股間に残ったハンセルは、母親の名前「ヘドウィグ・シュビット」を借り、「ヘドウィグ・ロビンソン」としてアメリカに渡った。

しかし1989年11月9日、「バツイチで無一文の女」になったヘドウィグは、違法ケーブルテレビでベルリンの壁が取り壊されるのを1人で見た。

「泣いたわ、泣かないと笑っちゃうから」とヘドウィグは続ける。

ヘドウィグは母親かルーサーに電話しようとしたが、母親が太陽燦々のユーゴスラビアで暮らしていること、ルーサーが教会で出会った荷物持ちの男の子と家を出て1ヶ月しか経っていないことを思い出してムッときてやめた。

「鏡を見て、自分の頭にしがみついている恐怖が何か分かったの。あたしはまだ一つも開けていない結婚記念日のプレゼントボックスめがけてウィッグを投げつけた。横たわるソイツは傷ついたフリをしていた」と、ヘドウィグは自分のウィッグを見ながら話し、ウィッグを付け替えた。

 

♪. WIG IN A BOX

natalie.mu

歌に合わせてウィッグを変え、途中ステージで衣装を生着替え。

natalie.mu

 

歌の盛り上がりにご満悦なヘドウィグは、「みなさん毛皮はお好き?」と話しながらメイクを直す。

「会場に入る前にビッチに呼び止められて、あなたに着られるために殺されただなんて、その可哀想な生き物はなんて言うのかしら?って言われたから、言ってやったわ、叔母のトルーディーよって、そしたらそのビッチ、背中に赤ペンキぶちまけてきやがったの」と、観客にヘドウィグは背中を見せる。

そこには真っ赤なペンキの跡が残っている。

そして「ところで私の旦那、イツハクのことは話したかしら?」と、イツハクとの出会いについて語り始める。

ヘドウィグは前回のクロアチアツアーで、イツハクに出会った。

当時ドラァグクイーンだったイツハクは、ヘドウィグの前座を務めた。「クリスタル・ナハト」という芸名で、「バルカン半島最後のユダヤ娘」と銘打って、「愛のイェントル」を口バクしてパフォーマンスしていたそうだ。ヘドウィグはイツハクの後にステージを行う予定だったが、イツハクに対する歓声でヘドウィグの紹介がかき消され、機嫌を損ねてステージ拒否した。

帰ろうとするヘドウィグに、イツハクは「自分も連れて行ってくれ」と追い縋った。「あの時の母さんかってくらい、あたしの顔はピクリともしなかった」と語るヘドウィグは、イツハクに対して「何かを得るためには、何かを手放さなければいけない。その頭に2度とウィッグが乗らないことを約束するなら、結婚してあげても良いわよ」と言ったそうだ。

過去のことを言われて腹を立てたイツハクは、再び会場のドアを開ける。

トミーの声が聞こえてくる。

「トレーラー住まいだった少年が、ある日デパートでおんぼろのギターを買って、トミー・ノーシスと名乗った」と語るトミーに、ヘドウィグは「ねえトミー!聞こえる!?あんたはこのミルクの出ないおっぱいから、ショービズというミルクを吸ったのよ!」とキレ、扉を閉めて戻ってくる。

静まる客席を見たヘドウィグは「わかったわよ、トミーの話をすればいいんでしょ」と、着ていた毛皮のコートをイツハクに「この可哀想な動物の死骸脱がせてくれる⁉︎」と怒鳴りながら脱がせて、ステージ真ん中の椅子に腰掛ける。

 

離婚してアメリカ軍基地での仕事を失ったヘドウィグは、色々な仕事をして食い繋いでいた。ほとんどが「フェラ」だったそうだ。

「喉奥にものを突っ込んでもオェーってならなくなった」。

しかしヘドウィグは、スペック将軍のベビーシッターもしていた。近くの駐屯基地の司令官であった、スペック将軍の子供の赤ん坊の面倒を見ていたそうだ。

そこで出会ったのが、スペック将軍の息子、トミー・スペックだ。トミーは当時16歳のメガネくんで、肌はボコボコ、ジーザスフリークのゲームオタクだったそうだ。「車にイエスのシンボルマークの魚を描いちゃうようなお馬鹿さん」だったが、組織化された宗教に馴染めないトミーに、ヘドウィグは心を惹かれた。

ある日ヘドウィグは、トミーがお風呂のドアを全開にして湯船に浸かりながら、「自分のビショップをしごいているところ」を見てしまった。「明らかに誘ってたわ」と語るヘドウィグは、手を伸ばしてイかせてあげたそうだ。その後、ヘドウィグはライブのパンフレットと「今夜、ドクターエスプレッソのシアトルスタイル浣腸バーでライブがあるの」というメモを風呂場に残していった。

 

その頃ヘドウィグは、「初めて愛したもの」、音楽に回帰していた。

韓国人の軍曹の奥様をバンドメンバーに迎えて、「アングリーインチ」というバンド名で有名曲をコピーしたりして、披露していた。

そこに、トミーはやってきた。ヘドウィグは、「今から歌うのは、あたしが初めて作った曲。男の人が歌うための曲なの。でも人生ってそういうものなのかもしれない」と紹介し、曲を披露する。

 

♪. WICKED LITTLE TOWN

 

ライブ後、トミーは新品のギターを持ってヘドウィグを自分の部屋に招き、さまざまな世界の曲を聴かせた。ギターは、父親に「いつも独裁者みたいで悪かった」と買ってもらったそうだ。

どこから来たのかを聞いてきたトミーに、ヘドウィグは自分の生い立ちを話す。「それで君は、神の子イエス・キリストを自分の主、救世主として受け入れたのかい?」と聞いてくるトミーに、ヘドウィグは「いいえ、でも彼の作品は好きよ」と返す。

トミーは「イエスは僕らを酷い父親から救ってくれた。だって自分からアダムを作って、アダムからイブを作って、それで知恵の木の実を食べるなって言いつけるなんて、超マイクロマネジメントだ。アダムも同じだ。でもイブは違う。イブは純粋に知りたかったんだ。だからアダムにも食べさせた。僕に知恵の木の実をくれる?」と、ヘドウィグに話す。ヘドウィグはトミーの空っぽシリンダーのような深いブルーのの目を見て、自分と同じであると感じた。

ヘドウィグはトミーにロックの歴史や、歌い方を教え、「6ヶ月の英才教育」を施した。その一つが「あたしの専売特許、オーブン唱法」だ。そしてギリシャ語で「知恵」という意味を持つ「ノーシス」という名前をトミーに与えた。トミー・ノーシスがコーラスを担当するようになると、若い女の子が見にくるようになり、ウィチタのモンスターバンドより稼ぐようになり、シズラーからお呼びがかかった。

ヘドウィグとトミーは2人で暮らしていたが、ある日の午後、ヘドウィグが日課であるバーボンを嗜んでいるときに、泣きっ面のトミーが入ってきた。「パパが、ママが、2人して…」と泣きつくトミーを、ヘドウィグは抱きしめた。

トミーは「いつものように」ヘドウィグの背後に回って、自分の胸をヘドウィグの背中に押し当てる。そこでヘドウィグは、自分たちが何ヶ月も一緒にいるのに、キスもしていないことに気づく。トミーはヘドウィグの「前の方」に対して一切関心を示さなかったそうだ。

「曲の続きを考えましょう、眉毛整えてあげるから」とトミーを座らせたヘドウィグは、トミーの眉を整える。なかなか曲が上手く書き進まない中、隣のトレーラーハウスから"ALWAYS LOVE YOU"が流れてくる。この曲は3日間も流れっぱなしだったそうだ。

「愛は永遠かな?」と問いかけてくるトミーに、ヘドウィグは「この曲は永遠よ」と冗談で返す。

再び曲作りに戻るトミーにヘドウィグは、「でもマジに言うとね、トム。愛は不滅だと思うわ」と続ける。「どうして?」と返すトミーに、「新しいものを生み出すからよ」とヘドウィグは語る。

「子供ってこと?」「それもあるわ」「下心ってこと?」と笑いながらヘドウィグのお尻を掴んだトミーだが、ヘドウィグは笑わなかった。ヘドウィグはトミーのおでこに、銀色の十字架を描いた。「次のコード、Dはどうかしら?」とヘドウィグから提案され、トミーは曲作りを続ける。

"ALWAYS LOVE YOU"が再び流れる。トミーはトレーラーハウスのカーテンを全て閉め、ヘドウィグに対し手を差し伸べた。ヘドウィグはトミーの手を取ると、「古からの言い伝えを実感した」

ヘドウィグの目には、「泥のような化粧品の涙が溢れた」。

イブがアダムの中に戻れば楽園に戻れると話すトミーに、「解釈はお任せするわ。でも、やってる時はキスしててね」とヘドウィグは自分の股間を触らせる。

1インチの肉塊に触れたトミーは、手を引っ込め、「何、これ」と固まってしまう。ヘドウィグは「あたしにはこれしかないの」と返すが、トミーは狼狽えながら「母さんが、探してる」とヘドウィグから離れようとする。「何ビビってんのよ!」とキレるヘドウィグに、「愛してるよ」と返すトミーだが、「だったらあたしを正面から愛してよ」とヘドウィグに追い縋られ、出て行ってしまう。

 

曲のイントロが流れるが、ヘドウィグは泣き崩れてしまい、歌うことができない。

駆け寄るイツハクにマイクを持たせたヘドウィグは、ステージから降りてしまう。

 

♪. LONG GRIFT

イツハクがヘドウィグの代わりに歌う。

ステージの隅に戻ってきたヘドウィグは、ライトの当たらない中でハモリを口ずさむ。

 

曲が終わる。ヘドウィグは、「ここ、いいわね。優しくハモリを歌ったオーブンの中みたい」とステージの端から戻ってくる。

ヘドウィグはイツハクの歌を褒める。「これならメインボーカル2人でいけるかも。ドイツ人とユダヤ人、対照的じゃない?きっとウケるわよ。神々も恐れをなすわ」と冗談めかすヘドウィグに対し、イツハクは笑ってステージを出ていく。

 

ステージに残されたヘドウィグは、再び歌い始める。

 

♪. HEDWIG'S LAMENT

♪. EXCUISITE CORPSE

曲の途中でヘドウィグは発狂したようにウィッグをむしりとり、ドレスとヒールを剥ぎ取り、倒れ込む。

 

アウトロが終わると共に、歓声が響く。

ここがヘドウィグのライブ会場ではないことがわかる。銀色の十字架がおでこに描かれた男はトミーで、ベースを抱えてマイクの前に立つ。

「今から歌う曲は、昔ある人のために書いた曲だ。彼女が今どこにいるかは分からない。でも、みんなが静かにしていてくれたら、きっと彼女にも聞こえると思う」とトミーは曲紹介し、歌い始める。

 

♪. WIKED LITTLE TOWN

 

曲が終わり、歓声が止み、ベースを下ろす。

全てを脱ぎ去った姿で立つヘドウィグの元に、イツハクがウィッグを持って寄ってくる。

ヘドウィグにウィッグを被せようとするイツハクの手を、ヘドウィグは止める。

そして自分でウィッグを手に持ったヘドウィグは、イツハクにウィッグを被せ、背中を押して送り出す。

ヘドウィグが右の拳を上げると、曲が始まる。

 

♪. MIDNIGHT RADIO

 

歌い終わり、ヘドウィグは会場を出ていく。

ドラァグクイーンの姿に戻ったイツハクも会場を出る。

会場の扉が閉まる。

 

暗転

 

萌えポイント

ようやくあらすじを書き終わりました。いつも思うんですけど、あらすじが全然粗くない…。

思い出したものを全て書き残していたら、すごい分量になってしまうんですよね。

1時間50分と、一般的な舞台に比べると短い公演時間でしたが、それだけ中身が詰まっていたので、当然それだけ萌えたポイントもあります。

なんせ歌やダンスが多いので、アイドルオタクとしても見どころが多いんですよね。

とりあえず、そっちもひたすら書き残そうと思います。

 

・TEAR ME DOWN

オープニング曲なので、なんせ楽しい。優雅にマントを振り回す姿が美しい。

振付師はついておらず、フリーでパフォーマンスしているらしいので、日によって微妙に違うのが見どころです。

私がこの曲でキュンときた振り付けは4つくらいあります。

・「上と下」

ここで左手で口元を隠し、右手で股間を隠してたのが良かったです。

・雑に十字を切る

神様をはっ倒しそうなオーラがありました。

・三つ指をつく

三つ指をつくって、仕草としてはお淑やかとか、良妻賢母とか、そういうものを思い起こさせるはずなのに、少なくともTEAR ME DOWNのヘドウィグにそんな弱さは微塵も感じさせない。そこが良い。

・中指を立ててからの手招き

中指を立てる推し、良いよね。しかも手招きがちゃんと手の甲を床に向けて指を動かすアメリカンジェスチャーだったのも良かったです。

そして中身が丸山さんなので、ヘドウィグの目線ファンサがえぐい。どこの席にいても、目があった気分になって帰れる。特に"Enemies and adversaries"のところで、目線を振ったり指さしたりするところが好きでした。「ヘドウィグ様…」ってなります。

 

・ゴシップ記事の写真

パンフレットの最後のページにも乗っていますが、ここのトミーの写真の丸山さんがめちゃくちゃ好きです。目の下にアイメイクをしているところも良いし、ファンへの呼びかけ方が"TOTS"(舞台では「良い子たち」)なのも良い。

あと右下に載ってるヘドウィグの写真の顔の骨の感じが、完全に日本人離れしていてすごい。

この記事を売って欲しい。

 

・THE ORGIN OF LOVE

この曲のヘドウィグ様の神秘性は、思わず手を合わせたくなります。

低音の響きも素敵ですし、何より雷神トールの"I'm gonna kill them all with my hanmer like I killed giants"というセリフパートの歌い方と、ゴッドの"No, you better let me use lightening like seissors, like I cut the leggs of whale and dinosaurs into lizards"のセリフパートの歌い方の違いがめちゃくちゃ良かったです。特にゴッドの方は、地を這うような低音が恐ろしさを感じさせて、英語が聞き取れなくても恐ろしいことが起きようとしているのが伝わってくる。

歌い方で言うと、終盤の"Looking through one eye"の"eye"の伸ばし方がすごく切なくて、伴奏がなくなってヘドウィグの歌声だけが残ったときに鳥肌が立ちました。

丸山さんって時々歌い方がミュージカルっぽいというか、一曲の中で別人のように歌ったり感情を変えたりするのが上手いなと思っていたのですが、この曲でそれがめちゃくちゃ堪能できました。最初の穏やかに語る感じから、神々の怒りに触れた後の響く低音、切り離された後の切なさがたまらなかったです。神々しくて手を合わせそうになりました。

あとジェスチャーのバリエーションがすごい。特に"one eye"のところで片目を隠すのも好きでしたし、"Cause you had blood on your face"と"I had blood in my eyes"で、赤いマニキュアの塗られた爪を目の横に添えて血の涙を表現するのも大好きでした。

歌い方から伝わってくる感情とジェスチャーのおかげなのか、英語で歌われているのに完全に歌の内容が理解できてしまうという神秘体験みたいなものを味わってしまって、息が何回か止まりました。

 

・ルーサーとの出会い

ここのヘドウィグのエロさと可愛さが止まりません。

シュガー・ダディ、ルーサーから貰ったグミを味わうシーンの「今まで食べたクマのグミとは全然違う味だったけど、断然甘くて、大きくて、奥歯の奥でぐにゃぐにゃと曲がった」という語りの効果音がベースなのも、めちゃくちゃエロいんですよ。質感とか味、大きさの描写が、ルーサーからフェラさせられることを連想させるんですよね。

その後の、「悪くない…♡」って言いながらうっとりした顔で頬に手を当てるところが、イチオシ双眼鏡ポイントでした。ルーサーに顔を見つめられたのを思い出しながら、頬に手を当てたまま回想を続けるヘドウィグがエロすぎて、変な気持ちになりました。特に3月6日の昼公演では、このシーンめちゃくちゃ吐息が多くて、ヘドウィグの顔を双眼鏡で覗きながら、耳にはヘドウィグの吐息が響いてくるという時間が1分ほど続いて、めちゃくちゃ興奮しました。

その後、スネアロールに合わせて「ネッコ・ウエハースが3つ、パチパチキャンディー、ミルキーウェイ」という台詞を言うところで、3のジェスチャーが親指と人差し指と中指で、2のジェスチャーが親指と人差し指だったのも最高でした。

 

・SUGAR DADDY

エロさと可愛さは続きます。

アメリカ国旗の柄の入ったテンガロンハットをかぶり、SUGAR DADDYを披露するヘドウィグ。

腰を振ったり、マイクスタンドを足の間に挟んだり、四つん這いになったり、股間を手で撫でたり、マネキンの頬を舐めてからキスしたり、「色気」とかいう生優しいものではなく、完全に「エロ」を意識したパフォーマンス。

可愛いし媚も感じるけど、弱さがないのが良い。能動的。

あとセリフ部分でルーサーから「オーベイビー、きっと君に似合うと思うんだ。ベルベットのドレスに、ハイヒールに、アーミンの毛皮のストール」と語りかけられるところで、少年のような表情で蜂蜜のようなものをスプーンで舐めるヘドウィグも好き。からの「愛しいルーサー、神に誓うわ、あたし女の服なんて着たことない」の媚びた声も好きですし、「でも一度だけ、着たことがあるの、母さんのキャミソール!」の勢いも最高です。

そしてその後のサビで歌う合間に「男ってほんとに愚か!」とか「女の子がんばれ♡」「がんばれアタシ♡」を日によって入れてくるところも、なんかわからないけどめちゃくちゃニヤけました。

私が一番好きなのは「がんばれアタシ」バージョンです。

この曲はシンプルに楽しい。

 

・ANGRY INCH

TEAR ME DOWNの力強い歌い方からの、THE ORIGIN OF LOVEの伸びやかな歌声からの、SUGAR DADDYのポップさからの、ANGRY INCHのロックです。

丸山さん、まじで声何種類あるの?って思います。

あと曲終わりに、胸と股を隠して内股になるようなポーズで終わるのも好きでした。

 

・WIG IN A BOX

これもシンプルに楽しい曲シリーズ。

最初のボリューミーなウィッグの下に金髪の方くらいの長さのウェービーなウィッグが仕込まれていて、これを一つに結んでいるのも好きでしたし、一番最初にこの曲でかぶる前髪のある茶髪のロングヘアのウィッグもめちゃくちゃ似合ってました。

何度も出てくる"I put on some make up"のところのお粉を叩くように頬に触れる動きからの、鏡を見て満足するような表情の変わり方に、色気と可愛さがありました。

"suddenly I'm this punk rock star of stage and screen"でウィッグをかき乱して歌うのも最高でした。

あと後ろで着替えるときに、黄色のドレスを下から履くので、下は見えないまま着替え終わるんですけど、上は普通に脱ぐので、急におっぱい出てきてびっくりしました。

隠されていると、見てはいけない気がするよね。

ドレスを着るときにイツハクに後ろのファスナーを閉めてもらうのですが、巻き込まれないように髪の毛を持ち上げていたのが、リアルに髪の長い人の動作って感じで生々しくてグッときました。

その後、アウトロで他の楽器と絡むときに、テンション上がりすぎてもう一つのウィッグをつけてもらうのを忘れて、後ろからイツハクにぽんぽんと背中叩かれて、思い出したようにしゃがんでたのも良かったです。

 

・EXCUISITE CORPSE

この曲の壊れる寸前ギリギリの表情のヘドウィグがすごく魅力的でした。

イっちゃった感じの顔で機械のように踊る日もあれば、スイッチが切れたように呆然と立ち尽くす日もあったり、あるいは崩壊していく痛みに苦しむような表情を見せる時もあって、どれも最高でした。

そしてウィッグを取り去り、ドレスの中から生まれる美。

マジで体が美しいんですよね。寝転がったまま靴を脱ぐところも最高でした。

後ろのモニターのライトが強いのでシルエットしか見えないのですが、もがき踊るヘドウィグの身体がとてもしなやかで美しかったです。

その後、うつ伏せになって自分でメイクを落として銀色の十字架を額に描くのですが、そのときに鏡を見ながら少し髪を直している感じとかが生身の人間って感じで好きでした。

 

・WIKED LITTLE TOWN

トミーとヘドウィグの1人2役をこなすわけですが、この曲は完全にトミー。

少し甘く幼い喋り口調や歌い方、そして立ち方が、完全にトミーなんです。

パンイチでベースを持つ丸山さんの身体が美しすぎて、これこそが完全体だなと思いました。

 

・MIDNIGHT RADIO

色々な声のバリエーションを持っている丸山さんですが、この曲はさらに別物。

お腹から響くような力強い声と、神様みたいなおだやかでありながら強さのある笑みと、「完全」というものを理解せざるを得ないような美しい身体に、うっとりと脳みそが煮込まれました。

どの曲も最高だったはずなのに、油断するとこの曲に全ての記憶が持っていかれる。

"you're shining"や"you know you're doing all right"、"so hold on each other"と語りかけられると、救いのようなものを味わってしまう。あまりにも神々しかった。

 

・カーテンコール

再び出てきた時の丸山さんの立ち方や歩き方が、いつもの丸山さんで安心する。

そして少し小走りで出てきたときに揺れるおっぱいに目がいく。

バンドに対して拍手をするときに後ろを向いて両手をいっぱいに広げる丸山さんの背中から腕の筋肉にほれぼれする。

なんか神々しかったはずなのに、帰路に着く頃には煩悩まみれでした。

 

考察

欲望まみれの萌えポイント語りをした後に、真面目にストーリーを考察するのもどうなんだろうとは思いますが、ここまで来たからには思っていること全部書いてしまおうと思います。

 

・パンフレットp.14~15の写真について

パンフレットの丸山さんのインタビューのページの後に、ボロボロの白のロングTとジーパン姿のビジュアルが載っています。同じ写真が舞台のメインビジュアルにも大きく載っています。

写真:

 

 

ウィッグをかぶっていないこの姿を、私は舞台終わりに見て直感的に「ハンセルだ」と思いました。

なぜそう思ったのかすぐにはわからなかったのですが、ポーズの弱さとまるで壁の向こうを見るように上に向けられた視線、そしてシャツに書かれた"ZOO YORK"の文字が、自由を夢見る少年の姿に見えたのかなと思います。

 

・ヘドウィグはトランスジェンダー

トランスジェンダーは身体の性と心の性が一致しない状態を指す言葉ですが、ヘドウィグがはたして自分のことを女性と認識していたのかと考えると、私は違うのかなと思ってしまいます。少なくとも自ら性転換手術を望んでいたようには見えなかったなと思います。

まず、ヘドウィグの回想でのハンセルの一人称は常に「ぼく」です。一人称だけで判断すべきではないのかもしれませんが、ハンセルは自分が男であることに違和感はなかったのかなと思います。

そしてハンセルが女の格好をするようになったきっかけは、ルーサーです。

SUGAR DADDYの中でも、ハンセルが母親のキャミソール以外に女物の服は着たことをないことが分かります。また、"so you think only a woman can truly love a man? well, you buy me the dress, I'll be more woman than a man like you can stand"という歌詞もありますが、あなたが望むなら女になってあげるというようなニュアンスが近いかなと思います。

ハンセルおよびヘドウィグが、ゲイである(=恋愛対象が男性である)のは間違いないと思いますが、女性の格好をするのは、あくまでアメリカに行くための手段であり、好きな男に尽くす手段なのかなと思います。

また、性転換手術についても、ルーサーと母親にほとんど騙されるような形で受けさせられていることから、自らが望んで性転換をしたという印象は受けませんでした。

最後にドレスやウィッグやヒールを脱ぎ、イツハクにはウィッグを被せるところを見ても、女性の格好をやめることが解放をイメージさせるなと思いました。

 

・WIG IN A BOX

ヘドウィグがトランスジェンダーではないという前提に立って考察すると、WIG IN A BOXによって女性の格好をすることへのヘドウィグの心情が理解できる気がします。

アメリカに渡ったものの、自分が性転換手術を受けて故郷を捨ててまで超えたかった壁がすぐに崩壊してしまった上に、ルーサーにも捨てられ、ヘドウィグの心はズタボロだったと思います。そういう状況でのWIG IN A BOXの"I put on some make up turn on the tape deck and put the wig back on my head suddenly I'm Miss Midwest Midnight Check out Queen"という歌詞を聞くと、メイクやウィッグがヘドウィグの心の支えだったのかなと思います。

メイクをすることによって変身して強くなれる、みたいな心境はよくあるものなのかなと。

メイクやウィッグを好むことと、女性になりたいという願望は、似ているようで違う気もするので。

 

・LONG DRIFTからMIDNIGHT RADIOへの心境変化

この終盤の場面、あまりセリフが多くないので分かりにくいのですが、私の推測はこんな感じです。

LONG DRIFT

ここまでヘドウィグはイツハクの歌を意地悪な形で邪魔する場面が何度もありますが、突然イツハクにメインボーカルを歌わせ、さらにそれを褒めます。

LONG GRIFTの歌詞はトミーに対するヘドウィグの感情だと捉えるのが一番分かりやすいですが、これをイツハクが歌うことによって、イツハクからヘドウィグへの曲にも捉えられるようになる気がします。ヘドウィグはイツハクからウィッグを奪い、男として、自分の旦那として生きるように交換条件を出すわけですが、ヘドウィグはこの曲を聴いて自分がイツハクを縛り付けていた罪悪感のようなものを感じたのかなと思っています。

しかしその後、2人で歌おうと言ってきたヘドウィグを笑いながら拒絶します。その直前のヘドウィグのセリフに「神々も恐れをなすわ」という言葉がありますが、これはTHE ORIGIN OF LOVEの歌詞を思い出させます。つまりヘドウィグの言葉は、ヘドウィグとイツハクが組めば神々が恐れをなす完全体になれる、ヘドウィグのカタワレはイツハクであるというような言葉にも捉えられるのかなと。しかし、ヘドウィグのカタワレがイツハクではないことはイツハクも理解しているし、ヘドウィグも本気ではそう思っていないと考えると、イツハクの笑いは、中途半端な同情で逃げてんじゃねえよ、妥協してんじゃねえよというような意味が近いのかなと感じます。

再び愛しあえると思ったトミーが自分の名前をおくびにも出さないことや、イツハクに拒絶されたこと、そして過去の回想、これらが「ヘドウィグ」を崩壊させるのかなと。

 

・ヘドウィグの呪い

MIDNIGHT RADIOの前、ヘドウィグはイツハクにウィッグを被せ、背中を押して送り出します。

私はヘドウィグが全てを脱ぎ去って解放されるためには、ヘドウィグがイツハクを解放する必要があったのではないかと思っています。

ヘドウィグがイツハクと出会ったシーンの「あたしの顔はあの時の母さんの顔くらいピクリともしなかった」や「何かを得るためには何かを手放さなければいけない」というセリフは、明らかにヘドウィグの姿が母、ヘドウィグ・シュビットと重ねられていると感じました。

そして「ヘドウィグ」という名も、母親のものです。イツハクに歌を歌わせない姿も、ハンセルが歌を歌うとトマトを投げてきた母親の姿にリンクしているのではないかと思いました。

ヘドウィグが母・ヘドウィグから解放されるためにも、イツハクをヘドウィグ自身から解放してあげることが必要不可欠だったのかもしれません。

 

・つぐないツアー

最後にトミーについての考察です。

トミーのツアータイトルが「つぐない」であることは、ヘドウィグのセリフから分かります。

また、1枚目のアルバムは全曲ヘドウィグが書いたものですが、2枚目の自分で書いたアルバムの売り上げは散々だったと語られていました。そして「絶不調だった人気を救ってくれたつくないのお話も作れなかったくせに」というヘドウィグのセリフから、つぐないのお話(あるいは歌)は2枚目のアルバムの後にリリースされたものではないかと推測されます。

時系列的にはこんな感じです。

 

・1枚目のアルバムの発売

(ヘドウィグが作った曲、TEAR ME DOWNなどが入っている)

・2枚目のアルバムの発売

(トミーが作った曲、売り上げが下がった、人気が絶不調)

・つぐないの歌が発売

(ヘドウィグのおかげで作れた、人気が戻る)

・つぐないツアー初日(今日)

 

恐らく「つぐないのお話」というのは、トミーが最後に歌ったWICKED LITTLE TOWNのことだと思います。

"forgive me"から始まり、"now I understand how much I took from you"という歌詞からも、「つぐない」という内容に一致しているように感じます。また、歌詞はヘドウィグが書いたものとは別のものであるため、ヘドウィグの「つぐないのお話も作れなかったくせに」という言い回し(つまり作ったのはトミー自身であるということ)とも一致します。

1枚目のアルバムは全曲ヘドウィグが書いたものだということは、WICKED LITTLE TOWN以外の全曲は、1枚目のアルバムに収録していると思われます。

そう考えると、どうしてトミーが初めてバーで聴いたWICKED LITTLE TOWNを1枚目に収録しなかったのかというのが考察ポイントになってくるのではないかと。私の推測では、トミーにとって最も思い入れのある曲を発売することに抵抗があったのかなと。

感想

あらすじや考察を書き終えて、また少し寂しくなってしまいました。

もちろん終盤のウィッグやドレスやメイクを脱ぎ去った後のヘドウィグも美しかったのですが、ドラァグクイーンでありロックシンガーであるヘドウィグの力強く可愛く色気のあるパフォーマンスがものすごく魅力的で、あのヘドウィグをもう見れないのかと思うと喪失感があります。

私は結構舞台やコンサートを見ていても、頭の端では何か別のことを考えている感覚があって、熱中しきれない人間なのですが、ヘドウィグ・アンド・アングリーインチではものすごい没頭感がありました。

頭の10割が今見ているもの、聞こえているものに浸っていて、呼吸することも忘れ、全身がぶわっと沸き立つような、そんな感覚を初めて経験しました。公演が終わるたびに魂を吸い取られたような疲労感で、だからこそとても楽しかったです。

 

この記憶は心の中に大切にしまって、つらい時や苦しいときに引き出そうと思います。

 

 

 

インスタグラムのいいねの数は何で決まる?

最近私はよく金曜日を土曜日だと勘違いします。

「あれ?アラーム鳴らなかったな」と不思議に思いながら関ジャニ∞のインスタグラムをチェックし、ストーリーズが投稿されていないのを見て「もしやインスタライブ見逃した⁉︎」と焦ったところで、今日が土曜日ではなく金曜日であることに気がつく。

私の間抜けさは置いといて、関ジャニ∞がインスタグラムを開設してから早8ヶ月が過ぎ、すっかり私の生活の中に組み込まれています。

実は最近までインスタグラムのいいねの数を一の位まで表示する方法を知らなかったので、いつも「数万いいね」という表示でした。

ようやく設定を変えていいねの数が見えるようになったところで、これを分析したら面白そうだなと分析オタクの血が騒ぎ始めました。

メンバーによって変わっているのか、それとも別の要因なのか、調べてみたい。

 

というわけで、今回は関ジャニ∞のインスタグラムのいいねの数が一体どういう要因で増減しているのかということを調査したいと思います!

 

①データの準備

とりあえず、投稿ごとのいいねの数と、ついでにコメントの数を記録してみました。(いいね数の観測日:2021年8月4日 コメント数の観測日:2021年8月5日)

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いいねのヒストグラム

平均は147,436件で、最小が65,608件、最大が265,396件となりました。

ちなみにいいねの数が最も少なかったのはキミトミタイセカイ歌唱風景の9ピースの写真の内の空の1枚でした。最も多かったのは横山さんの誕生日の投稿です。

 

続いてコメント数です。

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コメントのヒストグラム

横軸が前のヒストグラムとは一致していないことに注意してください。

平均が3,050件、最小が218件、最大が11,134件となっています。

最もコメントがついた投稿はいいねと同じく横山さんの誕生日の投稿で、最も少なかったのは同じくキミトミタイセカイ9ピースの写真の内の別の空の投稿でした。

 

数こそ違うものの、いいねの数とコメントの数は片方が増えるほどもう片方が増えるという風に強く関係していることが分かりました(相関係数 = 0.84)。

 

要因としては、以下の7つを設定しました。

・横山さんの顔が写っているか

・村上さんの顔が写っているか

・丸山さんの顔が写っているか

・安田さんの顔が写っているか

・大倉さんの顔が写っているか

・投稿に動画が含まれているか

・同日中に投稿があったか

これらをイエスかノーの2択の要因として、投稿ごとに紐づけて分析してみました。

(分散分析を行いました)

 

②結果

まずはいいねとその要因についてです。

上の7つの要因がイエスであった場合に、いいね数の平均がどれくらいになったかを表にまとめました。

要因 平均値 全体平均との差
横山 171820 28384
村上 165485 18049
丸山 168037 20601
安田 166127 18691
大倉 174071 26635
動画 145746 9311
同日投稿 123068 -24367

基本的にメンバーが写っていると、やっぱりいいね数は大きくなることが分かりますね。

その中でも最もプラスが大きいのが大倉さんで、次いで横山さん、丸山さん、安田さん、村上さんとなっています。

それに比べると動画の投稿に対してのいいね数はそうでない投稿と9000件程度しか変わらないことが分かります。

また、同日中に投稿があった場合は全た平均から24000件以上いいねの数が少ないこともわかりました。

 

じゃあこの結果をどう見るか、という点で分散分析に移ります。

統計をしたことがない人でも、大倉さん要因の+17000以上と、動画要因の+9000以上はなんとなく違う気がすると思ってもらえると思います。

たまたま動画の含まれる投稿を集めたら誤差が出たのか、それとも本当に動画があることでいいねの数が増えているのか、そういう部分をここからみていくことになります。

要因 F p
横山 16.08 <0.001
村上 2.51 0.12
丸山 3.00 0.09
安田 0.86 0.36
大倉 13.24 <0.001
動画 0.10 0.75
同日投稿 15.12 <0.001

Fと書かれた値が大きければ大きいほど、pの値が小さければ小さいほど、その要因に意味がありそうだということを示しています。

pは偶然その結果が得られる確率を示しているのですが、5%(p = 0.05)で足切りすることが多いです。

つまり、横山さんが写っている写真を含む投稿がたまたま他の投稿よりもいいねの数が多くなる確率は0.1%未満なので、横山さんが写っていればいいねの数が増えると結論づけて良さそうです。

他にも大倉さんの要因と、同日投稿の要因が5%を下回りました。

 

いいね数が伸びやすいのは、横山さんが写っている時、大倉さんが写っている時、同日中に投稿がなかった時だということが推測できます。

 

③考察

注意しておきたいのは、単純に大倉さんや横山さんが人気だからいいねの数が多いという結論に結び付けられるものではないということです。

もちろんファンの数が増えればいいねの数が伸びるというのも考えられる一つの要因だと思いますが、それ以外について考えてみたいと思います。

 

まず、私が大倉さん・横山さんと聞いたときに思ったのが、「誕生日投稿じゃね?」ということでした。

一番最初に最もいいねとコメントの数が共に多かったのが横山さんの誕生日投稿だということに触れました。実は2番目にいいねの数が多かったのが、大倉さんの誕生日投稿です。

関ジャニ∞のインスタグラムにおける平均的ないいねの数が149,731件である中、両者ともに25万近くのいいねがついています。

じゃあこれを分析から除いてみたらどうなるんだろうと思って、再びやってみたのですが、結果は大倉さん(F = 14.16, p < .001)も横山さんも(F = 17.36, p < .001)で変わりませんでした。

むしろ、データのばらつきが小さくなったので、より大きいFの値が出てきてます。

その分、大倉さんと横山さんに比べると効果が小さいものの、2人に加えて村上さん(F = 5.59, p < .02)と丸山さん(F = 5.89, p < .01)でも、pの値が5%を下回りました。

安田さんの効果のpの値は再び5%を上回りました(F = 1.87, p = .18)。

これについては後から考察していきます。

 

もう一つ思ったのが、横山さんと大倉さんって私が分析企画をやっているといつもファンの数が集まりにくいメンバーなんですよね。

前回の191名の方に協力していただいたリアコ度に関するアンケートでも、横山担が最も少なく14名、大倉担がその次に少ない15名でした。

もう少し規模の大きい2840名の方に協力していただいた沼落ちに関する方のアンケートでも、大倉さんのファンは全体の中で丸山さんに次いで2番目に多い554名であったものの、横山担は最も少なく234名という結果になりました。

コンサートに行ったり舞台のチケットを取ったりする中での個人的な体感として、大倉担は圧倒的に母数が多いイメージだったので、後者のアンケートでも思っているよりは少ないなという印象でした。

なので、一つ考えられる要因として、メインで使用している媒体の違いがあるのではないかと思いました。

横山担と大倉担はTwitterよりもインスタグラムを使っている傾向にあり、村上担と安田担と丸山担はインスタグラムよりもTwitterを使っている傾向があるのではないかと思います。

 

もう一つリアコに関する調査の結果を見返していて思い返したのですが、大倉担・横山担と、それ以外の3人のファンって年齢層が違ったんです。

もちろんそれぞれ10名ほどの参加者しか集まっていないので、それがどこまで全体を反映できているかというのは怪しいのですが、改めて年代を確認します。

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こうしてみると、横山担と大倉担は他の3人のファンと比べてかなり10代のファンの占める割合(水色の部分)が大きいことがわかると思います。

また、誕生日投稿を除いた分析でも5%を下回る結果が出なかった安田担は、他のメンバーと比べて10代と20代の占める割合が最も小さくなっています。

よく考えれば納得ですが、年齢が若いほどインスタグラムを使っている傾向があるというのも1つの要因になってきそうですね。

 

④まとめ

得られた結果は以下のようなものでした。

・横山さんと大倉さんが写っている投稿はいいねが伸びやすい

・同日中に投稿があった場合は、いいねの数が減少する

 

さらに前者のメンバー間の違いについて考察したところ、以下のような要因が考えられました。

・使用しているSNSの違い

横山さんと大倉さんのファンはTwitterよりもインスタグラムを使う人が多い?

・年齢層の違い

ファンの年齢が若ければ若いほどインスタグラムを使用している割合、もしくは気軽にいいねをつける人の割合が大きい?
それに加えて、ファンの母数、横山さんや大倉さんの投稿センス、といった要因が重なってくる可能性もあります。

 

 いいねやRT、コメントの数で人気を測るというのは、とても難しいものです。

分析する側としては、そうした数値は分かりやすいものの、単純に人気度を示した数値ではないということを頭に入れておかなければなりません。

一方で、その数値がある程度目安になるというのも事実です。

ファンとしてはできるだけいいねやRTで人気度をアピールする、運営側としてはそうした数値だけに惑わされない、そうした姿勢が重要なのかもしれません。