そーゆーとこツボなのさ

終日もう君に夢中

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ2022 あらすじ&感想・考察

 

 

ヘドウィグの千秋楽が終わって、1日が経ちました。

終わる前から確実にロスになるだろうなと予想はしていたのですが、予想通りでした。

午前中はそこまで実感がなかったのですが、今日の丸の大切な日を読んで終わったことを改めて実感し、ちょっとだけ寂しくなっています。

 

この記憶が薄れない内に、ここに見たもの・感じたものを書き残しておこうと思います。

感想や考察については、あくまで個人のものなのでご了承ください。あらすじについても、記憶違いがあるかもしれません。それを前提としてお読みください。

 

目次

1.あらすじ

2.萌えポイント

3.考察

4.感想

 

あらすじ

ヘドウィグ(ハンセル)、トミー …丸山隆平

イツハク、ルーサー、ヘドウィグ・シュビット(ヘドウィグの母) …さとうほなみ

""や「」内はセリフから抜き出し。

 

ステージ中央に"HEDWIG'S BRAIN INSIDE"と書かれたピンクの壁が立っている。

その後ろにはモニターがあり、壁をイメージさせるイラストの上に"Hedwig and the Angry Inch"と書かれている。両脇の背景は落書きされた壁。

下手側にはキーボード、ドラム、ベースが置かれていて、上手側にはギターが2本ある。

上手にはギター以外にピンクのドレッサーや、ウィッグの乗ったマネキンの頭もある。

 

ステージ上にバンドメンバーとイツハクが現れる。

「ヘドウィグマインドシアターへようこそ!」

観客はアングリーインチのライブを見に来たことになっている。

「携帯電話と監視用の端末の電源は切っておくように。かなりうるさい音を出すライブだが、もちろん静かなところもある。もし良いところで変な音が鳴ったりしたら、みなさんご存知のあのビッチが、帰るーとか言い出すから。分かったら拍手!」

"Whether you like or not, Hedwig!!"

という紹介と共に、曲が流れ始める。

 

♪. TEAR ME DOWN

曲が流れ始めるが、ヘドウィグが出てくる気配はない。少し焦った様子のイツハクは、壁の後ろに回り、壁を前に向かって倒す。

真ん中にヘドウィグが後ろを向いてしゃがみこんでいる。イツハクに何やら説得された後、ヘドウィグは立ち上がり、パフォーマンスを始める。

natalie.mu

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セリフパート

イツハク:

1961年8月、ベルリンの真ん中に壁が建てられた。

世界は冷戦で分断され、ベルリンの壁はその象徴として忌み嫌われた。誹謗中傷、罵倒、悪態、落書き、唾吐き。

壁は永遠に無くならないと思われたが、取り壊され、人々は自分が誰であるかを見失った。

Ladies and gentlemen!! ヘドウィグは壁だ!

分断の前に燦然と立ちはだかる。

東と西、奴隷と自由、男と女、上と下。

引き裂いても良いが、これだけは言っておこう。

ヘドウィグは壁だ!

 

アウトロで気持ち良さそうにフェイクを歌うイツハクに苛立った様子のヘドウィグは、着ていたマントをイツハクの頭に被せて歌をやめさせ、曲が終わる。

 

観客に向かってヘドウィグからの挨拶。

「どうも、ヘドウィグでございます。バンド、アングリーインチへ拍手を」

会場から拍手が響く。

「あと私の旦那であり専属なんでも屋、イツハク」

イツハクに対しても拍手が起こると、ヘドウィグは会場に対して拍手をやめさせる。

「いいのよ、拍手はいらない。またアレが調子に乗るから」

イツハクを馬鹿にしたような様子のヘドウィグだが、挨拶を続ける。

「ようこそ、ヘドウィグマインドシアターへ。分かってるわよ、普段はZepp TOKYOって言うんでしょ?でも、今日はあたしの東京。あたしね、どうしてももう一度東京でライブをやりたかったの。外国人も大好きな街よね。人種のるつぼ。男女でも、女男でも、LでもBでもGでもTでもQでも!」

ヘドウィグはライブをするために東京の影の支配者「ロバート・ステイン様(仮名)」に対し、床に頭を擦り付けてお願いしたそうだ。

ヘドウィグの再現によると、ボブは「口に物を入れて喋るな」と言ってきたそうだ。ヘドウィグは片膝をついてしゃがみこみ、マイクを使ってフェラを 再現する。「感謝するわ、ボブ」

満員の客席を見て、去年の夏は半分しか入れられなかったと思い出すヘドウィグ。しかしヘドウィグは客席に対し、「分かってるわよ、あなたたちのほとんどがあたしを知ったのは最近だってこと」と投げかける。

モニターにゴシップ記事が表示される。

 

"TOMMY TO TOTS 'SORRY'(トミーから良い子たちへ、ごめんね)"という見出しの記事に、トミーの写真が大きく載っている。トミーは盲学校のスクールバスに追突事故を起こしたのだ。その記事の右下には、トミーと同乗していた女の写真、ヘドウィグの写真が載せられていて、"Who is the mystery woman?(謎の女は誰?)と書かれている。

 

ヘドウィグは、「ヘドウィグって誰!?それはあたしがずっと考え続けている問題よ」と話す。

「ねぇ、ヘドウィグって誰?今日話したいのはそのこと。事故のことも、スキャンダルのことも、ましてやトミー・ノーシスとの関係性について話すつもりはない。共産主義東ドイツ出身のオネエの出来損ないがいかにして全世界に無視されるカバーアーティストになったかって話よ」

ヘドウィグによると、隣のライブ会場では「偶然」トミーのつぐないツアーが行われているそうだ。ヘドウィグが今頃トミーは自分のことを話しているだろうと得意げにライブ会場の扉を開けると、トミーの声が聞こえてくる。自分の名前を出さず、ファンに甘い言葉をかけ、TEAR ME DOWNを歌い始めるトミーに、ヘドウィグは腹をたてて扉を閉める。

「あのアルバムは全曲あたしが書いたのよ!」と苛立っている様子のヘドウィグは、追突事故の晩に起こったことを話し始める。

その夜、男としての身分証明書を忘れたヘドウィグは、ホテルから出禁を食らった直後だった。ちょうどホテルの前に停車したリムジンにヘドウィグが乗り込むと、そこにはトミーが座っていた。トミーが自分で書いた2枚目のアルバムの売り上げが散々だったという話になり、トミーは「孤独だ」とヘドウィグに言ってきたそうだ。運転手を車から下ろしたヘドウィグとトミーは、クスリをキメながらマンハッタンをドライブした。追突事故の時には、運転するトミーに対しヘドウィグがフェラをしていたところだったそうだ。

 

怒りが落ち着いたヘドウィグは、話を変えて自分が幼い頃の話を始める。

幼い頃に描いた絵でいっぱいの日記が出てきたそうだ。モニターに"HANSEL'S DIARY"と描かれた古い絵日記が映される。

アメリカのG.I.だった父さんは、ハンセルが碌に言葉も覚えない内に出て行った。東ドイツ人の母さんがハンセルに触れたのは、ほとんどが事故だったそうだ。

ハンセルがテレビでジーザス・クライスト・スーパースターを見ながら、「イエスの言うことってめちゃくちゃだね」と母親に言うと、「2度とその名前を口にするんじゃないよ」とっは親に引っ叩かれた。「ヒットラーも同じさ。良いかい坊や、絶対的な権力は堕落するものなのよ」と語った母親の言う通り、ベルリンには壁が立った。

母とハンセルはたまたま東側にいて、母親は手足のない子供たちに彫刻を教える仕事に就いていた。

幼いハンセルは、米軍ラジオで「アメリカの一流」を聴いた。住んでいた部屋が狭かったため、オーブンの上段に頭を突っ込んで聴いていたと言う。ハンセルは、ラジオから流れてくる曲に対してハモリを歌っていたが、ある日我慢できなくなってサビを歌った。すると母親からトマトを投げつけられた。しかしヘドウィグは、薄暗いオーブンの中で優しくハモリを歌うだけで幸せだったと回想する。

夜が更けてくると、母親は風呂場から「終わったわよ」と叫び、ハンセルが「じゃあ僕も終わり」と返し、2人は小さな一つのベッドに横たわる。父さんが出て行って以来、2人で同じベッドに寝ていた。

ある日、母親はハンセルにある言い伝えを聞かせた。

 

♪. THE ORIGIN OF LOVE

後ろには歌の内容を表すアニメが流れている。

natalie.mu

 

拍手を貰ったヘドウィグは「このアニメ可愛くない?よかったら映像チームに拍手を」とモニターを示す。

 

話が終わると、母親はいびきをかいて寝てしまった。

ハンセルは「カタワレ」について考えるために、オーブンの中に頭を突っ込んだ。

「カタワレを見つけなきゃいけないってことはわかった。でも、男なのか女なのかも分からない。もしかして父さん?それとも、母さん?急にベッドに戻るのが怖くなった。どんな見た目なのかしら?あたしと瓜二つ?それとも全然?あたしにないものを持ってる?愛とか、運とか、美貌とか?欠けることのない完全体、どれほどのパワーかしら?そりゃ神々も恐れをなすわ!それにセックスは?元の体に戻ろうとする行為なの?父さんがやろうとしたこと。もしソレ中アウトバーンで運転してたら?現実的な問題よ?本当に無理矢理引き剥がされたのかしら?良いところを全部持ち逃げした?もしかしてあたしが?あたしはカタワレを見て恥ずかしいと思うのかしら」

 

イツハクがヘドウィグのウィッグを被ろうとしている。ヘドウィグはドイツ語でイツハクを怒鳴りつける。イツハクはヘドウィグと出会った頃、脚モデルを目指していたそうだ。

「あたしの髪、良い香りがするのよ?例えるならアフガニスタンの子供75人分の手みたいな香りよ、これはさすがに洒落にならないか」とご機嫌なヘドウィグに対し、過去を弄られたイツハクが会場の扉を開ける。

相変わらず自分の名前を出さないトミーに対し、「あたしがいなければ最近絶不調だった人気を救ってくれたつぐないのお話も作れなかったくせに」とヘドウィグは苛立ちをぶつける。

 

80年代後半、20代後半、ハンセルは大学を追い出された。講義の中で、ドイツ哲学がロックンロールにがっつり及ぼした影響について、講義のタイトル「如何ともしがたい状況でも頑張れば何とかなるかもしれニーチェ」を発表しようとしたそうだ。

学術的キャリアも閉ざされ、初キスもまだで、母さんと一緒に寝ていたハンセルは、壁の中でカタワレを見つけられていなかった。どうやって壁を越えればいいのかとハンセルは考えながら、壁の近くの教会の爆撃跡で全裸になって日光浴をしていた。壁の西側にできた新しいマクドナルドの芳しい香りを思い出しながら、ヘドウィグは自分がもらえるのは「なんでかいっつもアンハッピーセット」と毒づく。

仰向けに寝ていたハンセルの後ろに、いつのまにかアメリカ兵のルーサーが立っていた。

「お嬢さん、邪魔するつもりはなかったんだ。俺の名前はルーサー・ロビンソン」とハンセルに話しかけてきたルーサーに、ハンセルは「ハンセルです」と言いながら向き直る。「あたしのタートルネックを被ったビショップ」を見つめたルーサーは、「お菓子は好きかい?」と続ける。「クマのグミが好き」と答えたハンセルの両手いっぱいに、ルーサーはアメリカっぽい包装のグミベアを渡した。

ルーサーの目は「幼いあたしには分からない欲望に満ちていた」。ハンセルは自分の知っているクマのグミよりも断然甘くて大きいグミベアを奥歯で噛み締めながら、その食べ慣れない味が何であるか気づく。「権力の味。悪くない…」と頬に手を当てるハンセル。「驚いたなぁ、信じられないよ。君が女の子じゃないなんて」と続けるルーサーは、ハンセルの顔を「そこに自分の運命が書いてあるかのようにじっと見つめ」ハンセルの頭をつかみ、腰を振る。

「その時のルーサーの顔は袋いっぱいに閉じ込められたクマの顔と重なった。色んな種類の顔、顔、顔。色がついてりゃそりゃアーリア人じゃない。アウシュビッツに連れて行かれた連中のように袋の中をムンムンと曇らせる。ただのシャワーだよ。ガス室なんかじゃない」

ハンセルはそこから逃げ出した。明くる日、ハンセルがレインボーカラーのグミベアを辿って爆撃跡に戻ると、そこにはネッコ・ウエハースが3つ、パチパチキャンディ、ミルキーウェイ、そして巨大なシュガー・ダディが転がっていた。

 

♪. SUGAR DADDY

画像:

https://www.fujitv-view.jp/gallery/post-485747/?imgid=1

thetv.jp

セリフパート

ルーサー: 

オーベイビー、きっと君に似合うと思ったんだ。

ベルベットのドレスに、ハイヒール、それにアーミンの毛皮のストール。

ヘドウィグ:

あぁ愛しいルーサー、神に誓うわ。あたし女の服なんて着たことない。

でも一度だけ着たことがあるの、母さんのキャミソール!

 

曲が終わって、ヘドウィグのMCが挟まる。

ヘドウィグが話していると、イツハクがソファで演歌を歌い始める。ヘドウィグはイツハクに「歌ってみなさい」とステージの真ん中を譲る。しかし、イントロが終わり歌に入りかけたところで、ヘドウィグはシンバルを叩き散らして曲を中断させる。「なに?本気で歌わせてもらえると思ったの?」とバカにしてくるヘドウィグに、イツハクは腹をたててマイクスタンドに当たりながらステージから出ていく。それに対し、ヘドウィグは「あれ、入国管理官じゃない?」と、イツハクをからかう。イツハクはヘドウィグに仕返しするように、会場の扉を開けた。

 

ライブ中のトミーの声が聞こえてくる。

「いつでもそばにいてくれたのは、俺自身だった。あの事故は救いを求める俺自身の叫びだったんだ」と語るトミーに、ヘドウィグは「だったらあたしはどうなるのよ!あたしがいなけりゃ障害児のスクールバスに追突することもなかったくせに!」と腹を立てる。

「忌々しい発言禁止令ね」とヘドウィグはぼやく。事故の後、「黙っててください」とトミーの会社から大金を積まれたそうだ。

「あたしがそんな薄汚い金受け取ると思ったのかしら?」とヘドウィグは嘲笑う。

「あたし、あたしブランドの香水も売ってるのよ?その名もATROCITY by HEDWIG、オゲレツって名前の香水よ。もちろん、男女兼用よ。男女でも、女男でも、LでもBでもGでもTでもQでも!あとIとかAもよ!」

 

少し冷静になったヘドウィグは、再び昔の話を続ける。

ハンセルは「世界一幸せな男の子になった。だって愛する人が夢見るだけだった国に連れて行ってくれるんだもの」

ハンセルはルーサーを家に招いた。ルーサーは結婚指輪とアメリカの市民権の申請書、そしてウィッグを持って行った。ウィッグを被ってルーサーと結婚して渡米すると話すハンセルに対して、「母親の顔はピクリとも動かなかった。一生分くらい時が止まったように感じた後、母さんはウィッグを直しながら、『ハンセル、あたしのパスポートとカメラを持っておいで。なに、簡単な切り張りだけよ』」と話す。ルーサーが「お母さん、そんな簡単な話ではないですよ。愛しているよベイビー、でも結婚はここでしなければいけない。それはつまり、上から下まで身体検査されるってことだ」と返すと、母親は「あぁルーサー、あたしもそう思ってたのよ、あたしぴったりの医者を知っているわ」とハンセルを押さえつける。

 

♪. ANGRY INCH

セリフパート

ヘドウィグ:

手短に話すわ。手術が終わって目が覚めると、あたしの両足の間には穴が空いていて、そこから血が流れていた。

女になって最初の日に、もう月の物が来たみたい。

2日後、傷が治ると穴が塞がって、1インチの隆起した肉片が残った。ペニスがあった場所、ヴァギナが出来なかった場所。

1インチの肉片は、目なしの横向きの薄ら笑いのようだった。

 

性転換手術が失敗し、1インチの隆起した肉片が股間に残ったハンセルは、母親の名前「ヘドウィグ・シュビット」を借り、「ヘドウィグ・ロビンソン」としてアメリカに渡った。

しかし1989年11月9日、「バツイチで無一文の女」になったヘドウィグは、違法ケーブルテレビでベルリンの壁が取り壊されるのを1人で見た。

「泣いたわ、泣かないと笑っちゃうから」とヘドウィグは続ける。

ヘドウィグは母親かルーサーに電話しようとしたが、母親が太陽燦々のユーゴスラビアで暮らしていること、ルーサーが教会で出会った荷物持ちの男の子と家を出て1ヶ月しか経っていないことを思い出してムッときてやめた。

「鏡を見て、自分の頭にしがみついている恐怖が何か分かったの。あたしはまだ一つも開けていない結婚記念日のプレゼントボックスめがけてウィッグを投げつけた。横たわるソイツは傷ついたフリをしていた」と、ヘドウィグは自分のウィッグを見ながら話し、ウィッグを付け替えた。

 

♪. WIG IN A BOX

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歌に合わせてウィッグを変え、途中ステージで衣装を生着替え。

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歌の盛り上がりにご満悦なヘドウィグは、「みなさん毛皮はお好き?」と話しながらメイクを直す。

「会場に入る前にビッチに呼び止められて、あなたに着られるために殺されただなんて、その可哀想な生き物はなんて言うのかしら?って言われたから、言ってやったわ、叔母のトルーディーよって、そしたらそのビッチ、背中に赤ペンキぶちまけてきやがったの」と、観客にヘドウィグは背中を見せる。

そこには真っ赤なペンキの跡が残っている。

そして「ところで私の旦那、イツハクのことは話したかしら?」と、イツハクとの出会いについて語り始める。

ヘドウィグは前回のクロアチアツアーで、イツハクに出会った。

当時ドラァグクイーンだったイツハクは、ヘドウィグの前座を務めた。「クリスタル・ナハト」という芸名で、「バルカン半島最後のユダヤ娘」と銘打って、「愛のイェントル」を口バクしてパフォーマンスしていたそうだ。ヘドウィグはイツハクの後にステージを行う予定だったが、イツハクに対する歓声でヘドウィグの紹介がかき消され、機嫌を損ねてステージ拒否した。

帰ろうとするヘドウィグに、イツハクは「自分も連れて行ってくれ」と追い縋った。「あの時の母さんかってくらい、あたしの顔はピクリともしなかった」と語るヘドウィグは、イツハクに対して「何かを得るためには、何かを手放さなければいけない。その頭に2度とウィッグが乗らないことを約束するなら、結婚してあげても良いわよ」と言ったそうだ。

過去のことを言われて腹を立てたイツハクは、再び会場のドアを開ける。

トミーの声が聞こえてくる。

「トレーラー住まいだった少年が、ある日デパートでおんぼろのギターを買って、トミー・ノーシスと名乗った」と語るトミーに、ヘドウィグは「ねえトミー!聞こえる!?あんたはこのミルクの出ないおっぱいから、ショービズというミルクを吸ったのよ!」とキレ、扉を閉めて戻ってくる。

静まる客席を見たヘドウィグは「わかったわよ、トミーの話をすればいいんでしょ」と、着ていた毛皮のコートをイツハクに「この可哀想な動物の死骸脱がせてくれる⁉︎」と怒鳴りながら脱がせて、ステージ真ん中の椅子に腰掛ける。

 

離婚してアメリカ軍基地での仕事を失ったヘドウィグは、色々な仕事をして食い繋いでいた。ほとんどが「フェラ」だったそうだ。

「喉奥にものを突っ込んでもオェーってならなくなった」。

しかしヘドウィグは、スペック将軍のベビーシッターもしていた。近くの駐屯基地の司令官であった、スペック将軍の子供の赤ん坊の面倒を見ていたそうだ。

そこで出会ったのが、スペック将軍の息子、トミー・スペックだ。トミーは当時16歳のメガネくんで、肌はボコボコ、ジーザスフリークのゲームオタクだったそうだ。「車にイエスのシンボルマークの魚を描いちゃうようなお馬鹿さん」だったが、組織化された宗教に馴染めないトミーに、ヘドウィグは心を惹かれた。

ある日ヘドウィグは、トミーがお風呂のドアを全開にして湯船に浸かりながら、「自分のビショップをしごいているところ」を見てしまった。「明らかに誘ってたわ」と語るヘドウィグは、手を伸ばしてイかせてあげたそうだ。その後、ヘドウィグはライブのパンフレットと「今夜、ドクターエスプレッソのシアトルスタイル浣腸バーでライブがあるの」というメモを風呂場に残していった。

 

その頃ヘドウィグは、「初めて愛したもの」、音楽に回帰していた。

韓国人の軍曹の奥様をバンドメンバーに迎えて、「アングリーインチ」というバンド名で有名曲をコピーしたりして、披露していた。

そこに、トミーはやってきた。ヘドウィグは、「今から歌うのは、あたしが初めて作った曲。男の人が歌うための曲なの。でも人生ってそういうものなのかもしれない」と紹介し、曲を披露する。

 

♪. WICKED LITTLE TOWN

 

ライブ後、トミーは新品のギターを持ってヘドウィグを自分の部屋に招き、さまざまな世界の曲を聴かせた。ギターは、父親に「いつも独裁者みたいで悪かった」と買ってもらったそうだ。

どこから来たのかを聞いてきたトミーに、ヘドウィグは自分の生い立ちを話す。「それで君は、神の子イエス・キリストを自分の主、救世主として受け入れたのかい?」と聞いてくるトミーに、ヘドウィグは「いいえ、でも彼の作品は好きよ」と返す。

トミーは「イエスは僕らを酷い父親から救ってくれた。だって自分からアダムを作って、アダムからイブを作って、それで知恵の木の実を食べるなって言いつけるなんて、超マイクロマネジメントだ。アダムも同じだ。でもイブは違う。イブは純粋に知りたかったんだ。だからアダムにも食べさせた。僕に知恵の木の実をくれる?」と、ヘドウィグに話す。ヘドウィグはトミーの空っぽシリンダーのような深いブルーのの目を見て、自分と同じであると感じた。

ヘドウィグはトミーにロックの歴史や、歌い方を教え、「6ヶ月の英才教育」を施した。その一つが「あたしの専売特許、オーブン唱法」だ。そしてギリシャ語で「知恵」という意味を持つ「ノーシス」という名前をトミーに与えた。トミー・ノーシスがコーラスを担当するようになると、若い女の子が見にくるようになり、ウィチタのモンスターバンドより稼ぐようになり、シズラーからお呼びがかかった。

ヘドウィグとトミーは2人で暮らしていたが、ある日の午後、ヘドウィグが日課であるバーボンを嗜んでいるときに、泣きっ面のトミーが入ってきた。「パパが、ママが、2人して…」と泣きつくトミーを、ヘドウィグは抱きしめた。

トミーは「いつものように」ヘドウィグの背後に回って、自分の胸をヘドウィグの背中に押し当てる。そこでヘドウィグは、自分たちが何ヶ月も一緒にいるのに、キスもしていないことに気づく。トミーはヘドウィグの「前の方」に対して一切関心を示さなかったそうだ。

「曲の続きを考えましょう、眉毛整えてあげるから」とトミーを座らせたヘドウィグは、トミーの眉を整える。なかなか曲が上手く書き進まない中、隣のトレーラーハウスから"ALWAYS LOVE YOU"が流れてくる。この曲は3日間も流れっぱなしだったそうだ。

「愛は永遠かな?」と問いかけてくるトミーに、ヘドウィグは「この曲は永遠よ」と冗談で返す。

再び曲作りに戻るトミーにヘドウィグは、「でもマジに言うとね、トム。愛は不滅だと思うわ」と続ける。「どうして?」と返すトミーに、「新しいものを生み出すからよ」とヘドウィグは語る。

「子供ってこと?」「それもあるわ」「下心ってこと?」と笑いながらヘドウィグのお尻を掴んだトミーだが、ヘドウィグは笑わなかった。ヘドウィグはトミーのおでこに、銀色の十字架を描いた。「次のコード、Dはどうかしら?」とヘドウィグから提案され、トミーは曲作りを続ける。

"ALWAYS LOVE YOU"が再び流れる。トミーはトレーラーハウスのカーテンを全て閉め、ヘドウィグに対し手を差し伸べた。ヘドウィグはトミーの手を取ると、「古からの言い伝えを実感した」

ヘドウィグの目には、「泥のような化粧品の涙が溢れた」。

イブがアダムの中に戻れば楽園に戻れると話すトミーに、「解釈はお任せするわ。でも、やってる時はキスしててね」とヘドウィグは自分の股間を触らせる。

1インチの肉塊に触れたトミーは、手を引っ込め、「何、これ」と固まってしまう。ヘドウィグは「あたしにはこれしかないの」と返すが、トミーは狼狽えながら「母さんが、探してる」とヘドウィグから離れようとする。「何ビビってんのよ!」とキレるヘドウィグに、「愛してるよ」と返すトミーだが、「だったらあたしを正面から愛してよ」とヘドウィグに追い縋られ、出て行ってしまう。

 

曲のイントロが流れるが、ヘドウィグは泣き崩れてしまい、歌うことができない。

駆け寄るイツハクにマイクを持たせたヘドウィグは、ステージから降りてしまう。

 

♪. LONG GRIFT

イツハクがヘドウィグの代わりに歌う。

ステージの隅に戻ってきたヘドウィグは、ライトの当たらない中でハモリを口ずさむ。

 

曲が終わる。ヘドウィグは、「ここ、いいわね。優しくハモリを歌ったオーブンの中みたい」とステージの端から戻ってくる。

ヘドウィグはイツハクの歌を褒める。「これならメインボーカル2人でいけるかも。ドイツ人とユダヤ人、対照的じゃない?きっとウケるわよ。神々も恐れをなすわ」と冗談めかすヘドウィグに対し、イツハクは笑ってステージを出ていく。

 

ステージに残されたヘドウィグは、再び歌い始める。

 

♪. HEDWIG'S LAMENT

♪. EXCUISITE CORPSE

曲の途中でヘドウィグは発狂したようにウィッグをむしりとり、ドレスとヒールを剥ぎ取り、倒れ込む。

 

アウトロが終わると共に、歓声が響く。

ここがヘドウィグのライブ会場ではないことがわかる。銀色の十字架がおでこに描かれた男はトミーで、ベースを抱えてマイクの前に立つ。

「今から歌う曲は、昔ある人のために書いた曲だ。彼女が今どこにいるかは分からない。でも、みんなが静かにしていてくれたら、きっと彼女にも聞こえると思う」とトミーは曲紹介し、歌い始める。

 

♪. WIKED LITTLE TOWN

 

曲が終わり、歓声が止み、ベースを下ろす。

全てを脱ぎ去った姿で立つヘドウィグの元に、イツハクがウィッグを持って寄ってくる。

ヘドウィグにウィッグを被せようとするイツハクの手を、ヘドウィグは止める。

そして自分でウィッグを手に持ったヘドウィグは、イツハクにウィッグを被せ、背中を押して送り出す。

ヘドウィグが右の拳を上げると、曲が始まる。

 

♪. MIDNIGHT RADIO

 

歌い終わり、ヘドウィグは会場を出ていく。

ドラァグクイーンの姿に戻ったイツハクも会場を出る。

会場の扉が閉まる。

 

暗転

 

萌えポイント

ようやくあらすじを書き終わりました。いつも思うんですけど、あらすじが全然粗くない…。

思い出したものを全て書き残していたら、すごい分量になってしまうんですよね。

1時間50分と、一般的な舞台に比べると短い公演時間でしたが、それだけ中身が詰まっていたので、当然それだけ萌えたポイントもあります。

なんせ歌やダンスが多いので、アイドルオタクとしても見どころが多いんですよね。

とりあえず、そっちもひたすら書き残そうと思います。

 

・TEAR ME DOWN

オープニング曲なので、なんせ楽しい。優雅にマントを振り回す姿が美しい。

振付師はついておらず、フリーでパフォーマンスしているらしいので、日によって微妙に違うのが見どころです。

私がこの曲でキュンときた振り付けは4つくらいあります。

・「上と下」

ここで左手で口元を隠し、右手で股間を隠してたのが良かったです。

・雑に十字を切る

神様をはっ倒しそうなオーラがありました。

・三つ指をつく

三つ指をつくって、仕草としてはお淑やかとか、良妻賢母とか、そういうものを思い起こさせるはずなのに、少なくともTEAR ME DOWNのヘドウィグにそんな弱さは微塵も感じさせない。そこが良い。

・中指を立ててからの手招き

中指を立てる推し、良いよね。しかも手招きがちゃんと手の甲を床に向けて指を動かすアメリカンジェスチャーだったのも良かったです。

そして中身が丸山さんなので、ヘドウィグの目線ファンサがえぐい。どこの席にいても、目があった気分になって帰れる。特に"Enemies and adversaries"のところで、目線を振ったり指さしたりするところが好きでした。「ヘドウィグ様…」ってなります。

 

・ゴシップ記事の写真

パンフレットの最後のページにも乗っていますが、ここのトミーの写真の丸山さんがめちゃくちゃ好きです。目の下にアイメイクをしているところも良いし、ファンへの呼びかけ方が"TOTS"(舞台では「良い子たち」)なのも良い。

あと右下に載ってるヘドウィグの写真の顔の骨の感じが、完全に日本人離れしていてすごい。

この記事を売って欲しい。

 

・THE ORGIN OF LOVE

この曲のヘドウィグ様の神秘性は、思わず手を合わせたくなります。

低音の響きも素敵ですし、何より雷神トールの"I'm gonna kill them all with my hanmer like I killed giants"というセリフパートの歌い方と、ゴッドの"No, you better let me use lightening like seissors, like I cut the leggs of whale and dinosaurs into lizards"のセリフパートの歌い方の違いがめちゃくちゃ良かったです。特にゴッドの方は、地を這うような低音が恐ろしさを感じさせて、英語が聞き取れなくても恐ろしいことが起きようとしているのが伝わってくる。

歌い方で言うと、終盤の"Looking through one eye"の"eye"の伸ばし方がすごく切なくて、伴奏がなくなってヘドウィグの歌声だけが残ったときに鳥肌が立ちました。

丸山さんって時々歌い方がミュージカルっぽいというか、一曲の中で別人のように歌ったり感情を変えたりするのが上手いなと思っていたのですが、この曲でそれがめちゃくちゃ堪能できました。最初の穏やかに語る感じから、神々の怒りに触れた後の響く低音、切り離された後の切なさがたまらなかったです。神々しくて手を合わせそうになりました。

あとジェスチャーのバリエーションがすごい。特に"one eye"のところで片目を隠すのも好きでしたし、"Cause you had blood on your face"と"I had blood in my eyes"で、赤いマニキュアの塗られた爪を目の横に添えて血の涙を表現するのも大好きでした。

歌い方から伝わってくる感情とジェスチャーのおかげなのか、英語で歌われているのに完全に歌の内容が理解できてしまうという神秘体験みたいなものを味わってしまって、息が何回か止まりました。

 

・ルーサーとの出会い

ここのヘドウィグのエロさと可愛さが止まりません。

シュガー・ダディ、ルーサーから貰ったグミを味わうシーンの「今まで食べたクマのグミとは全然違う味だったけど、断然甘くて、大きくて、奥歯の奥でぐにゃぐにゃと曲がった」という語りの効果音がベースなのも、めちゃくちゃエロいんですよ。質感とか味、大きさの描写が、ルーサーからフェラさせられることを連想させるんですよね。

その後の、「悪くない…♡」って言いながらうっとりした顔で頬に手を当てるところが、イチオシ双眼鏡ポイントでした。ルーサーに顔を見つめられたのを思い出しながら、頬に手を当てたまま回想を続けるヘドウィグがエロすぎて、変な気持ちになりました。特に3月6日の昼公演では、このシーンめちゃくちゃ吐息が多くて、ヘドウィグの顔を双眼鏡で覗きながら、耳にはヘドウィグの吐息が響いてくるという時間が1分ほど続いて、めちゃくちゃ興奮しました。

その後、スネアロールに合わせて「ネッコ・ウエハースが3つ、パチパチキャンディー、ミルキーウェイ」という台詞を言うところで、3のジェスチャーが親指と人差し指と中指で、2のジェスチャーが親指と人差し指だったのも最高でした。

 

・SUGAR DADDY

エロさと可愛さは続きます。

アメリカ国旗の柄の入ったテンガロンハットをかぶり、SUGAR DADDYを披露するヘドウィグ。

腰を振ったり、マイクスタンドを足の間に挟んだり、四つん這いになったり、股間を手で撫でたり、マネキンの頬を舐めてからキスしたり、「色気」とかいう生優しいものではなく、完全に「エロ」を意識したパフォーマンス。

可愛いし媚も感じるけど、弱さがないのが良い。能動的。

あとセリフ部分でルーサーから「オーベイビー、きっと君に似合うと思うんだ。ベルベットのドレスに、ハイヒールに、アーミンの毛皮のストール」と語りかけられるところで、少年のような表情で蜂蜜のようなものをスプーンで舐めるヘドウィグも好き。からの「愛しいルーサー、神に誓うわ、あたし女の服なんて着たことない」の媚びた声も好きですし、「でも一度だけ、着たことがあるの、母さんのキャミソール!」の勢いも最高です。

そしてその後のサビで歌う合間に「男ってほんとに愚か!」とか「女の子がんばれ♡」「がんばれアタシ♡」を日によって入れてくるところも、なんかわからないけどめちゃくちゃニヤけました。

私が一番好きなのは「がんばれアタシ」バージョンです。

この曲はシンプルに楽しい。

 

・ANGRY INCH

TEAR ME DOWNの力強い歌い方からの、THE ORIGIN OF LOVEの伸びやかな歌声からの、SUGAR DADDYのポップさからの、ANGRY INCHのロックです。

丸山さん、まじで声何種類あるの?って思います。

あと曲終わりに、胸と股を隠して内股になるようなポーズで終わるのも好きでした。

 

・WIG IN A BOX

これもシンプルに楽しい曲シリーズ。

最初のボリューミーなウィッグの下に金髪の方くらいの長さのウェービーなウィッグが仕込まれていて、これを一つに結んでいるのも好きでしたし、一番最初にこの曲でかぶる前髪のある茶髪のロングヘアのウィッグもめちゃくちゃ似合ってました。

何度も出てくる"I put on some make up"のところのお粉を叩くように頬に触れる動きからの、鏡を見て満足するような表情の変わり方に、色気と可愛さがありました。

"suddenly I'm this punk rock star of stage and screen"でウィッグをかき乱して歌うのも最高でした。

あと後ろで着替えるときに、黄色のドレスを下から履くので、下は見えないまま着替え終わるんですけど、上は普通に脱ぐので、急におっぱい出てきてびっくりしました。

隠されていると、見てはいけない気がするよね。

ドレスを着るときにイツハクに後ろのファスナーを閉めてもらうのですが、巻き込まれないように髪の毛を持ち上げていたのが、リアルに髪の長い人の動作って感じで生々しくてグッときました。

その後、アウトロで他の楽器と絡むときに、テンション上がりすぎてもう一つのウィッグをつけてもらうのを忘れて、後ろからイツハクにぽんぽんと背中叩かれて、思い出したようにしゃがんでたのも良かったです。

 

・EXCUISITE CORPSE

この曲の壊れる寸前ギリギリの表情のヘドウィグがすごく魅力的でした。

イっちゃった感じの顔で機械のように踊る日もあれば、スイッチが切れたように呆然と立ち尽くす日もあったり、あるいは崩壊していく痛みに苦しむような表情を見せる時もあって、どれも最高でした。

そしてウィッグを取り去り、ドレスの中から生まれる美。

マジで体が美しいんですよね。寝転がったまま靴を脱ぐところも最高でした。

後ろのモニターのライトが強いのでシルエットしか見えないのですが、もがき踊るヘドウィグの身体がとてもしなやかで美しかったです。

その後、うつ伏せになって自分でメイクを落として銀色の十字架を額に描くのですが、そのときに鏡を見ながら少し髪を直している感じとかが生身の人間って感じで好きでした。

 

・WIKED LITTLE TOWN

トミーとヘドウィグの1人2役をこなすわけですが、この曲は完全にトミー。

少し甘く幼い喋り口調や歌い方、そして立ち方が、完全にトミーなんです。

パンイチでベースを持つ丸山さんの身体が美しすぎて、これこそが完全体だなと思いました。

 

・MIDNIGHT RADIO

色々な声のバリエーションを持っている丸山さんですが、この曲はさらに別物。

お腹から響くような力強い声と、神様みたいなおだやかでありながら強さのある笑みと、「完全」というものを理解せざるを得ないような美しい身体に、うっとりと脳みそが煮込まれました。

どの曲も最高だったはずなのに、油断するとこの曲に全ての記憶が持っていかれる。

"you're shining"や"you know you're doing all right"、"so hold on each other"と語りかけられると、救いのようなものを味わってしまう。あまりにも神々しかった。

 

・カーテンコール

再び出てきた時の丸山さんの立ち方や歩き方が、いつもの丸山さんで安心する。

そして少し小走りで出てきたときに揺れるおっぱいに目がいく。

バンドに対して拍手をするときに後ろを向いて両手をいっぱいに広げる丸山さんの背中から腕の筋肉にほれぼれする。

なんか神々しかったはずなのに、帰路に着く頃には煩悩まみれでした。

 

考察

欲望まみれの萌えポイント語りをした後に、真面目にストーリーを考察するのもどうなんだろうとは思いますが、ここまで来たからには思っていること全部書いてしまおうと思います。

 

・パンフレットp.14~15の写真について

パンフレットの丸山さんのインタビューのページの後に、ボロボロの白のロングTとジーパン姿のビジュアルが載っています。同じ写真が舞台のメインビジュアルにも大きく載っています。

写真:

 

 

ウィッグをかぶっていないこの姿を、私は舞台終わりに見て直感的に「ハンセルだ」と思いました。

なぜそう思ったのかすぐにはわからなかったのですが、ポーズの弱さとまるで壁の向こうを見るように上に向けられた視線、そしてシャツに書かれた"ZOO YORK"の文字が、自由を夢見る少年の姿に見えたのかなと思います。

 

・ヘドウィグはトランスジェンダー

トランスジェンダーは身体の性と心の性が一致しない状態を指す言葉ですが、ヘドウィグがはたして自分のことを女性と認識していたのかと考えると、私は違うのかなと思ってしまいます。少なくとも自ら性転換手術を望んでいたようには見えなかったなと思います。

まず、ヘドウィグの回想でのハンセルの一人称は常に「ぼく」です。一人称だけで判断すべきではないのかもしれませんが、ハンセルは自分が男であることに違和感はなかったのかなと思います。

そしてハンセルが女の格好をするようになったきっかけは、ルーサーです。

SUGAR DADDYの中でも、ハンセルが母親のキャミソール以外に女物の服は着たことをないことが分かります。また、"so you think only a woman can truly love a man? well, you buy me the dress, I'll be more woman than a man like you can stand"という歌詞もありますが、あなたが望むなら女になってあげるというようなニュアンスが近いかなと思います。

ハンセルおよびヘドウィグが、ゲイである(=恋愛対象が男性である)のは間違いないと思いますが、女性の格好をするのは、あくまでアメリカに行くための手段であり、好きな男に尽くす手段なのかなと思います。

また、性転換手術についても、ルーサーと母親にほとんど騙されるような形で受けさせられていることから、自らが望んで性転換をしたという印象は受けませんでした。

最後にドレスやウィッグやヒールを脱ぎ、イツハクにはウィッグを被せるところを見ても、女性の格好をやめることが解放をイメージさせるなと思いました。

 

・WIG IN A BOX

ヘドウィグがトランスジェンダーではないという前提に立って考察すると、WIG IN A BOXによって女性の格好をすることへのヘドウィグの心情が理解できる気がします。

アメリカに渡ったものの、自分が性転換手術を受けて故郷を捨ててまで超えたかった壁がすぐに崩壊してしまった上に、ルーサーにも捨てられ、ヘドウィグの心はズタボロだったと思います。そういう状況でのWIG IN A BOXの"I put on some make up turn on the tape deck and put the wig back on my head suddenly I'm Miss Midwest Midnight Check out Queen"という歌詞を聞くと、メイクやウィッグがヘドウィグの心の支えだったのかなと思います。

メイクをすることによって変身して強くなれる、みたいな心境はよくあるものなのかなと。

メイクやウィッグを好むことと、女性になりたいという願望は、似ているようで違う気もするので。

 

・LONG DRIFTからMIDNIGHT RADIOへの心境変化

この終盤の場面、あまりセリフが多くないので分かりにくいのですが、私の推測はこんな感じです。

LONG DRIFT

ここまでヘドウィグはイツハクの歌を意地悪な形で邪魔する場面が何度もありますが、突然イツハクにメインボーカルを歌わせ、さらにそれを褒めます。

LONG GRIFTの歌詞はトミーに対するヘドウィグの感情だと捉えるのが一番分かりやすいですが、これをイツハクが歌うことによって、イツハクからヘドウィグへの曲にも捉えられるようになる気がします。ヘドウィグはイツハクからウィッグを奪い、男として、自分の旦那として生きるように交換条件を出すわけですが、ヘドウィグはこの曲を聴いて自分がイツハクを縛り付けていた罪悪感のようなものを感じたのかなと思っています。

しかしその後、2人で歌おうと言ってきたヘドウィグを笑いながら拒絶します。その直前のヘドウィグのセリフに「神々も恐れをなすわ」という言葉がありますが、これはTHE ORIGIN OF LOVEの歌詞を思い出させます。つまりヘドウィグの言葉は、ヘドウィグとイツハクが組めば神々が恐れをなす完全体になれる、ヘドウィグのカタワレはイツハクであるというような言葉にも捉えられるのかなと。しかし、ヘドウィグのカタワレがイツハクではないことはイツハクも理解しているし、ヘドウィグも本気ではそう思っていないと考えると、イツハクの笑いは、中途半端な同情で逃げてんじゃねえよ、妥協してんじゃねえよというような意味が近いのかなと感じます。

再び愛しあえると思ったトミーが自分の名前をおくびにも出さないことや、イツハクに拒絶されたこと、そして過去の回想、これらが「ヘドウィグ」を崩壊させるのかなと。

 

・ヘドウィグの呪い

MIDNIGHT RADIOの前、ヘドウィグはイツハクにウィッグを被せ、背中を押して送り出します。

私はヘドウィグが全てを脱ぎ去って解放されるためには、ヘドウィグがイツハクを解放する必要があったのではないかと思っています。

ヘドウィグがイツハクと出会ったシーンの「あたしの顔はあの時の母さんの顔くらいピクリともしなかった」や「何かを得るためには何かを手放さなければいけない」というセリフは、明らかにヘドウィグの姿が母、ヘドウィグ・シュビットと重ねられていると感じました。

そして「ヘドウィグ」という名も、母親のものです。イツハクに歌を歌わせない姿も、ハンセルが歌を歌うとトマトを投げてきた母親の姿にリンクしているのではないかと思いました。

ヘドウィグが母・ヘドウィグから解放されるためにも、イツハクをヘドウィグ自身から解放してあげることが必要不可欠だったのかもしれません。

 

・つぐないツアー

最後にトミーについての考察です。

トミーのツアータイトルが「つぐない」であることは、ヘドウィグのセリフから分かります。

また、1枚目のアルバムは全曲ヘドウィグが書いたものですが、2枚目の自分で書いたアルバムの売り上げは散々だったと語られていました。そして「絶不調だった人気を救ってくれたつくないのお話も作れなかったくせに」というヘドウィグのセリフから、つぐないのお話(あるいは歌)は2枚目のアルバムの後にリリースされたものではないかと推測されます。

時系列的にはこんな感じです。

 

・1枚目のアルバムの発売

(ヘドウィグが作った曲、TEAR ME DOWNなどが入っている)

・2枚目のアルバムの発売

(トミーが作った曲、売り上げが下がった、人気が絶不調)

・つぐないの歌が発売

(ヘドウィグのおかげで作れた、人気が戻る)

・つぐないツアー初日(今日)

 

恐らく「つぐないのお話」というのは、トミーが最後に歌ったWICKED LITTLE TOWNのことだと思います。

"forgive me"から始まり、"now I understand how much I took from you"という歌詞からも、「つぐない」という内容に一致しているように感じます。また、歌詞はヘドウィグが書いたものとは別のものであるため、ヘドウィグの「つぐないのお話も作れなかったくせに」という言い回し(つまり作ったのはトミー自身であるということ)とも一致します。

1枚目のアルバムは全曲ヘドウィグが書いたものだということは、WICKED LITTLE TOWN以外の全曲は、1枚目のアルバムに収録していると思われます。

そう考えると、どうしてトミーが初めてバーで聴いたWICKED LITTLE TOWNを1枚目に収録しなかったのかというのが考察ポイントになってくるのではないかと。私の推測では、トミーにとって最も思い入れのある曲を発売することに抵抗があったのかなと。

感想

あらすじや考察を書き終えて、また少し寂しくなってしまいました。

もちろん終盤のウィッグやドレスやメイクを脱ぎ去った後のヘドウィグも美しかったのですが、ドラァグクイーンでありロックシンガーであるヘドウィグの力強く可愛く色気のあるパフォーマンスがものすごく魅力的で、あのヘドウィグをもう見れないのかと思うと喪失感があります。

私は結構舞台やコンサートを見ていても、頭の端では何か別のことを考えている感覚があって、熱中しきれない人間なのですが、ヘドウィグ・アンド・アングリーインチではものすごい没頭感がありました。

頭の10割が今見ているもの、聞こえているものに浸っていて、呼吸することも忘れ、全身がぶわっと沸き立つような、そんな感覚を初めて経験しました。公演が終わるたびに魂を吸い取られたような疲労感で、だからこそとても楽しかったです。

 

この記憶は心の中に大切にしまって、つらい時や苦しいときに引き出そうと思います。